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第二十六話 恐怖の襲来

「ホムラ! 街の中に魔物が複数体出現した!」


「なに!? どういうことだ!?」


 俺にもよくわからない。街のあちこちにいきなり魔物の気配が出現したのだ。


 俺はずっと意識を拡散させてゴブリンどもや街の住民達の動きを捉えていた。だから断言できる、外部から魔物は入り込んでいないと。

 ……空間転移か?


 知り合いに空間転移に似た能力を持っている者がいたから、ある程度それに関する知識はある。空間転移の使い手は味方にいると頼もしい。だが、敵側にいると非常に厄介な存在だ。


「空間転移の可能性がある。それと、残念な知らせだ。魔物が出現したのと同時に、すぐ近くにいた人間の気配が消失した」


「ッ……」


 既に被害が出てしまったことをホムラに告げると、彼は強い怒りと嫌悪感が入り混じったような表情を浮かべた。この表情は前にも見たことがある。

 ホムラと初めて会った時、教会についての話題になったらホムラが激怒したことがあった。その時と全く同じ表情だ。


「街の中には腑抜ふぬけた騎士団とCランク未満の冒険者しかいない。急いで対応しないと被害は増える一方だぞ。俺が向かってもいいが……ホムラ、どうする?」


 俺は街の中に出現した魔物の位置を正確に認識できる。だから俺が街へ向かえば、被害を最小限に抑えることが可能だ。


 しかし正直なところ、俺が向かっても向かわなくても全体的な被害に変わりはないだろう。

 俺が街へ行った場合、街の被害は確かに減る。だけどここで戦っている冒険者達の被害は増えてしまう。反対に俺が街へ行かなかった場合、ここで戦っている冒険者達の被害は減るが、街の被害は増えることになる。


 ゴブリンどもは南から侵攻してきたから、奴らの本拠地は南にあると思われる。その正確な位置や規模が未だに不明確なため、長期戦も視野に入れなければならない。そうなると、貴重な戦力である冒険者をここで失うのは痛手だ。


 他の冒険者が動くというのは論外だな。彼らには彼らの役割がある。自由に動くことができるのは、遊撃を任された俺だけだ。もし、俺以外の人間が動いてしまったら作戦に穴が生じ、戦線を維持できなくなる可能性が高い。


「……それは、坊主が決めるべきだ! オレはその決定を尊重する!」


 呼吸を整えたホムラはそう言って、俺の肩を叩いた。


「……なら、俺は街へ向かう。ここは任せたぞ、ホムラ」


「おう! 任せておけ! 坊主も頑張れよ!」


 俺はここにいる冒険者達を見捨てることにした。


 この俺の選択によって、死なずに済んだはずの者が死ぬことになるだろう。冒険者という危険な仕事に就いている以上、相応の覚悟はできていると思う。が、未来ある若者の命が自分の選択で失われるという事実に、何とも言えないむなしさを感じた。


 五歳にしてこの決断を下す機会を得られたことを、俺は誇りに思う。


 冒険者一人一人を視認して、全員の顔を覚える。俺は君たちのことを一生忘れない。


 ――街の住民のために死んでくれ。


 そうして俺は、自身の中に渦巻く感情を断ち切るように街の中へと駆け出す。しかしその瞬間、ゴブリンの大群の最後尾あたりにふと、懐かしい気配を感じとった。この気配は――



「――ダリアか!?」



 な、なんでダリアがここに……。もしかして、婚約を解消した俺を殺しに来たのか!?

 思わず体がぶるりと震える。そんなはずは……ないよな? 


 俺はダリアから隠れるために急いで街の中に入った。


 少し心を落ち着かせてから改めてダリアの方へ意識を向けると、ダリアの周囲には複数の人間の気配があることがわかった。恐らくはダリアが雇った護衛だろう。……可哀想に……きっと馬車馬の如くこき使われたに違いない。

 俺は彼らに同情の念を抱いた。



 もうこの際、ダリアが来た理由とかはどうでも良い。……いや、良くはないが、今はゴブリンとの戦いの最中だから、そちらに集中するべきだ。

 幸いダリアの戦闘能力は極めて高い。現時点での俺と同等かそれ以上の強さを持っている。

 ダリアが来たからには、街の外の戦いは勝ちが確定したようなものだ。現に今も、凄まじい速度でゴブリンの数が減っている。


 これで俺は街の中での戦いに専念できる。そういった意味では、ダリアが来てくれたのは本当にありがたい。……お前に感謝する時が来るとはな。複雑な心境だ。



「助けてくれぇぇえええええ!!」


 気配を頼りに魔物の方へと向かっていると、進行方向から男の悲鳴が聞こえてきた。それを聞いた俺は走る速度をさらに上昇させる。

 現場に着くと、へっぴり腰の騎士が今まさに二体のゴブリンに襲われるところだった。

 その二体のゴブリンは直剣を持っている。


 ――させるか!


 俺は勢いよく地面を蹴り、ゴブリンどもに肉薄する。そして直剣を振り下ろさんとしていたゴブリンの首を手刀で斬り落とす。続けざまに残り一体の首も刎ねようとすると、そのゴブリンは俺が攻撃する瞬間に直剣で首を守った。だが――


「無駄だ」


 ――俺はその直剣もろともゴブリンの首を一刀両断した。


 わざわざ武器を具現化する必要は無い。

 基本的に武器の具現化は、俺の身長の低さや手足の短さを補うために行う。体の大きさが俺と大して違わないゴブリン相手に具現化を使うのは、あまり意味が無い。それに、具現化した武器で攻撃するより、直接右腕で攻撃した方が威力、破壊力ともに高い。


「な……あ……」


 幼児登場からのゴブリン討伐という現実に、騎士はついてこれていないようだ。目が点になっている。

 残念ながら、君に構っている暇はないんでな。先を急がせてもらう。


 俺は放心している騎士を放置してその場を離れた。


 それにしても、ゴブリンを出現させた意図がよくわからない。空間転移によって街の中に直接出現させたのだとは思うが、その転移させた者の目的が全く見えてこないのだ。

 個々の力が弱い、というゴブリンの性質上、街に大打撃を与えるのなら分散して転移させずに、集中的に転移させた方が良い。しかし、実際にはこうして分散している。全くもって謎だ。


 まぁ、こちらとしては被害が小さく済むのでありがたい。敵の意図が見えないというのは少々不気味ではあるがな。

 そのようなことを考えつつも街の中を駆け巡り、ゴブリンどもを次々と仕留めていく。


 そしてついに残すところ最後の一体となった。


 この最後の一体は街の避難所に攻め入ろうとしている。しかし、あそこはファウストの中で一番頑丈といってもいい建造物だから、ゴブリン程度の攻撃ではびくともしないだろう。とは言え、避難所にはアディナやニーナやロベルト達がいるはずだ。早く行って安全を確保してあげよう。


 避難所の方角へ進みながら街の外の気配を探る。

 俺が街の中でゴブリンを討伐している間に、街の外でも進展があったらしい。今まではゴブリンの数が冒険者の数を上回っていたのだが、たった今、冒険者の数の方が上回った。

 思っていたよりも討伐速度が速い。ダリアの力は相変わらずとんでもないな。ゴブリンどもが全滅するのも時間の問題だ。


「ん……?」


 その時、避難所の近くにいた魔物の気配が大きく、強力なものに変化した。


「進化したのか? 厄介だな」


 避難所へ着くと、そこには赤黒い魔力を纏ったホブゴブリンが居た。武器は見当たらない――素手か。奴は俺の存在に気づいたのか、俯いていた顔を上げ、こちらを向いた。

 互いの視線が交錯した瞬間に真正面から突っ込んだ。隙が無いな。


 ――無いのなら、作れば良い


「――身体強化」


 俺は肉体を極限まで強化し、動きに緩急をつけて接近する。そして奴の意識がそれた一瞬を狙い、手刀を突き出した。ホブゴブリンはそれを半歩下がることで躱して、お返しとばかりに殴りかかってくる。その攻撃を左腕で受け流し、右拳を奴の脇腹に叩き込んだ。のだが――


「――手ごたえがない」


 ……どうやら自ら後ろへ身を引き、衝撃を和らげたようだ。


 さて、どうしたものか。

 俺に武術の心得はない……となると、視線誘導や陽動などの小手先の技術でどうにかするほかないということになる。流石に街中で破壊槍を使うわけにはいかないしな。

 先程から奴にぶつけている殺気も、特に効果はないようだ。


 ふむ、まずは足を使えなくしてやろう。

 そう思って再びホブゴブリンに近づこうとした時――奴の周囲に薄暗い空間が展開され、その空間が収縮した次の瞬間には、ホブゴブリンの気配が完全に消失した。



 この能力は――



「ノア様!」


「ヒェッ」


 いきなり背後からダリアの声がして、驚きのあまり変な声が出てしまった。

 ……おかしい、全く気配が感じられないぞ。どうなってるんだ……?


 はぁ……俺は今日、死ぬかもしれないな。

 そんなことを思いながら後ろへと振り返った。

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