表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/30

第七話 光の巫女

「――おい、アディナ、しっかりしろ」


「……あぁ……あれ? の、ノア君? 精霊様はどこに行ったのかしら」


「やっと目が覚めたか……。精霊はもう帰ったぞ。俺達に小鬼の討伐を依頼してな」


 精霊が去った後、俺はひたすらアディナに声をかけ続けていた。アディナはおよそ十五分で目を覚ましたが、俺と精霊の会話は全部記憶にないらしい。


 しょうがないので、俺は精霊との会話の内容や小鬼の討伐依頼についてなど、大事な情報を詳しく説明した。幸い、討伐依頼を勝手に請け負ったことは責められなかった。アディナも小鬼相手なら問題ないと判断したのだろう。


 これで必要な情報を一通り共有できた。しかし、アディナに聞かなければならないことが一つある。それは、今回精霊と対峙したことで発生した意識の混濁のことだ。


 あまり人の過去を詮索したくはないのだが、こればかりはさすがに許容できない。

 今後、もし戦闘中に同じことが発生したら命に関わることになるからな。アディナの話を聞いて何が原因なのかを明確にできたら、改善する方法や防止する方法が判明するかもしれない。

 とにかく今は情報が欲しかった。


「精霊が、アディナの身には強い光の力が宿っていると言っていた。……今回起きた意識の混濁や記憶の消失は、それが原因の可能性が高い。……詳しく、話してくれるな?」


 俺がそう言うと、アディナは顔をしかめた。……やはり触れられたくない話だったか。

 まぁ、無理もないだろう……奴隷の首輪が付いているくらいだ。壮絶な過去をもっていることは想像に難くない。


「無理はしなくて良い。話す内容も抽象的で構わないから、何か話せるものは――」


 アディナに少しでも安心してもらおうと、笑顔を向けようとしたその時、俺は見てしまった。



 彼女が俯き、静かに涙を流す姿を――。



 ――その瞬間、俺は周囲の時間が止まったかのような錯覚に陥った。そして同時に後悔した。浅はかな考えで彼女を問いただした自分を憎んだ。



 “戦闘中に発生したら命に関わる”だと? そんなもの、俺が守れば良いだけじゃないか。

 “改善、防止する方法が判明するかも”だと? それも、俺が見つければ良い話じゃないか。



 結局、俺は彼女に甘えていたのだろう。……追放され、一人になり、拠り所を求めた俺に対して居場所を与えてくれた彼女に……。



「……すまない」



 俺はそう呟くのが精一杯だった。


 その言葉を聞いた彼女は、首を横に振り、無理矢理に微笑む。


 それを見て俺はまた、自らの失敗を悟る。――何故謝った? 何故許しを得ようとした? 俺が謝れば彼女はそれを受け止め、無理にでも飲み込もうとするに決まっているじゃないか……。


 何が天才だ……何が神童だ……人一人の心も救えずして、一体何を誇れるというのか。


 ……そうだ。今やるべきは、原因の究明でも、症状の改善でも、ましてや許しを請うことでもない。


 彼女の――アディナの心を救うことだ。以前俺が、アディナによって救われたように……。


 その為には、“今の俺”では力不足だろう。

 今の俺では、彼女という大きい存在にただ埋もれることしかできない。


 ……ふぅ、集中しろ……よし、やるぞ。


 俺は右腕の魔素を無理矢理全身に行き渡らせ、肉体の各細胞一つ一つに働きかける。やることは活性化と、具現化だ。途轍もない痛みが全身を襲うが、気力でもってねじ伏せる。


 少しすると、俺の体が光を帯び、結晶のような煌めきが放出され始めた。


 アディナも俺の異変に気がついたのだろう。涙を流すことも忘れ、唖然とこちらを見つめている。……ふっ、これだけでもやった甲斐はあるが、まだまだ終わってはいないぞ?


 全身に魔素が行き渡り、完全に細胞が活性化したのを見計らうと、俺は絶対的な意思を以って全魔素に命令を下した。



 ――”未来の俺を、具現化しろ”。



 おれの命を受けた魔素が動き始め、少しずつ、だが確実に未来を形づくっていく。手、腕、脚、胴など、肉体の全てが急激に成長する感覚は、この上ない万能感と全能感をもたらした。


 やがて、体がひと際強く輝いたかと思うと全身の成長がとまり、次第にその光も収まっていった。


 ……ふむ、身長は百八十センチメートル前後か、アディナが大分小さく見える。恐らくは成功したと思うが……生憎、鏡などの反射物は持っていないので、容姿の確認ができない。……残念だ。


「ッ……の、ノア君、なの?」


「ああ。魔素を利用して、十年後の未来の姿を具現化したんだ。変化の方向性に関しては、俺の意思を介入させずに各細胞に任せた。だから、何からなにまで正確に具現化できているはずだ。まぁ、そんなことはさておき――」


 アディナは変化した俺をみて、ノアか否かを確認してきた。傍から見るとそんなに違うのだろうか? とりあえず、端的に答えておく。俺の予想では、この姿は長くもたない。現に今も、いくつかの細胞が元の状態に戻り始めている。……急がないとな。

 俺は未だに唖然としているアディナに近づくと、その小さな体を“正面から”優しく抱きしめた。


「ふぇ?」


「……ふっ、これで対等になれたな。……俺に甘えはもうない。そして、守られるだけの存在でもない。……守ってみせるさ……必ず」


 俺が決意を新たにしていると、突然全身が虚脱感に包ままれた。……もう、時間切れか……思ったよりも早かった、な。


 意識が朦朧としている中、アディナが何かを喋っているのが遠くで聞こえるが、その内容まではわからない。今回は明らかに無理をし過ぎた……後悔は全くしていないがな。


 クソッ、守ると言ったそばからこれだ。頼むから魔物よ――今だけは絶対に来ないでくれ。

 その思考を最後に、俺は完全に意識を失った。









 暗いまどろみから、意識が覚醒するのを感じる。

どこか、遠い場所の夢を見ていたような。俺はそんな不思議な感覚に浸っていた。頭が規則的に撫でられており、それが心地良い。背中に広がる柔らかい感触も……ってあれ?


 完全に目が冴えた。そして、自分自身が置かれている状況を改めて認識する。


 ……なぜアディナは、俺を膝の上に座らせているのだろうか? ……今魔物が襲ってきたらどうするんだ。非常に危ない。ここは魔の樹海だぞ?


「あの、ここは、魔の樹海なんだが……」


「あら、その魔の樹海で気絶した人が何を言ってるのかしら? 気絶に比べたら、座ることくらいどうということはないわ」


 ……おっしゃる通りで。……ぐうの音も出ない。


 仕方なくアディナに撫でられながら、俺は自身の体を確認した。……全て元に戻っているな……痛みも殆どない。一先ず安心だ。


「……ノア君、私の話を聞いて欲しいの」


 突然アディナがしおらしい声でそう呟いた。

 話とは恐らく、自身の過去に関することだろう。


「……いいのか?」

「ええ……。ノア君には、知る権利があるわ」


 知る権利? 一体どういう――

 俺の疑問を遮るように、アディナは自分の過去を、そして俺の過去を語り出した。


 アディナはとある国の良家出身らしい。十歳の時に政争が発生し、両親を目の前で殺され、自身は命からがら逃げだせたのは良いものの、サバイバル生活を余儀なくされたようだ。


 そして、心身ともに疲弊していたところを奴隷商に捕らえられ、あの大司教に買われたという。

 ……壮絶過ぎるな。父親からの虐待で文句を言っていた俺の小ささが身に染みる。


 その後、アディナは大司教の命令によって転真の儀を受け、前世の記憶の覚醒と共に“力”を手にしたようだ。


 ふむ……確か、転真の儀を五歳の時に受けるよう教会によって義務化されたのは、四年ほど前だったな。今では考えられないことだが、義務化される以前は転真の儀を受けたことがない者は多くいたらしい。


 とりあえず、今の話でアディナが前世の記憶を持つ転生者であることはわかった。


 それにしても“力”か……転真の儀を受けて前世の記憶が覚醒した者は、その記憶に由来する能力が得られるのだが……。


「その力が、光に関係するものなのか」


「ええ、私が得たのは“聖導”という力よ。他人の秘められた才能や心の光、その本質を見ることができるの。大司教はこの力を利用して、優れた才能を持った者を見つけ出し、自分の駒にしようとしていたのよ。……そして、ノア君もその内の一人」


「……どういう意味だ?」


「……ノア君……あなたは、ヴァルグリンド家の血を引いていないのよ」


 なんだと!?

読者の皆様にお願いです。


【ブックマークへの追加】


【画面下の「☆☆☆☆☆」から評価】


をしていただけると、とても励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ