Phase.5-13
男は律儀に待っていた。
鏡介が戻ってくる事を確信していたようにも見える。
その間に誰も殺せる人間がいなかったのか、少し不満そうな顔をしていたが、彼の姿を見ると満面の笑みで鏡介を迎える。
正直に言えば、気味が悪い。
ここまで、人殺しを楽しんでいると人格的に問題があるようにしか思えない。
「やっと戻って来てくれたよ。
それじゃあ、続きをしようよ」
口調が少し変わったように思えるのは人格の問題からなのか。
撃ち出される男の魔導だけは変わらない。
どんなものか、自分なりに解析出来ていないが、このまま、使い続けているのであれば時間の問題だ。
その間に自分は魔導を回避しつつ倒す算段を創りださなければならない。
「そう言えばさ、昔の得物は使わないの?」
この国に来てから、新しいものを凛が作ってくれたので使う必要はなかった。
それに元々使っていたものをこの国に持ってくる事は困難な上に、逃亡生活時の資金として闇世界に流してしまった。
彼に合わせて作られたものなので、今はおそらく他の部品ごとにバラバラになっていることだろう。
速い。
CTの機能で回避が容易になっているものの、降り注ぐ敵の魔導を掻い潜るのは正直辛い事だった。
コンマ差で自分の身体が削られると思えば、避けるだけでも精神がすり減っていく。
更に問題点を上げれば、安定を度外視した処理速度を今のまま続けていれば、CTへの負担が大きく自壊してしまう可能性がある。
右に左、前に後ろ、時には斜め方向へ。
前から上から来る魔導は衰えるどころか激しささえ増している。
「!?」
加速する時に地面でほんの一瞬停止してから移動する方向を変更するのだが、停止できずに地面を少し滑り、回避が遅れた。
どうやら、自分が気にしている以上にCTへの負担が大きいらしい。
「Access」
ポケットの上からCTに触れることで機能を変更し、アイドル時の状態へ。
4つのコアの半分で、今まで通りサポートを、残りの半分は休ませる。
回避速度が落ち、更にギリギリの状態で魔導を掻い潜る。
着ている服の裾が魔導によって切り裂かれるものの、彼自身にはいまだ傷はない。
だからといって油断は出来ない。
間を縫って飛道具を投擲しても男は彼とは付かず離れずの距離で移動をしている。
「あれれ~、さっきよりも避ける速度が落ちてるよ。
じゃあ、もっと増やすね」
巨大な鉄槌。
少なくとも鏡介にはそう見えた。
間を縫って回避出来るとは思えない密度に見えない所で冷や汗が流れだす。
無様でも今出来る最大の速度でその場から離脱を優先し、己の目の前を擬似的な質量を持った光の槌が振り下ろされた。
◇
迷彩服に身を包んだ者達が一般市民に自らの得物を向けている。
どうしてこんな所に場違いな者達がいるのか、栞には分からなかった。
この国では持つものが少なくなっている武器型CT。
それを彼らは持っている。
だがそれが、どこか無骨で、誰かの命を奪う道具にしか見えてこない。
そして、彼女の目の前で、それが使われ、名前も知らない誰かが地面に力なく倒れる。
まるで、別の世界の出来事のようだった。
しかし、今目の前で起きている現実でもある。
どこかでこんなことが起きているにもかかわらず、この国ではそんなことが起きていないからこそ生まれてる常識。
別の誰かにそれが向けられる。
無意識の内に手には馴染んだ刀状の鈍器を振りかざし、肉薄した後に迷彩服の一人の腕に振り下ろしていた。
それを叩き落とす事は出来なくても、誰かを狙った魔導は自分の目の前の地面をいとも簡単に穿っている。
これ程のものが生身の肉体に当たったとすれば、考えたくもなかった。
何事かと、迷彩服は顔をこちらに向ける。
生気に溢れた瞳。
滲み出ていると言っても良い。
少なくとも普通に生きていてもこうはならない。
何かをしてくるのではないかと勘ぐり、一度距離を取る。
自分が取った軽薄な行動を自ら諌める目的もあった。
正眼に構え、息を長く吐き出す。
落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせ、水面に波紋を起こさずに立つ自分をイメージする。
その波紋は己の乱れた心、何時も通りの集中法。
違うのはここが、道場ではないことと、目の前の迷彩服が自分を殺そうとCTを構えていることだけ。
出来るだけ恐怖を抑えこむ。
その時抑えこみ過ぎないように気をつける。
だが、自分を狙う凶刃を前に恐怖心を適度な大きさにするのは難しい。
怖い。
それだけで、心が乱れ、体が震えて、筋肉が硬直してしまう。
何より、骨が折れても、下手をすれば砕けているはずの腕がなんともないのは不気味でしょうがない。
「それだけじゃ、まだ足りないわね」
声のした方角には、この場には相応しくない、動き辛いと思われるスーツ姿の女性が立っていた。
こうして二人の女は出会った。
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