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病死という名の自殺  作者: 傘花
第一章
2/13

1-1

小説の更新情報は下記の傘花SNSよりご確認いただけます('ω')

Instagram:@kasahana_tosho



 1



「死んだ後に色々調べられるって最悪じゃない?」


 書斎の棚を調べながら、兄の涼佑(りょうすけ)がそう言った。


 父親のスマートフォンを隅から隅まで調べていた私は、本当に、と溜息を漏らす。


「検索履歴とか見られたらもう終わる。……え、何か本当にヤダ。言ってたらマジで最悪過ぎるんだけどそれ」


 身を震わせながら、けれど父親のスマートフォンの検索履歴からお気に入りまで覗き見る。


 勿論理由はある。父親が遺しているかもしれないデジタル遺産を調べるためだ。


 先月、父、木下浩介(きのしたこうすけ)は心筋梗塞で急死した。悲しみに浸る余裕もなく葬儀を終えて、今度は遺産の把握と遺品の整理に追われている。


 突然死の割には、浩介の部屋は随分整理されていた。それは、常日頃から身の回りを整頓しておかないと気が済まないあの人の性格故だと思う。


 綺麗にラベリングされたレコード、高さを揃えて整頓された書籍、引き出しの中に入ったボールペンや消しゴムまで、真っすぐに天井を見つめている。


 生前から思ってはいたけれど、死後もイメージが全くぶれない父親だ。


「ネット証券使ってたような形跡は……なさそうかな。うわ、なんか大咲優子について調べてる。何で?」


 意味がないとわかっていながら、目を薄めて画面を見て、私はそう言う。


「好きだったんじゃね」

「アイドルとかに興味あるタイプじゃないでしょ」

「でも教養としてある程度は興味ないことも把握してたよね、父さんって」


 正直、遺産相続問題がこんなに面倒なことだと思っていなかった。


 よくテレビドラマなどで遺産をめぐる殺人事件が起きたりするが、ああいったものは金持ち故の問題だと考えていたのだ。


 勿論、泥沼な殺人事件は起きていない。浩介には余るほどの多額の財産もない。


 それでも、遺産というものが存在する以上、隅から隅まで調べなければならない。


 浩介に限ってそんなものはないとは思うが、負の遺産が存在した場合、相続放棄をすることも考えなければならないのだと。


 負の遺産さえなければ、浩介の遺産は全て敦子のものに。そんなことをわざわざ全て書類にまとめなくても私も涼佑もそのつもりなのに、公的な手続きをする上では必要だというから面倒な話だ。


「涼佑、静波(しずは)」浩介が死んだ日の朝の天気予報を調べていた履歴を見つけた時、母、敦子(あつこ)が書斎を覗き込んでくる。「お昼、何食べる?」


 涼佑と顔を見合わせる。彼は眉を上げて首を傾げるだけで何も言わなかった。


「何でもいい」


 だから、私が代わりに敦子に返事をする。


「何でもいいってことはないでしょ、何でもいいってことは」

「だって思い付かないんだもん」

「じゃあ何か適当にお弁当買ってくるわ」

「車出そうか?」

「良いわよ。すぐそこだから」


 書斎の入り口から覗き込んでいた敦子の顔が消える。パタパタとスリッパが床を擦る音がして、そして玄関の扉が閉まる音がする。


 浩介が死んでから、もうずっと泣いてばかりいる、という雰囲気は家族の誰からも感じてなかった。


 浩介が家族に嫌われていただとか、死んでくれて良かっただとか、そんなことではない。 


 木下家はどこにでもあるような平凡で、あまりお互いに干渉しない家族だったと思う。


 ただ、今後への不安や目の前のやるべきことに追われすぎていたのだ。


 特に敦子に関しては、家や車の相続や保険金や遺族年金の手続き、公共料金の名義変更や支払い変更など、やらなければならないことが多過ぎた。


 だから私も涼佑も、浩介が死んでからというものの、いや、厳密に言えば自宅で倒れて救急車で運ばれてから、敦子のもとに足繁く通い、昔のように食卓を囲って、昔話や今後のことを話し合っていた。


 四十九日が終わるまでは。


 やるべき事が一通り落ち着くと、そんなことも次第になくなっていく。


 浩介の遺産を全て洗い出し終わり、文書にまとめる。遺産協議書に3人でサインと判子を押すと、それが漸くこれまでの日常に戻る合図のような気がした。

次回投稿は2/18(水)

を予定しております。

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