表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティファレト戦記  作者: 森戸玲有
第2章 <4幕>
50/81

  ――それは、さながら炎の波のようだった。


 普段、目に留めることもない、ただの雑草が月の光に反応して、ふわりふわりと踊っていた。

 燃え広がることはない。

 情熱を秘めて、淡い紅色に光り続けている。

『光草』とはよく言ったものだ。

 幻想的で、煌びやかな夜に、若き日のレガントは現実の禍々しさを一時忘れて、呆然と見惚れていた。


「綺麗だな……」


 我知らず、声に出ていた。

 すると、傍らの銀髪の女性は、くすくすと笑った。


「……あれは、血の色よ」


 皮肉めいた一言。

 それは、密かにレガントを……代々の州公を責めているようにも聞こえた。

 その人は、楽を奏でるようにして、赤い草を操った。

 神か、魔物か……。

 いや、彼女こそ、月の女神イーリアだろう。

 クリアラの民には敢えて教育されていないが、レガントはこの国の神話を学んでいる。

 女神のように美しく、嫋やかで、儚げで繊細な女性だった。

 子供の頃から、ずっと彼女に憧れていた。

 身分が釣り合わないことは、重々承知していたが、それでも会いに行くことはやめなかった。


  ――いずれ、自分は北州の領主になる。


  逃げることのできない、その日までは……。

  でも、自分が州公になったら、父の悪政も終わらせることができるかもしれない。

  レガントが権力を持つことで、救える人も出てくることだろう。

  まずは、今のおかしな身分制度を見直そう。

  時間はかかるかもしれないが、大勢の弱者が、陽の下を堂々と歩くことが出来る。


(私が道を正せば、彼女はきっと喜んでくれるだろう……)


  ――そうだ。

  たとえ、彼女と結ばれることはなかったとしても……。


  自分に向けられるその温かな笑み一つで、一生、やっていけるような気がしていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ