Phase.4-5
何故か、いつもよりも長くなってしまいました。
筆が進むと言うのはこう言う事を言うんでしょうね。
どうして、この学園の生徒の喧嘩は魔導を使った一種の戦闘行為によって、優劣を決めたがるのだろうか?
学園生活に慣れてきたと言う事から、色々と派手な行動を起こす者が近頃増えてきている。
それを力尽くでどうにかするのは自分達生徒会役員である。
しかし、やっている事はそう変わりない。
ただの力任せ。
同じなのにもかかわらず、生徒会役員であるという免罪符、大義名分がそこにある。
正直に言えば、殺さずに相手の動きを封じることは彼―白銀 鏡介にとっては難儀であった。
最初は偶然通りかかった教師が間に割って入って来なければ、生徒が死んでいたかもしれない状態になっていた。
教師曰く、加減を知らない子供の様で恐ろしく思えたと。
最近になってようやく加減を覚えたのか、一撃で意識を狩り取れるようになっていた。
その為なのか、彼が駆け付けると生徒同士の諍いがピタリと止む事が多くなった。
目の前の敵よりも、あとから出て来た強大な敵を前に戦っていられる程、彼らは肉体的にも精神的にも強くはなかった。
その実績のお陰で、現場に駆り出される事が多くなり、広い校舎の移動が面倒でしょうがない。
本日はそんな事もなく、珍しく自分も書類の分別と言ったデスクワークを淡々とこなしていた。
どちらにせよ、この作業は面倒なことでしかない。
それなりに作業はこなしていたものの、現場が多かった所為かやはり他の役員と比べると見劣りする。
一人、また一人と自分の仕事を終えて帰宅していく。
取り残されるのは鏡介ただ一人。
それは仕方のないことだ。
外はまだ明るいが、それも後少し経てば辺りは帳に包まれるだろう。
区切りが良い所まで来たが、少し頑張ればこの仕事も終わると思うと、どうしたものかと視線を上に向け物思いに耽る。
ほんの少しの思考時間で終わらせた方が良いと判断し、この近辺に誰もいない事を確認する。
「Access」
ポケットの中にあるCTに軽く触れ起動。
実行させる魔導は己の最も得意とする加速の魔導。
肉体よりも先に思考そのものを加速させる。
姉からは必要時以外は使用する事を禁じられているが、今その姉はこの場所にはおらず、何処かでプログラムを作り出しているのだろう。
話を聞く限り、実績だけでいうなら、部署を任されても良いらしい。
しかし、年功序列が根強くある所為かほとんど新入社員と同じ待遇と愚痴をこぼしていた。
残りの書類をパラパラ漫画の様に流し読み、読み終えると崩れた向きを整えてから内容を見ようともせずに分別を再開する。
最初からこうすれば良かったのかもしれないが、あの会長がそれを知れば更に自分で仕事をしなくなる事が脳裏に浮かぶ。
また他の役員も仕事を押し付けてくる可能性も否めない。
普通にやっていれば、校舎の見回りをしている警備員がここにやってくるまでに終わっていなかったかもしれない。
それをすれば、またなんかしらの小言を言われるに違いない。
良い塩梅はないものかと口から息が漏れる。
ほとんど何も入っていない鞄を持ち、生徒風紀委員会室を出る。
ドアの横に設置されているリーダーにCTを翳し部屋の鍵がロックされた事を確認する。
◇
「帰ったんじゃないのか?」
記憶が確かなら、彼女は授業が終わるとすぐに帰宅しているはずだった。
魔導系の学園であるが、魔導の使用を禁止すれば、体育会系の部活動も大会に出場出来るので、意外にもこの学園はそういった活動も充実している。
とは言え、魔導による筋肉の効率的な強化が問題となり、中には公式の大会に出られないものも確かに存在する。
「……白銀君を待ってたの」
「用件は?」
自分を待っていたとなると、自分に用があると考え、そのまま思った通りに口に出す。
一拍も置かずに返された言葉に反応出来ずに栞の身体は氷漬けされたかのように硬直してしまう。
「用件がないなら帰るぞ」
薄暗い昇降口で彼女の顔の色は少し読み辛い。
横を過ぎて自分の靴の入れてあるロッカーを開けて、中の靴と履き替える。
彼女は何も言わずにただ視線を下げている。
何がしたかったのか分からず首を傾げ、歩き始める。
「待って」
何処かに行ってしまう誰かを引きとめるように手を伸ばし、彼の鞄を掴む。
「……その、えっと……、一緒に帰らない?」
◇
本当ならば、シチュエーションも何もない、ド直球の告白をする予定が何故か、一緒に帰らないかと言うヘタレな事を口走っていた。
後付け理由としては彼が自分の前から行ってしまうという事実と、単純な気恥ずかしさと言った所か。
振り向いた彼は、もっと大事なことだと思った言わんばかりの顔をしている。
だが、一緒に帰るという事そのものに対しては否定的ではないように彼女には見えた。
変な感じだ。
男の人と並ぶのは剣を握った時だったのが、今までの自分。
今の自分は素敵な―自分にとって―男の人と何かをする訳でもなく並んで歩いている。
こう言うのを放課後デートと言うのだろうか?
如何せん、そう言う事に興味すら持たなかった自分には分からない。
だけど、会話がない。
先程から並んで歩いているにもかかわらず、会話らしい会話が全くない。
質問を投げかけても大抵一言で返されるので会話が続かない。
そう言えば、並んで歩いている事に気付く。
彼と自分の身長差は目測で10cm程。
自分は普段通りのペースで歩いているが、身長から換算すると歩幅が明らかに彼の方が長い。
とすれば、彼が自分のペースに合わしているという事になる。
無意識であれ意識的であれ、それについては感謝せざるを得ない。
だけど何て言えば良いのだろうか。
普通に感謝すればいいのだろうか。
悩んでいると自宅の裏手の道場の出入り口付近まで来ていた。
遠くで白い道着を身に纏う厳つい男が仁王立ちして道行く人に睨みを利かせていた。
近付くにつれ、その人物が確信へと至ると急に栞は立ち止まる。
視界の端で捉えていた鏡介は、視界から完全に消えた彼女の方向を見る為に振り返り立ち止まる。
「どうかしたのか?」
◇
一緒に下校して初めて話掛けられたにもかかわらず彼女は顔を引き攣らせている。
原因はどうもあの仁王立ちしている厳つい男のようだ。
だからと言って、自分がどうこうする問題でもないので、彼女に声を掛けるだけに止まらせる。
「遅かったじゃないか、栞ちゃん。
パパ心配したぞ~」
声に対して振り返ると厳つい、いかにも武道家と言えるような顔つきの中年の男が彼女に向かって跳んでいた。
気配を感じさせずに近付かれた事に対して驚きを隠せないが、顔からは想像できないような猫撫で声で跳びつこうとするその姿は正直恐ろしい。
だが、跳びかかってくる射線上には鏡介自身もいるので、無意識に迎撃する為に自分から間合いを詰め、勢いのある回し蹴りを叩きこむ。
空中にいた為にそれを避けることも出来ずにまともに喰らい地面に転がり落ちて、痛みに呻いていた。
蹴った左脚が、少し痛む。
咄嗟だったとはいえ、軽く強化したはずなのにもかかわらず、男の身体は鍛え上げられた鋼鉄の様に堅固であった。
演技なのか本気で痛がっているのか、正直分からない。
「栞ちゃん。
この男誰? いきなり蹴りかかる男何て私は知らないけど」
「蹴られたのは自業自得でしょ。
この人は、その、えっと……」
赤くなっているであろう栞の顔からすべてが分かったかのように軽く頷くと、殺気を凝縮させたものを鏡介に浴びせながら、男は立ち上がる。
「始めまして、そしてさようなら。
栞ちゃんは小さい頃に私と結婚するって言ってくれ……なかったけど、君みたいな人は私は認めない。
だからこの場で死ぬか、殺されるかどちらかにしてくれないか?」
「……白銀君。
この人は一応、恥ずかしながら父です。
お父さん、この人は白銀 鏡介君。
わたしのクラスメイト」
両者の間に入り込み、互いの紹介を栞はするが、彼女の父親は聞く耳を持たず彼を睨みつけていた。
「栞ちゃん、クラスメイトなんて言わなくても私には分かる。
君は彼が好きなんだろう?
だ~が、しかし。
君は彼と付き合ってはいないみたいだ。
だったら、私はその前に彼を消さなければならない。
栞ちゃんがキチンとした私が認めるような男を連れて来なければならないのだから」
何処からか、木刀を取り出し正眼に構える。
対して鏡介は構えることもせず溜め息を一つ。
父から流れ出る溢れんばかりの殺気を目の当たりにした栞はただ二人の間から抜け出すしか出来なかった。
何かをしなければ本気で父親は彼を殺しに掛かるであろう。
だけど、どうしてか痛い目に遭うのは父親の方だと確信出来る何かが鏡介にはあるのだ。
仮にも、曲がりなりにも父親なので怪我をして欲しくはない。
だからこそ、自分が行うべき事はこれしかない。
「白銀君、貴方が好きです。
わたしと付き合って下さい!!」
伝わるかどうか分からないが、口パクで振りでもいいからこの場はOKして、と付け足しておく。
懇願するような目が見えた鏡介は、ただ一言、『良いよ』と答えた。
誤字脱字がありましたらご連絡下さい。
読んで下さり有難うございます。




