表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/30

第二十八話 名もなき孤児

他者視点です。

 うっ、うぅ。


 体中が痛い。くらくらする。

 ここは、どこだろう。

 辺り一面、真っ暗闇で何も見えない。


「――かないのか? いつまで待たせるつもりなんだ」


 誰かの声が聞こえた。

 この声、聞き覚えがある。


 ……たぶん、わたしが孤児院の外へ出た時に話しかけてきた人と同じ声だ。確か“大司教”とか言っていたような。そのあとわたしは――


 ッ!?


 そ、そうだ、そのあとわたしは頭から何かを被せられて……そこからは記憶がない。


『誘拐』


 その言葉が頭に浮かんだ。

 うぅぅ……。鼻の奥がツンとして涙が溢れてくる。


 零れ落ちそうになる涙を必死にこらえていると――綺麗な鈴の音が一瞬聞こえた気がした。

 その音のことが不思議と気になって、涙で視界がぼやける中、音のした方向へと目を向ける。


 その結果わたしは、“それ”を見つけてしまった。


「ッ――」


 “それ”を目にした瞬間、全身が恐怖で震え、体の制御が利かなくなった。この感覚をわたしは知っている。


 これは“死”だ。“死”そのものだ。

 孤児として生きてきたこれまでのわたしの経験が告げている。今すぐここから逃げろと。


 他人の死、親しい者の死、その他にも多くの死を見て、感じてきた。けど、今わたしの目の前にいる“それ”は、そんなものとは比べ物にならないほど濃密な死の気配を放っている。



 ――“死をもたらす者”がやってきた。



 怖い、死にたくない。


 わたしは這いずるように部屋のすみっこへと移動した。

 涙でぐしゃぐしゃになった口元を両手で押さえて、必死に息をひそめる。


「フン、やっときたか。……おい、ローブは脱がないのか? 全く、依頼主に顔も見せないとは、無礼な奴だ。“伝説の殺し屋”といえど、所詮その程度か」


「……」


「チッ、まぁいい。殺してもらいたい人物がいる。ノアという名前の子どもだ。年齢は五、性別は男。どんな手を使ったのかしらんが、魔の樹海を越え、今はファウストの街にいるようだ。金をふんだんに使って得た情報だから間違いない」


 殺し屋……きっと何人もの命を奪ってきたんだ。だから死の気配が濃いんだ。


一命一殺いちめいいっさつ、だったか? 人一人の命を対価に、殺しを請け負うと聞いた。適当な孤児を見繕ったから、そいつを殺してさっさと行け」


 孤児、という言葉に思わず肩が震えた。


 そ、そんな……ここで、わたしは、死ぬの……?

 血の気が引き、目の前が真っ暗になる。あまりの恐怖に意識が遠のいていく。


「ああそれと、アヴィリオン中立都市には逃げられないように注意しろ。あそこは教会の目が行き届かない場所だ。情報が全く得られなくなる。それに、忌々しいことに治安もすこぶる良いからな。逃げられたが最後、二度と手出しできなくなってしまう」


 アヴィリオン……治安……。

 言葉が一部しか聞き取れない。


 こんなところで意識を失ってしまったら、殺されてしまう。早く逃げないと。

 意識が朦朧とする中、必死にこらえて体を動かそうとするも、力が入らない。


「クソッ、あいつさえいなければこんなことにならなかったものを。今回私が投獄されたのも奴の仕業に違いない。ああ、そうに決まっている。あいつが私を陥れようとしているんだ。全てを見透かしたような顔をしおって――だがこれで奴も終わりだぁぁああ! アッヒャッヒャッヒャッヒャッ!」


 狂ったような笑い声が遠くで聞こえる。

 こんなところで、死にたく、ない。


「アッヒャッヒャッ……そうだ、良いことを思いついたぞ。お前、私の部下にならないか? 人間ならいくらでも取り寄せることが可能だ。好きなだけ殺させてやる。その代わりに私の指示を――」



 ――空気が震えた。



 直後――ドサッと、何かが倒れる音が耳に届く。

 な、なにが、どうなって――


「――愚かですね」


 ひぃっ!?

 恐ろしいほど冷たく、無感動で、それでいて美しい声が聞こえてきた。


「ワタシは命を引き換えに殺しの依頼をお引き受けいたしますが、どの命でも良いというわけではございません。ご依頼主ご本人様の命と引き換えでございます。……では、確かに……ご依頼を承りました」


 そして綺麗な鈴の音が再び聞こえたかと思うと、周囲から死の気配が完全に消え去った。

 “それ”の姿はどこにもなく、後に残ったのは一つの死体とわたしだけ。


 た、助かった、の……?


 わたしはもう、限界だった。

 緊張の糸が切れたことで全身の力が抜け、意識が暗い場所へと沈んで行く。



 ――アヴィリオン……そこに行けば、幸せに暮らせるのかな……?



 そんなことを思って、今度こそ私は意識を手放したのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

読者の皆様方にお願いです。


【ブックマークへの追加】

【画面下の「☆☆☆☆☆」から評価】


をしていただけると、とても励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ