第二十四話 迫りくる脅威
ゴブリン襲撃の報告に来たギルド職員が部屋を出ていった後、ジェラルドと二言三言言葉を交わして俺達も部屋を出た。
帰り際、ジェラルドに「一時間後に緊急会議を行うから来てくれないか」と言われたが、俺達にも都合があるということで、任意での参加という形にしてもらった。
行けたらいこうと思う。
俺達がギルドの階段を降りると、周囲のあちこちから視線が飛んできた。
俺を見るだけならいくらでも構わない。しかし、中にはアディナやニーナにねっとりとした視線を向けている奴がいる。そういった不埒な奴には殺気をぶつけて、失神させておく。
「ノア君ありがとう」
アディナのお礼の言葉に、俺は頷くことで返事を返した。
自身に嫌な視線を向けていた冒険者達が次々に倒れたら流石に気付くか。
俺はこの一週間、ただ依頼をこなしてのんびりと過ごしていたわけではない。
樹海で遭遇したゴブリンを参考にして、“殺気の操作”や“気配の操作”が行えるように訓練を重ねてきた。さらに、少し前から目標としていた直剣の具現化時間の短縮も達成することができた。
俺は日々、急速に成長し続けている。
「……もぐもぐ」
……ニーナはまだ菓子を食べている。
帰る時にジェラルドから菓子を沢山受け取っていたから、もうしばらくこの状態だろう。食事の時はごく普通の量しか食べないニーナだが、何故か菓子になると底なしになる。
まぁ、幸せそうだから良しとしよう。
「それで、どこへ向かうの?」
冒険者ギルドの外に出たところで、アディナが疑問を口にした。
「ロベルトのところだ。ゴブリンの件を伝えに行く」
俺はそれだけ告げて、ロベルトの家の方へと歩き出す。大通りを抜けて住宅街へ入り、しばらく歩いたら、やがて小ぢんまりとした一軒家が見えてきた。
玄関の前に立ち、いつものように三回扉を叩く。
笑顔で出迎えてくれたエルゼは、俺が“緊急の要件だ”と告げると、自室にいるロベルトを急いで呼んできてくれた。
「ノ、ノア殿、緊急の要件だと聞きましたが……」
「単刀直入に言う。ゴブリンの軍勢が南から進行している。その数は約五千」
俺の言葉にロベルトとエルゼはひどく驚いたようだ。絶句したままその場で固まってしまった。二人の不安は理解できるが心配する必要はない。
「安心しろ。冒険者ギルドは既に動き出している。五千程度、十分対処可能さ」
「そ、そうですかぁ」
二人は腰が抜けたようにへたり込む。
「俺がこのことを伝えに来たのは、準備をして欲しいからだ。直に避難勧告が出されるだろう。その時に余裕を持って動けるように、事前に準備をしておいて欲しい」
「そういうことでしたか。ありがとうございます。ご自身の準備でお忙しいところをわざわざ……」
「いや、俺は特に準備することがないから、全然気にしなくて良いぞ」
通常の冒険者であれば得物を研いだり、調整したりする必要があるだろう。だが俺はこの身一つで戦える。いつでも、どこでも、どのような状況であっても、安定してその実力を発揮することができる。
伝えるべきことを伝えた俺達はロベルトの家を後にし、再び冒険者ギルドへとやってきた。
ジェラルドと話してからニ時間以上経っているので、緊急会議はもう終わってしまったかもしれない。それでも一応、顔を出しておこうと思う。
ギルドへ入ると、ギルド職員の女性二人が俺に話しかけてきた。
「ノア様でお間違いないでしょうか?」
「ああ」
「ギルド長より、ノア様をご案内するように指示されております」
なるほど。ジェラルドは気を利かせてくれたようだ。
それにしても、まさか会議が終わってないとは思わなかった。ジェラルドに指定された時間から結構経っている。……かなり長引いているようだな。何か問題でもあったのか?
「二人はどうなる」
「お連れ様につきましては、別室で待機して頂くことになります」
「わかった。じゃあアディナとニーナはまた後でな」
「ええ。待ってるわ」
「……もぐもぐ」
アディナ達と別れた俺はギルド職員に案内されて、会議が行われていると思われる部屋の前へとやってきた。
「では、私はこれで失礼いたします」
そう言ってギルド職員はせかせかと去っていく。……中までは案内してくれないのか。
はぁ、扉を開けた後のことを考えると気が重くなる。絶対に何か言われるな。冒険者ギルドの緊急会議に五歳児が途中参加するとか……前代未聞だ。
もうどうにでもなれ。そういった思いで俺は扉を開き、中に入る。
すると案の定、部屋の中にいた全員が一斉にこちらを向いた。
「あぁん? おい、誰かそのガキを摘まみだせ」
「待て、その小僧は儂が呼んだ。ノア、よく来てくれた。ホムラの隣に座ってくれ」
俺はジェラルドの指示に従い、多くの注目を集めながらも席につく。
「坊主、久しぶりだな! 元気にしていたか?」
隣に座っているホムラが話しかけてきた。相変わらず暑苦しい。
「ああ、お陰様でな。会議の進捗状況は?」
「今ちょうど終わったところだ! 各人員の配置を確認して、作戦の手順の詳細を詰めた!」
……何とも微妙な時に訪れてしまったようだ。
俺達がそのようなことを話している間にも、ジェラルドが他の冒険達に対して、俺のことを説明していた。
「――ということで、ノアには遊撃手として動いてもらう」
ほう、ジェラルドは俺を遊撃として使うつもりなのか。自分で考えて動けるのは戦い易くて良い。俺は大賛成だ。
しかし、一部の者は反対意見を持っているようだ。
「納得がいかねぇなぁ。そのガキが本当に使えるのかもわかんねぇし、それ以前に今この場に居るのもおかしいだろぉ。ここに居ることが許されてるのは、Bランク以上の冒険者だけだぜぇ?」
確かに俺はCランクだ。けどこの会議の本質はそこじゃないだろう? ゴブリンの脅威から如何にして街を守るか。今はそれだけを考えるべきだ。
「俺も反対だな。実力が不確かな者に背中を預けることはできない」
それはお前の自分勝手な都合だろう。
街を守るための作戦に、お前の個人的な感情は必要ない。黙って仕事しろ。
「坊主」
内心で毒づいていると、ホムラが鋭く力強い視線を俺に送ってきた。……なるほど、そういうことか。良いだろう。
実力が不確かなら、この場で実力を示せば良い。
俺がホムラの考えを汲み取り頷くと、その瞬間――
「――身体強化」
自身の肉体を強化したホムラが途轍もない速度で俺に殴りかかってきた。
俺はその拳を右手の人差し指一本で受け止める。
ホムラの拳は音速を超えていたのだろう。耳をつんざくような爆音が辺りに鳴り響いた。
周囲の者達が息を呑む音が聞こえる。
……ん? なんでホムラも息を呑んでいるんだ?
手っ取り早く実力を示すために、攻撃するからそれを防御しろ、と視線で合図したのはホムラだろうに。
「は、はは、受け止めるとは思っていたが、指一本とは恐れ入る。どうやらオレは、坊主の実力を見誤っていたようだ!」
……ああ、そういうこと。
指一本でやった方がより強烈な印象を与えることができるからな。現に、先程まで文句を垂れていた者は全員下を向き、沈黙している。
これで一応、俺の実力をある程度は示すことができただろう。
「み、見事だ。では、それぞれのパーティごとに作戦の遂行を――」
ジェラルドが締めの言葉を述べようとしたその時――ギルドの外から、脅威の接近を告げる鐘の音が聞こえてきた。
――いよいよか。
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