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第二十二話 騎士団長の末路

 ファウストで暮らし始めてから、早くも一週間が経過した。

 この一週間俺達は、薬草採取や小型の魔物の討伐を積極的に行っていたので、全員の冒険者ランクはDへと上がっている。


 今日は午前中に薬草採取と魔牛の討伐を行い、今はロベルトの家で昼食を取っているところだ。

 本日の献立は魔牛のソテー。エルゼとアディナの合作がっさくである。

 エルゼとアディナは二人揃って料理が好きだということで、知らない料理を教え合ったり、協力して新たな料理に挑戦したりしているようだ。


「ふぅ……もうお腹いっぱいだ。相変わらず二人とも料理が上手いな」


「ええ、本当に、ノア殿のおっしゃる通りで」


 思わず零れた俺の言葉に、ロベルトが同意した。


 一週間前、ロベルトとエルゼは死にそうな表情をしていたのだが、今は全くそんな印象は受けない。血色も良く、隈もない。健康体そのものだ。先程聞いた話では、夜も問題なく眠れているらしい。

 本当に良かったと思う。


「あらぁ、あなたったら普段はそんなこと一言も言ってくれないのに、どういう風の吹き回しかしらぁ?」


「い、いや、それは――」


 ……本当に良かったと思う。

 ロベルト……達者でな。


 ロベルトは奥の部屋へと引きずられて行った。

 ……悲鳴なんて聞こえないぞ。聞こえないったら聞こえない。


「ノア君、いつも貴重な食材を持ってきてくれてありがとうねぇ。おかげで毎日の食事が楽しいわぁ」


 “お仕置き”を終えたエルゼが居間に戻ってきて、満面の笑みで俺に食材調達の礼を告げた。

 ……コワイ。


「……気にするな。食事はエルゼ達の料理の腕があってこそだからな。そ、それに、こちらとしても二人の美味しい料理が食べれるんだから、お互い様さ」


 俺は何とか平静を装って当たり障りのない言葉を発する。目の前のエルゼから感じる凄まじい威圧感によって気圧けおされてしまい、舌が全然回らない。

 俺がしどろもどろになっていると、奥の部屋からげっそりとしたロベルトがよろよろと居間にやってきた。


 お前が救世主か!


「ロ、ロベルト、俺達はそろそろ行くから、後は任せたぞ」


 俺がそう言うとロベルトの顔が絶望に染まる。


「そ、そんなぁ、ノア殿ぉ!」


 俺は知らん! そもそもお前の嫁だろうが!?



 その後、少しごたごたしたが結局ロベルトとエルゼが見送ってくれることになった。

 帰り際にロベルトがそっと耳打ちしてくる。


「ノア殿……ありがとうございました」


「……約束だからな」


「それでもです」


 律儀な男だ。


「ふっ、じゃあまた後でな。……アディナ、ニーナ、行くぞ」


 俺は再開を約束し、ロベルト達のもとから去る。背後から「夕食の支度をしてお待ちしております」とロベルトの声が聞こえてきたが、振り返らずに手を振った。


 ……というか、料理するのはお前じゃないだろうに。


 さて、そんなこんなでやって来た冒険者ギルド。

 ここには午前中に受けた依頼の達成報告をするために来た。アディナが報告をしている間、俺とニーナはのんびりと待つ。

 最初は俺とニーナも報告に同伴していた。しかし、受付の人間が幼児おれたちの存在に過剰に反応し、アディナの悪口を言うということがあってからは、おとなしく待機するようにしている。


「ニーナ、魔力操作はどうだ?」


「……まだ」


 そうか、やはりそう簡単にはできるようにならないか。


 魔力操作についてニーナと話していると、いきなり冒険者ギルドの扉が乱暴に開かれ、複数の騎士がなだれ込んできた。そして遅れるように、一際目立つ鎧を着た巨漢が入ってくる。その巨漢を見て、周囲に居る冒険者達が騒ぎ始めた。


「お、おい。ボンドだぞ」


「なんで奴がここに……」


 ボンド……ホムラが言っていた騎士団長か。一体何のようだ?

 俺達全員の疑問に答えるように、巨漢――ボンドが口を開く。


「“旅の導き”並びに当該パーティに付き従っていた冒険者に出頭命令が下った」


 なんだと?


「主な罪状は暴行罪、器物損壊罪、公務執行妨害罪だ。該当する冒険者は直ちに出頭し、然るべき裁きを受けよ。逃亡した場合、更に罪が重くなることを肝に銘じておけ。以上だ」


 それだけ告げて奴は帰ろうとしたようだが、冒険者達によって行く手を阻まれる。当然だろう。ここにいる全員、先程の説明で納得できるはずがない。


「ボンドさんよぉ。そんなんで俺達が納得すると思って――」


「邪魔だ」


「ぎゃぁぁああああ!」


 そんな冒険者の首を奴は容赦なく斬り付けた。


 斬り付けられた冒険者の仲間と思われる人物がすぐさま回復魔法を発動させるも、傷が深いせいか治りが遅い。助かるかどうか際どいところだな。


 その時、ギルドの二階から、歴戦の戦士といった出で立ちの初老の男性が姿を現した。


「何の騒ぎだ?」


「おやおや、誰かと思えばギルド長ではないか。最近姿を見ないから、てっきり逃げ出したのかと思っていたぞ。今更重い腰を上げたようだが、残念だったなぁ、もう手遅れだ。貴様が大切にしている冒険者くずどもは罪人に成り下がった。これから正義の名の下に裁きを受けることになる。せいぜい貴様は指をくわえて見ているがいい」


 ボンドは鼻息荒く、まくし立てるようにそう言った。しかし、ギルド長と呼ばれた人物は全く意に介していない。それどころか、可哀想なものを見るような目つきで、ボンドの様子をただ眺めている。


「はぁ……ボンド、丁度良い。お前さんにこれをやる」


 ギルド長は溜息を吐くと自身の懐から紙の束を取り出し、それをボンドの足元へと投げ捨てた。

 ……装飾からして重要そうな紙なのだが、そんな雑に扱って良いのか?


「なんだこれは……?」


「お前の騎士団長解任についてと、教会からの破門について記された書類だ」


「……は?」


「儂がこの街を空けていたのは、それのためさ。……騎士団長解任の件は一つ返事だったよ。お前さんの所業を中立都市側はしっかりと把握していた。これに関しては儂が出しゃばらずとも、時間の問題だったな。そして教会の破門の件は、お前さんを庇いきれなくなったということだろう。流石の教会も、中立都市と本格的に敵対するのは時期尚早だと判断したようだ。まぁ、お前さんはやり過ぎたということだな」


 ギルド長の言葉を聞いたボンドは先程までの尊大な態度が消え失せ、顔面蒼白になっている。

 ……気のせいか奴の手が痙攣している気がするな。それだけ大きな衝撃を受けたんだろうが、自業自得としか言いようがない。ホムラからいくつか聞かされた奴の所業は、どれも眼を覆いたくなるようなものばかりだった。


「それだけじゃない。前騎士団長への脅迫を始めとした数多くの被害報告も上がっている。罪人は冒険者達ではなく……ボンド、お前さんの方だ」


 ギルド長のその言葉がとどめとなったのだろう。ボンドは茫然ぼうぜん自失して膝から崩れ落ちた。




「……アハ、アハハハハハハ――」




 突然、狂ったように笑い出した奴は睨み付けるように周囲を見渡し――俺と目が合う。

 その瞬間、奴は飛び跳ねるようにして立ち上がり、俺との距離を詰めたかと思うと、首元に剣を突き付けてきた。


冒険者くずども! 動くんじゃない。このガキの命がどうなってもいいのか?」


「くっ、ボンドてめぇ卑怯だぞ!」


 やれやれだ。俺を人質にして逃げる算段なんだろうが、判断を誤ったな。

 俺に刃物を向けたからには、それ相応代償を支払ってもらうぞ。……ふむ、そうだな……簡単に死んでもらっては困るから、右腕と右足で勘弁してやろう。これからこいつには牢獄の中でたっぷりと自分の人生を省みてもらう必要がある。



 ――じゃあな、もう二度と会うことはないだろう。



 俺は手刀でボンドの右腕と右足を切断した。


「ぐぎゃぁぁああああああ!!」


 悲鳴を上げたボンドはあまりの痛みに気絶し、地面へと倒れ込む。

 俺に剣を向けなければ、身体に不自由することなく牢獄で静かに余生を過ごせていただろうに。


「え……?」


 一瞬の出来事であったために、周囲に居る者達は何が起きたのか理解できなかったようだ。しかし、血のしたたる俺の右腕に気づくと、騎士達のみならず冒険者達も、化け物を見るような目で俺を見てくる。

 ギルド内のざわめきは一瞬にして消え、辺りは静寂に包まれた。


 んん? お前たちもこれくらいはできるだろう? 何をそんなに驚いているんだ?

 俺が幼児であることを加味しても、いささか過剰過ぎる反応だ。


「……小僧、付いて来い。話がある」


 重い静寂を破ったのはギルド長だった。


 ……どうやら俺は、何かをやらかしてしまったらしい。

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