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第十五話 冒険者達

「ニーナ助かった。おかげでアディナが怪我をせずに済んだ」


「ニーナちゃんありがとう」


「……ん」


 俺達の礼に対してニーナはこくりと頷く。


 今回は本当に助かった。もしニーナがいなかったらアディナはどうなっていたかわからない。


 以前アディナは近接戦闘も得意だと言っていたから、案外どうにかなった可能性はある。とは言え、何かあってからでは遅いのだ。未然防止できれば、それに越したことはない。



 ニーナがロベルト達と同じように生存していた理由がわかったな。

 ……奴らはニーナを意図的に生かしていたのではなく、生かさざるを得なかったのだろう。魂に干渉できるニーナに対して、奴らは何もできなかったのだ。


 強力な力だと改めて思う。


 ……ふむ。魔力操作を教えてみるか。やり方によっては、魂に干渉する能力を発展させたり、応用したりできるかもしれない。魂の干渉は現時点でも十分強力な力だ。しかし、俺にはまだまだ伸びしろがあるように感じられた。

 この先の成長が楽しみだ。


 それにしても、ニーナの第一印象は臆病な小動物といったものだったのだが、これは考えを改めなければならないな。先ほどの戦闘で垣間見せた咄嗟の判断力や勇気ある行動には度肝を抜かれた。

 自分のこととなると引っ込み思案でも、他の誰かの為なら一生懸命になれるのか……。覚えておこう。


「よし、今度こそ街へ向かうぞ。幸いこの魔物は自らの成果の為に、他の魔物達を出し抜いてここまで来たようだ。だから、さらなる援軍が来るとしたらもうしばらく後だろう。今の内にできる限り街へ近づこう。ただ、さっきも言ったように待ち伏せしている敵がいるかもしれない。周囲を警戒しつつ慎重に進むぞ」


 そうして俺達は街へ歩き出そうとしたのだが、一歩踏み出した時、俺の感知範囲に複数の気配が引っかかった。


 敵の援軍か? ……いや、違うな。これは――



「ッ! 居たぞ! 生存者だ! 我々の“パーティ”で事実確認を行う。他の者は周囲の安全を確保し、“ゴブリン”の襲撃に備えろ!」



 冒険者達だ。


 ここはまだ魔物の勢力圏だから安心はできない。けど一先ず助かったといってもいい。俺達だけで進むのとは生存率が段違いだからな。

 そのようなことを考えていると、冒険者達を指揮していた者が何人か人を連れてこちらへとやって来た。


「私は“旅の導き”という冒険者パーティのリーダーを務めているアルスという者だ。この場に居る冒険者達を束ねている立場でもある。君たちは、二週間前に消息を絶ったキャラバンの生存者で間違いないかい?」


「ああそうだ。他の者はみんな死んだよ。俺達だけ生き残った」


 これは街へ着いた時の文句としてあらかじめ考えていたものだ。俺とアディナが亡命してきたことは、おいそれと他人に言う訳にはいかない。ロベルト達にはアディナが喋ってしまったので、しっかりと口止めしてある。


「ん? 君は……了解した。我々は街からの依頼によってキャラバンの捜索を行っていた。人命優先とのことなので、これより街へ帰還する。この場の魔物の死体は我々が回収しておこう。周囲の安全を確認したら直ぐに出発するから、準備しておくように。いいね?」


「わかった」


 アルスという男は、どこからどうみても幼児な俺が返答したことに少々戸惑ったようだ。しかしそういった想定外にも無難に対応するあたり、熟練の経験を感じる。それに、俺達の足元に転がっている魔物の死体にも全く動じていない。


 一切の無駄を省き依頼の遂行を優先する、まさにプロだな。


 見たところ年齢は四十台のようだから、冒険者歴もそれ相応だろう。今まで数多くの死線を潜り抜けてきたに違いない。彼の言動や行動の端々からは、命の重さというものがひしひしと伝わってきた。


 そんなアルス達が魔物の死体を回収し、この場から離れた後、入れ替わるようにして一人の少女がこちらへと駆けてきた。


 茶髪に緑色の瞳……なるほど、そういうことか。


「お母さん! お父さん!」


「ルイーゼ!? どうしてここに!?」


「どうしてって、心配だからに決まってるでしょ!」


「まあ、心配してわざわざ来てくれたのねぇ。お母さん嬉しいわぁ」


「お母さんったら、まぁーたそんな呑気のんきなこと言って! ゴブリンに捕まるなんて本当に危ないんだから! 死んじゃうところだったんだよ!?」


「あらあら、まあまあ」


 ……ロベルトには娘がいたのか。それも冒険者の。


 冒険者は危険な職業だ。家族のことを凄く大切に想っているロベルトは、一体どんな気持ちで娘の冒険者姿を見ているのだろう。

 娘が駆けつけてくれて嬉しそうにしながらも、腰に差してある剣や身に着けている皮鎧をチラチラ気にしているロベルトを見て、ふとそんなことを思った。


 ……そっとしておこう。折角の家族の再会に水を差したくない。過去を語る機会はいくらでもある。なぜなら俺達は、こうして無事――生きて出会えたのだから。


「アディナ」


「ええ」


 俺とアディナとニーナは静かにその場を離れた。そのついでと言ってはなんだが、アルスに聞きたいことがあったので彼が歩いて行った方へと向かう。……ちなみに、ニーナはずっとアディナに抱きかかえられている。


「ちょっと待った!! そこの子ども達! 君たちに聞きたいことがある!」


 なんか暑苦しいのが話しかけてきたぞ。


 この男、見た目が派手過ぎる。短髪の頭も、瞳も、服も全部真っ赤だ。服に至っては所々に黄色い線が刻まれている為、かなり目がチカチカする。

 ニーナが萎縮してしまってるからそれ以上近づかないでくれ。


「なんだ?」


「先ほど君たちの足元にあった魔物の死体はホブゴブリンだろう? いったい誰が倒したのか教えて欲しいんだ! あそこでむせび泣いている男か!?」


 そう言って彼が指をさした先には、滝のように涙を流すロベルトの姿があった。……大丈夫かロベルト……。


 まぁ、この質問は俺にとっても都合が良い。本当はアルスに聞こうと思っていたことなのだが、この男でも問題ないだろ。


「あの魔物を倒したのは俺だ。こちらも質問が――」


「なんだとぉ!? 坊主があれをやったのか! ふんふん、確かに、坊主からは強者の匂いがするな! そうかそうか、その歳であれをやれるのかぁ。凄いなぁ! あっ!? もしかして長命種なのか!?」


「おい落ち着け、俺は人間だ。それと、こちらからも質問がある。お前たち冒険者が言っているゴブリンやホブゴブリンというのは、あの緑色の魔物のことか?」


「んん? ……ああ! なるほど! 坊主たちが知らないのも無理はない。捕まってたみたいだからな。そうだぞ! 坊主の認識で合ってる。あいつらはニ週間くらい前からファウストの街周辺で猛威を振るっている魔物だ! 完全に未知の魔物だから、第一発見者である“記憶持ち”が名をつけたのさ! それがゴブリンだの、ホブゴブリンだのってわけだ。変わった名前だよな!」


 そうか。転生者が……。どうりで聞きなれないわけだ。

 転生者は前世の記憶の影響か、時々意味不明な言動を取ることがある。今のところアディナにそういった様子は見られないがな。


 それはそうとして、アルスから話を聞いた時も思ったが、キャラバンを組んでいた数多くの人間が居なくなったにもかかわらず、動き出すのに二週間の時間も要するとは。

 ファウストの領主が余程の無能なのか、或いは……。


 新種の魔物の発見に、無能な領主か……面倒な事態にならないことを祈る。


 ところで、この暑苦しい男はいつまでここにいるつもりなんだ? 聞きたいことは聞けたから、先程からぷるぷるしているニーナの為にも、いち早くこの場から退散してもらいたい。


「あ! 自己紹介がまだだったな! オレは弱きを助け強きを挫く男! 名はホムラだ!! よろしくな坊主達よ!」


 ……厄介な男に目を付けられてしまったかもしれない。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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