プロローグ
「どうぞ」
私は彼にノートを差し出した。
「あ、うん。ありがと」
そう言って受け取ったものの、その意味にまでは思い至っていないみたいだ。
しばらく不思議そうに表紙を眺め、それからハッと私の顔を見た。
「もしかして……」
「はい、やっと完成いたしました」
彼はゴクリと唾を飲む。
「ようやく……。もう一生読めないのかと思ってた」
「私もまさかこんなにかかるとは……。サグラダ・ファミリアを呼んでください」
「そこまでじゃないけど」
彼は声をあげて笑う。
「てかなんでそんな丁寧な喋り方なの?」
「いや、なんとなく」
「あ、左様ですか」
そんな軽口を叩き合って——
それから彼は表情を真剣なものにした。
金庫に保管していたわけでもないから、こっそり読もうと思えばいくらでも読めたはずなのに。
でも彼は私の想いを尊重して、ずっと我慢してくれたのだろう。
「じゃあ早速、読んでもいいでしょうか?」
「ぜひ」
彼はふぅ、と一つ息をついてから、表紙をめくった。
「あ、縦書きなんだね」
「本格的でしょ?」
一番苦労したのが、書き出しだった。
どう頑張っても、しっくりくる文章が思いつかなかったのだ。
散々悩み、試行錯誤を繰り返して——
最終的に「もう知らんっ」と勢い任せに書き殴った。
その一文を、彼の目が上から下になぞる。
『これはある種のラブレターだ。』




