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僕のクラスメイトは君一人  作者: 綾小路ハオ
第壱篇 君と僕だけの教室

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君と僕だけの教室 其ノ壱

貴方以外は何も要らないから——

「これが私の、生きる意味」


——今僕は、人生最大の謎に直面している。

たかが16年の人生。人生最大と決め付けるにはたった16年の経験じゃ荷が重いと思う人はいるだろう。でも違う。僕は人よりそれが少しばかり早かっただけだ。

仮に、これを超える謎に遭遇した時、それは多分僕の良い死に時なのだと思う。


そもそも何故こんな事態になったのか。考えれば考える程、頭がおかしくなりそうだ。


一つずつ今ある問題を明確にし、どう解決するか。この焦りと疑念に満ちた頭で真剣に悩み、思いを巡らせている中で、隣の席の女が口を開けた。


「始業式退屈だったわ。このクラスの担任は誰になるかしらね」


おいおい何でそんな呑気な事言ってられる。


毎年恒例のクラス替え。緊張の中、恐る恐る自分のクラスが何組で、誰が一緒かを見る。あの瞬間はまるで自分の番号を探す合格発表のような雰囲気がある。


新クラスに期待を膨らます者もいれば、面識者が少なく落胆している者、自分の名前が中々見つからない者もいる。


僕も確かに見たはずだ。しかし衝撃のあまり忘れてしまったのか、このクラスに来るまでの事をあまり覚えていない。気が付いたらこの席に座っていて、隣にはこの女がいた。横から視線を感じる。


僕のクラスには一年生の頃の僕の友人や知人は一人もいない。そりゃあそうなのだ。そう考えるのが当たり前の思考で、全く当たり前の事象じゃない。


「貴様はこのクラスで友達を作れる自信、ある?」

「それはお前次第だ」

「何で私次第なの?」

「…」


混乱しているからなのか、この女の言っている事が僕にはよく分からない。だって…


——僕のクラスメイトは君一人だけじゃないか。


数々の思考が頭を動かす。疑問、困惑、経緯、焦燥、恐怖。この謎の、


真実は?


一度冷静になって推察しよう。普通は全クラス平等な数になる様振り分ける筈だろう。現に他のクラスは一律四十人だ。でも何故かこのクラスは二人。そうまでして他のクラスを四十人に揃えたかったのか?


仮に僕とこの女だけが残ったのなら、何処か二クラスを四十一人にするのが得策だろう。と言うか得策と言える程の事でも無い。それが普通だ。


「なあ、明晰夢って案外良い物じゃないのな」


最早、負の感情は湧かない。ただひたすら夢である事を願っている。そして夢ならもっといい夢見させて欲しいものだ。


「貴様、質疑応答がなってないわね。私が折角、生涯数え切れる程の人としか話さない貴様に話を振ってあげたのに」


いい攻撃力を持った言葉。随分上からの目線だ。高過ぎて首が痛い。とりあえず話を合わせる。


「お前から見たら僕の将来は無職確定なのか」

「無能な味方が一番の敵なのよ。貴様の様な人間は働かない事で社会に貢献出来る。無職と言う職よ」

「酷い言われ用だな」

「これでも褒めてるつもりよ」


一年の時は他クラスだったが、僕はこの女の事を少しだけ知っている。何故なら一年の間では軽い有名人だからだ。


元1-A 立花刹那。またの名を女王。


成績優秀で運動神経抜群。美しく綺麗な外見で、正にこの学年全員の高嶺の花。近寄り難い印象とこの性格が相まって、人と関わっている事が滅多に無いそう。


こんな美人と二人きりだなんて僕の人生これが最初で最後だろう。でもそんな事考えていられる程、冷静じゃない。冷静じゃない筈なのに何故この女はこの状況で本を読んでいられるのか。しかもタイトルが「猿の飼い方」


「お前はこの状況で何でそんな冷静でいられる」

「あら、どんな状況かしら?」


なんでわざわざ聞き返してくる。説明する程、難しい問では無い筈だ。


「このクラスが僕とお前の二人だけと言う事だ」

「確かに、こんな状況とか言ってる割には私に下卑た視線を向ける貴様と一緒にいるこの空間は、不思議よね」


大分斜め下な回答を貰った。てか何でバレてる。


「いや、誤解だよ。全然興味ないから」


とりあえず誤魔化してみる。


「全く興味ないと言われると、それはそれで傷付くものよ」


確かにそうかもしれない。逆の立場になって俯瞰してみよう。どんな言葉が適切だったか。


「そんな身体をしてるお前が悪い」


軽蔑を孕んだ鋭い視線が突き刺さる。普通に間違えた。


「じゃあどうしろってんだ」

「貴様の様な…」

「ちょっと待て。その貴様って呼び方止めてくれ。呼ばれる度少しづつ惨めになる」

「貴様こそ、私の事お前って言ってるじゃない」


確かにそうだった。反論の余地無し。


「悪かった。じゃあ立花、呼び方を変えてくれ」

「軽々しく呼び捨てとはいい度胸ね。でもその挑発買わないわよ」

「売ってない」


尽く突っかかってくる奴だ。


「君、名前は?」

「名簿に書いてあっただろ」

「名前は?」

「…雨宮朱斗です」

「シュート?」

「朱斗です」

「じゃあ雨宮くん」


結局苗字呼びかよ。


「唯一のクラスメイト何だし、仲良くしようぜ」


僕が握手を求めるとその手を糞を見るような目で見てきた。もう僕のメンタルはボロボロだ。


「やっと……」


「ん、何て?」

「そろそろHR始まるから大人しくしろって言ったの」


絶対そんな長くない。まあ事実だから渋々姿勢を正す。本当は何て言ったのか気になって仕方がない。でも聞くと、どうせまた面倒くさそうな顔して僕を蔑んでくる。


しかしこの女の顔と声。なにか妙な物が…


「ねえ雨宮くん。担任誰かしらね」

「立花は誰がいい?」

「誰も望まない」

「これ以上このクラスから人数を減らすな」


担任の先生はこの事態にどう反応するのか。

そもそもこんな状況の中、上手く溶け込んでる僕を少しは褒める人がいても良いはず。

普通は学校側のミスか、あるいは夢か、そんな結論に落ち着く筈だ。


確かに美人と二人きりのクラス何て、夢の様な出来事かもしれない。しかしこの女、一年の頃のイメージと全然違う。


でも何処かにツンデレの様な物を感じる気もする。今までの会話で何処にデレの要素があったのかは知らないけど。まあ僕の気のせいだろうか。


ツンデレじゃないにしても、何かが引っかかる。何故この女はこの状況で困惑の表情を見せないのか。まるでこの事態を予想してたかのような振る舞いだ。


そんな事ぼんやり考えているとHRを知らせるチャイムが鳴るのと同時に、担任の先生が入って来た。


「こんにちは〜初めまして〜」


顔を出したのは恐らく新卒の若い女の先生。

おいおいまじかよ。左右で違う靴履いてるぞ。服も始業式の前慌てて購入したであろう似合ってない正装。しかもタグ付き!黒板の前でオドオドしてる。


これは参った。いや、ベテランの先生や数年経験のある先生ならこの状況、話でもすれば何か変わるかも知れないと淡い期待をした僕が愚かだった。


僕がそんな事思っていると、自己紹介をしだした。いやこの状況で?


「私の名前は四条恵です!皆さんとは歳が近い分、似た目線で関わる事が出来るので、何か相談や協力して欲しい事があったら気軽に話しかけて下さい!」


この場合、皆さんと言う言葉は相応しくないのでは?


しかし何だろう。流石におかしいな。いくら何でも新卒の阿呆っぽい担任だからと言ってこの状況を当たり前かの様に見ているのは、不自然だ。


その目には緊張と焦りが受け取れるが、困惑や疑問は受け取れない。嫌な予感が神経を少し撫でる。


これまで静かだった立花が口を開く。


「私より馬鹿そう」


いや思ったけど。口に出す勇気よ。


「そう言ってやるな。一応教員採用試験に合格しているんだから」

「世も末ね」


無慈悲だ。この会話が聞こえてない事を願う。


「それでは出席を取りまーす」


阿呆で良かった。聞こえて無さそう。てか出席って…


「雨宮さーん」

「はい」

「立花さーん」

「はい」

「よし!休みゼロ!」


いや、よしじゃねえよ。

何故この不自然すぎる事態を異常だと思わないのか?

もしかしたら本当にこの先生がとんでもない阿呆で異変に気づいていない可能性もゼロではない。


次の休憩時間で手当り次第、聞いてみる事にしよう。このクラスの「異変」と「真実」を。


まだこの時の僕は、人を、愛を、甘く見ていた。

膨大に膨れ上がった愛が及ぼす影響は、


——世界を少し、歪めてしまう。

二千二十年四月九日

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