Phase.3-11
書き方が変わっていれば良いんですが…
懐かしささえ感じられる振動。
この世界では起こり得ないと思っていたと鏡介の中で確定していたのはおかしな事なのだろうか。
それがもともとこの世界で生まれ育ったものであれば問題はないはずだが、生憎彼は非日常で過ごしてきた身。
起こり得ないという状況は彼の中ではどんな些細なことでも起こり得るものと考えなければ死に直結するものであり、それが出来ていたからこそ今彼は生きていられるのだ。
何も感じなかったというより、培ってきた感覚が鈍ってしまったと言うべきか。
「俺が行って来ます」
彼が立ちあがると、いってらっしゃいと他の役員がこちらを見ずに背中に声をかけてくる。
その響きは、面倒事を頼まれてくれて助かったというのが感じられる。
だからこそ、彼の雰囲気がいつもと違っている事に気付く者はいなかった。
◇
轟音と震動の位置からある程度目星を付けていたので、到着するのにそれ程時間は掛からなかった。
ふわりと地面に降り立つ鏡介は目の前の惨劇の後を眺めると、無意識にスイッチを切り替えていた。
さて、目の前の死体のなりかけに対し、自分がするべき事を思考する。
中には死んでいる者も数名いるが、一部は文字通り瀕死の状態であり、このまま殺して楽にしてあげるか助かるかどうか分からないが、念の為の治療を施すべきか。
何処からか、走り込んでくる人の気配。
ここに自分がいれば、幾ら生徒会の役員だとしてもこの惨劇を引き起こしたのは鏡介であると疑われかねない。
僅かに残留する魔導の残滓の流れを目で追いかけ、彼らの視界に入る前にこの場所から飛び出す。
駆け付けた教師陣や野次馬の中にはこの惨状を見て胃の中の物を吐き出す時に嗚咽が彼の耳にも届いた。
「お前が…?」
見つけた人物の才能は陽よりはあるものの全校生徒の平均以下と言った所で、先の惨状を引き起こすには少々難がある。
むしろ、鋭利な物や鈍器で人を傷つける方がよっぽど効率的ににも思えてしまう。
それでも人を物理的に傷つけるのには才能はいらない、凶器や狂気さえあれば十分なのだ。
現場に魔導の残滓があった以上、目の前の男が犯人である事は確定している。
才能が無ければ、実力がある部類なのか、見た目からはどちらでもない様に見受けられる。
鏡介自身も物凄く才能に満ち溢れている部類でないからこそ実力を伸ばした。
そして、実力を伸ばすのには時間がかかる。
彼の顔が見えた時に学内のネットワークに侵入し彼のデータを覗き見たが、実力が急に伸び出したというものは見つからない。
CTの変更届も出しているようにも見えないので、違法のそれを手に入れたか、それに改造したかのどちらかだ。
「誰からCTを受け取った?」
「知らないよ、これがあれば僕はもっと強くなれる。
邪魔する奴を全部! 全部!! 全部!!! 排除出来る!!
こんな素晴らしいものがあるなんて初めて知ったよ。
僕はこれで一番になれる」
鎌をかけてみると拍子抜けするくらい簡単に誰かから貰ったと言う事実を吐き出した。
興奮している所為か自分の行動がすべて正しいものだと疑ってすらいない。
他者を暴力で蹂躙する事に対しては鏡介自身強くは言えない。
懐からCTを取り出し、彼に見せ付けるように空に翳す。
瞬間、地面を蹴る。
加速。
大気を切り裂きながら進む弾丸の様な速さで、翳されたCTを奪おうとする。
それに触れかかった時、後ろからの強烈な風の暴力に一時的とは言え、宙に浮いていた彼の身体が流される。
魔導を使用する時の魔力の流れを感じなかったので恐らくは地雷の様なものだろう。
地面に着地し、体勢を整えると悪く思うなと心の中で呟き、氷の鏢を作り出し、彼の腕を切断する為に投擲。
加速の魔導式を加えたそれは近距離だとしても、人の腕を切断するには十分過ぎるエネルギーを含んでおり回避行動も防御行動も間に合わないと思われたそれを防がれた時に、表情が消え去った。
今のは…
目を疑う積もりはなかったが、目を細め再確認しようとした所でその行動が同じ意味だと言う事に気付く事はなく、高速で移動しつつ隙あらば鏢を投擲。
必殺の一撃を与えるはずのそれを完全に防いでいる事から、彼自身が防御の魔導を使用しているのではなく、CTそのものが勝手に防御の魔導式を組み上げている事が分かる。
そこからこのCTは軍用の魔導式が組み込まれたもので、規格の異なる魔導式は組み込めないという国際法を無視したそれについては今はどうでもよかった。
恐らく彼がそれを渡されたのは自分のような軍人と言った人物であろう。
自分も良く使っていた魔導式でその万能さ故に軍隊では基本的に使い続ける物の為、魔力の消費が激しいと言う弱点も孕んでいる。
更に言えば、自分で発動する物ではなく、使用者の命の危機だと勝手にCTの方が判断するやっかいな魔導式である。
だからこその連続投擲。
ほぼ360°からの攻撃に動きを拘束され、されるがままになっている。
別の魔導の発動を感知した鏡介は一度手を止め、相手に合わせて別の魔導を立ちあげる。
一度投擲し、原型を留めている鏢をもう一度操作し、切っ先を男に向ける。
一斉に飛び出させ、防御を誘う。
彼を取り巻くオーラが鏢をはじき返し、それの使い手である鏡介を血走った眼で見つめ、自分から距離を詰めて来た。
鏡介の先の動きを読み、CTから延びる魔導の剣を振り上げ、間合いに入ると一息にそれを振るう。
彼の足はまだ地面に着いていない為に回避は出来ない。
だが、それでも彼は防御態勢に入ろうとはせず、むしろ剣に触れようとしているフシがある。
◇
片手による白刃取りを実行する生徒会役員の姿に思わず笑みがこぼれる。
魔導の剣は自由に疑似物質から魔力へと変化させられる。
それ故にわざと刃を仕舞い、相手の攻撃を受け流しつつ、再度刃を放出し斬りつけるという戦い方が主流だ。
また、刃の長さを変えると言う方法も取れるので、先読みが難しい。
未だに自分もそれが出来ないのだが、このCTがあればそれも難なくこなせそうな気がする。
「ハァァァァァ!!」
気合一閃。
敢えて変化球を使わない真っ直ぐに剣を振り下ろすと、
自分から洩れる声は先程の生ゴミのものとほとんど変わらない物へと変化させられた。
誤字脱字がありましたらご連絡下さい。
読んで下さり有難うございます。




