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第二十話 魔導士への道

 ホムラと別れた後、俺達は冒険者ギルドを出て街の外へと向かった。その理由は二つある。

 一つは常設依頼である薬草採取を行うため、もう一つはアディナとニーナに魔力操作を教えるためだ。


 魔力操作の訓練は街の中でやっても問題ないと思う。けど、慣れない内は周囲に何もない場所でやった方がいいだろう。万が一魔力が暴発してしまったら大変だ。


 そんなことを考えつつも、先程から俺は魔素を操作して物体の具現化の練習を行っている。

 直剣を具現化して消して、また具現化して消して、といったことを繰り返しやっているのだが、少々周囲からの視線が痛い。


「……ねえノア君。それをやるのは今じゃなきゃ駄目なの?」


「いや、そんなことはない。……止めるか」


 アディナがげんなりとした様子で見つめてきたので止めることにした。すると、俺達に集中していた住民達の視線が次第に分散していく。


 意気消沈いきしょうちんしてとぼとぼと歩いていると、街の北門が見えてきた。

 ゴブリン襲撃の危険性があるということで、現在この北門以外の門の出入りは原則禁じられている。昨日南門から入ったのは例外ということだな。


 門番と軽く挨拶を交わして街を出ると、俺はここぞとばかりに具現化の練習を始めた。

 直剣を具現化して消して、また具現化して消して――


「はぁ……」


 何やら隣から溜息が聞こえてきたが気にしない。


 現時点で直剣の具現化にかかる時間はおよそ二秒前後。戦闘の中で使用することを考えると、一秒以内に抑えたいところだ。しかしそれがなかなか難しい。

 結局のところ慣れるしかないということはわかっている。でも、何かほかに時間短縮の方法はないものかと思考を巡らせてしまう。……無駄な足掻あがきか。


 俺は具現化の練習をしながらも、アディナとニーナに視線を向け、魔力操作に関する説明を始めた。


「アディナとニーナは魔力操作についてどれくらい知っている?」


「うーん、私は魔導士がよく使う技術だってことくらいしか知らないわ」


「……何も知らない」


「アディナはおおむねその認識で問題ない。ニーナは……これから覚えような?」


 アディナのように複雑な術式や詠唱を用いて魔力を操り、定められた方式に則って事象を発生させる者のことを魔術師と呼ぶ。対して、己の意思で魔力を直接操作し、自由自在に事象を発生させる者のことを魔導士と呼ぶ。

 前者はごまんといるが、後者は一国に数人いる程度だ。


「アディナやニーナには、今から魔導士になってもらう」


 そう言って俺は二人の肩に手を置いた。


 そして、自身の右腕の魔素を利用して二人の体内魔力に干渉し、それを無理矢理動かす。こうすることで体内にある魔力回路が拡張され、滑らかに魔力が流れるようになるのだ。


「あっ」


「……うぅ」


 二人が顔をしかめた。


「馬車で酔ったような感覚を覚えるだろうが、少し我慢してくれ。……よし、完了だ」


 ある程度魔力を循環させて回路を広げ終えた俺は、顔色の悪い二人の肩から手を離す。


 これで、晴れて二人は魔導士の仲間入りを果たしたことになる。今後その力を使いこなせるようになれば、ありとあらゆる状況に対応することができるようになるだろう。

 俺が十分な結果に満足していると、何故かアディナにじろりと睨まれた。なんでだ?


「はぁ……説明なしに、いきなり行動するのはノア君の悪い所よ? まったく……」


 ……確かに最近はこういうことが多い気がする。考えるより先に、反射的に体が動くような……身体転成の弊害か? 気をつけよう。


「今の体内魔力への干渉を敵にやれば楽に勝てるんじゃないかしら? その証拠に私達はふらふらよ」


「その酔ったような感覚には個人差があると思うから、難しいだろうな。それに、体内魔力に干渉して動かしたらその敵は魔導士になってしまう。そんな危険なことはできない」


 こうして普通に喋っている様子を見ると、特に異常はないようだ。魔力が垂れ流しになったり、“魔法”が勝手に発動したりといった副作用も見られない。ニーナもずっと無言だが大丈夫そうだな。


「そういえば、ノア君はどうして魔導士になる方法を知っていたの?」


「身体転成の後、魔素を動かしたら魔力回路が広がったんだ。その時に気づいた。魔力回路が広がることで、魔力を操作できるようになるとな。恐らく、普通は何回も魔術を使うとことで魔力回路を広げるんだ。だから魔導士になるには、気が遠くなる程の年月を要する。現に魔導士は老人や長命種ばかりだろう?」


「言われてみればそうね」


 アディナの金色の瞳が一瞬きらめいた。


 最近この光をよく目にする。

 多分“聖導”の力を使っているのだと思う。確か、人の秘められた才能を測ることができる能力だったか。

 能力を長い間使わないと魔力過剰症に陥ってしまうことが判明してからは、定期的に使っているようだ。


「あと言い忘れていたが、術式や詠唱を介さずに、魔力を直接操作して発生させる事象のことを“魔法”と呼ぶ。魔術とは違う概念だということを覚えておいてくれ。まぁ、アディナは既に知ってるか」


 二人は俺の言葉に深く頷いた。


 説明はこれくらいにして、二人には実際に魔力を動かしてもらった。


「……できない」


 だろうな。

 ニーナだけでなく魔術の扱いに長けているアディナですら満足に操作できていない。


 いくら回路が広がって操作しやすくなっているといっても、操作する感覚自体を知らなければ、どうにもならない。

 残念ながらこればかりは本人たちの感覚の問題なので、俺が何かを教えるということはできないのだ。


 まぁ、すぐできないからといって焦る必要はない。

 一般の魔術師達を遙かに上回る速度で魔導士の領域に至ったのは揺るぎのない事実。魔力を操作する感覚はこれからゆっくりと養っていけば良い。といっても、そこまで時間はかからないと俺は思っているがな。


 さて、二人が訓練している間に、さっさと薬草採取を済ませてしまおう。

 今回採取する予定の薬草は、直接手で引き抜いても問題ない種だから比較的楽だ。一本、二本と採っていき、目標の五十本に達したところで切り上げる。


 よし、帰るか。丁度太陽が真上にある。昼飯時だ。


「アディナ、ニーナ、訓練はそこら辺にして街へ帰るぞ」


「わかったわ」


「……もうちょっとだけ」


 ……てっきりアディナがごねるかと思ったのだが、逆だったか。ニーナがやる気なのは予想外だ。


 その意思を尊重してあげたいがなぁ……流石に昼食を抜くのは良くないだろう。


 ニーナは二週間の監禁生活が原因で少し痩せている。魔力があれば多少の栄養不足はどうにかなるといっても、今はそんなに切羽詰まった状況ではない。

 それに、今回の訓練で二人とも魔力が暴発するような兆候は見られなかったし、体内魔力も安定している。だから今後は街の中で訓練しても問題ないと思う。


「ニーナ。今回は街の外で訓練したが、次は街の中で訓練しても大丈夫だと思う。だから、とりあえず昼食を食べに行こう。訓練はその後だ」


 俺がそう告げた直後、ニーナのお腹から“くぅぅ”と音が鳴った。


「ニーナちゃん、ノア君の言う通りご飯を食べに行きましょう? 私もお腹が空いたわ。訓練は美味しいご飯を食べてから、ね?」


「……わかった」


 ほんのりと赤みを帯びた表情のニーナがこくりと頷く。

 そんなニーナをアディナが抱きかかえて、俺達は元来た道を戻っていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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