第十六話 ダリア・エルトゥール
他者視点です。
「あぁ、ノア様。どうして、いったいどうして……」
どうしてノア様は、婚約者であるわたくしの前から居なくなってしまったのでしょうか?
いえ、そのようなことはわかりきっています。
ノア様であれば、周囲を取り込み、意のままに動かし、あの“憎き男ども”を打ちのめすことなど簡単にできたはず。ですが、それをせずに自ら身を引いたのは、何よりもノア様がそれを望んでおられたから……。
でも、どうしてわたくしを連れて行って下さらなかったのでしょう。神官の女は連れて行ったのに、なぜわたくしだけ……。
……まさか、わたくしは要らないということなのでしょうか。
いいえ。そんなことはありえません。わたくしとノア様は今も深く想い合っています。
わたくしがノア様のことを常に考えているように、遠く離れたノア様も、常にわたくしのことだけをお考えになられているはずです。
……あっ、そういうことですか。
きっとノア様は、わたくしのことを気遣って下さったのでしょう。
転生児でない方と婚約を交わしたともなれば、わたくしの名に傷がつくことになります。そのことを思って心を痛めたノア様は、自ら身を引き、わたくしの幸せを今も遠くで願っておられるのです。間違いありません。
ああぁ、なんとお優しいのでしょうか。自らを省みず、愛する婚約者の為に死地に飛び込むなんて……。
そんなノア様のことを考えると、胸の高鳴りが止まりません。あの凛々(りり)しいお姿、麗しいお声、普段は飄々(ひょうひょう)としていらっしゃるのに、時々見せてくださる戸惑った表情も、何もかもが愛おしい。
早く、早く再びお会いしたいです。
「失礼致します。ダリアお嬢様、ヴァルグリンド家に潜り込ませていた間者の処理が無事完了致しました」
?……ああ、あの命知らずな男ですか。
あの男は、ノア様に関する新鮮な情報を集める為に放っていたのですが、何を勘違いしたのかノア様のことを無視したそうですからね。
……はて? 始末するように言いましたかね? まぁ、言ったということで良いでしょう。わたくしにとっては、ノア様以外はどうでもいい、些細なことです。
「そんなことよりもアドモス、あの“憎き男ども”はどうなったのかしら?」
「はっ、ダリアお嬢様のお申し付け通り、ヴァルグリンド公爵家を取り潰しに追い込む為、現在ありとあらゆる手を尽くしております。恐らくはあと数週間ほどで、お嬢様のご期待にそえる結果をご報告することができると思われます。そして、大司教の男についてなのですが、奴の身辺を少々調べさせたところ、奴隷商との繋がりを指し示す書類がいくつか発見されましたので、その書類と共に当局に突き出しておきました。ですので、極刑は免れません」
「ふふ。よくやったわ。流石はアドモスね」
「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」
本当に、今日という日は良き日ですね。ノア様からの愛を再確認できただけでなく、ノア様を苦しめていた目障りな二人を、一気に処理できる目処が立ちました。あぁ、なんて素晴らしいんでしょう。
「ところでお嬢様、先日届きましたノア様からの婚約解消のお手紙についてなのですが……」
「ああ、そのことならたった今解決したわ。あの手紙はノア様からの愛の証よ。ノア様は、自ら不利を被ることで私を守ろうとして下さったの。故にこの愛の絆は、今も変わらずわたくしたち二人を繋いでいる。たとえ遠く離れていても、その事実は不変よ」
「……なるほど」
今ノア様は、どのように過ごされているのでしょうか。わたくしと同じように、確かな幸せを感じておられるのなら良いのですが……。
変な虫が付いていないのか、ということも少々気になります。ノア様は大変魅力的なお方ですから、多くの虫が集ってしまうのは、仕方のないことです。わたくしは心の広い婚約者ですから、多少のおいたは許しましょう。
周囲に集るのは所詮虫、ノア様のお相手にはなり得ません。
ノア様の花になることができるのは、このわたくし、“ダリア”以外にいないのですから。
「アドモス。わたくしの使役悪魔として、あなたが果たすべき使命を答えなさい」
「はっ、わたくしめの使命は、ダリアお嬢様の守護及び幸福の追求にございます」
「なら、今がその時よ。直ちに冒険者を招集なさい。命を捨てることも厭わず、わたくしがノア様の下へと辿り着く為の、架け橋となれる存在を集めるの。できるわね?」
「承知致しました」
うふふ、ノア様。すぐにあなた様のお傍へ参ります。それまで今しばらく、お待ちくださいませ。
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