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ティファレト戦記  作者: 森戸玲有
第2章 <1幕>
35/81

 縦に細長い島国、ティファレトには二つの州がある。

 北州と南州。

  他に十の領地と、未開の地など、部族も多種多様に存在しているが、権威の高いのはその二州だ。

 その昔、国王の外戚が州公をしていたこともあり、王家の血が継がれていることから、王都に次ぐ権力のある土地だと言われている。

 ただ、この二州は考え方がまったく真逆で、仲が悪いことでも有名であった。

 特に王に対する考え方である。

 ティファレトの神話を熱狂的に信じているのは南だ。

 南州を中心に王の存在は神格化されていて、十年以上前に起こったアルガスとの戦いの際も、南端の被害が甚大だった。

 …………だが、北はそうでもない。

 ティファレトの北西部に位置している王城ルティカと城下町だが、その更に北に行くと、ルティカから近いのに遠い、北州クリアラがある。

 遠い昔、貴族の流刑地としても扱われていた北州クリアラは、現在、ほぼ独立しているといっても過言ではない状態だった。

 しかも、北州は海を隔ててイエド国と近く、そのイエドはつい先日アルガスに併呑されたばかりである。


(どうにも、嫌な予感がするな……)


 寝台から起き上がったライは、着替えるべく室内の扉を開けて、隣室の衣裳部屋に入っていた。

 悪い夢を見たせいもあって、冷や汗をかいた。肌にまとわりつく寝間着の生地が気持ち悪い。

 もう少し遅くなったら、侍女がやって来るだろうが、待つのも面倒なので自分で着替えるつもりだ。

 自由にさせてもらっているのか、それとも試されているのか未だに分からないが、そんなことはどうでもよかった。


(所詮、私は一時しのぎの存在だ……)


 アルガス人に占領されないため、ティファレト人のために、王の真似事をやるなんて……。


「我ながら、嗤えるな……」


 ただ単に、ライはユージスとの約束を守っているだけだ。

 ユージスのように、王者の自覚も、愛国心なんてものも持ち合わせていない。

 だから、この国の仮初の主人で良いと思っている。

 けれど、大方の人間は、たとえユージスの娘だったとしても、どこの馬の骨とも知れないと思っている。権力に焦がれ、のこのこ城にやってきて、どさくさに紛れて王座を掠め盗った年端のいかない小娘だと侮っているのだ。


(残念ながら、私はもう三十過ぎのババアだよ……)


 見た目は小娘だが、ライの実年齢は三十を越えているのだ。

 そのことを確実に知っているのは、この世でたった一人しかいない。

 そして、彼はまた数少ないライの真意を知る者だった。


(本当に莫迦な奴だよな……)


 彼のことを想い、気持ちを合わせるように選んだ漆黒のドレスに袖を通したライは、窓の外に目を移した。

 曇天の空は、寒々しい。ティファレトの中心部は温暖湿潤だが、北に行くに連れ標高が高くなるので、雪が降る。今の時分、きっと冷えるだろう。


 なぜ、この時期に北州に行ったのか……。


 そんなことを質問したところで、彼はライに正確な答えなど返してくれないだろう。

 それに、ライとてまったく無知というわけでもなかった。


(綿入れの入った黒い外套でも贈ってやろうか……)


 見た目、ひょろりと弱そうな彼のことだ。北国の寒気に難儀していることだろう。

 彼のしようとしていることを止めることが出来ないのなら、せめてそのくらい……。

 我知らず、口元を緩めるとノックの音が聞こえた。


「……陛下」


(嫌な呼び名だな……)


 未だ海を隔てて、隣国のアルガスの支配下にあるティファレトに「王」という名の地位の者はいない。 あくまでライは国主として認められているだけだ。

 それでも、ティファレト人たちは王の血を引くライを「陛下」と呼ぶ。

 名前をライハと改めたことも、あまり効果はなかったようだ。

 いつまで経っても慣れそうにないその呼び名に、辟易しながら、ライは深呼吸をすると、背筋を伸ばして一歩踏み出した。

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