097 -Aono-
試しに律の腕を縛ってみたけれど、思っていたより律の反応がいいので蒼乃も少し戸惑った。蒼乃だってこんなプレイをするのは初めてである。しかし、やるならとことんやろうと蒼乃は変なところで真面目スイッチを入れた。
「ベッドに行きましょう」
腕が使えなくて一度立ち上がるのに失敗した律を、蒼乃は抱き上げる。念願のお姫様抱っこだ。
律をベッドの上に寝かせると、蒼乃は自分のネクタイも外した。ほどよい幅がある。もっと細くすれば間違った用途で使われないのに、と蒼乃は自分を正当化した。
蒼乃は律の胸のあたりに跨りながら、彼女の頭をもう一度撫でる。
「律ってセーフワードって分かる?」
「分かんない……」
「やめてって言っても本当はやめてほしくない時ってあるでしょ? だから本当にやめてほしい時に使う合言葉を決めるの」
「私は蒼ちゃんにされて嫌なことなんてないよ」
蒼乃は思わず口元を手で覆った。彼女が素直過ぎて、自分が汚れてるのだと認識させられる。
「それでも一応セーフワードは決めましょう。味噌汁でどうかしら」
食事をする度、猫に会う度に思い出してほしいという下劣な気持ちも含めてのチョイスだった。
「いいよ。無理になったら言えばいいんでしょ」
蒼乃はネクタイの端と端を摘み、律の顔に掲げる。さすがの律も何をされるか分かったみたいだ。怯えの中に期待の眼差しが含まれている。律も大概変態で安心した。
ネクタイで律の目を覆う。蒼乃はいつもにない背徳感で背中がぞわぞわした。
「きつくない?」
「大丈夫……」
もう一度蒼乃は律の頭を撫でる。落ち着かせるために撫でただけだったが、それだけで律の体が小さく跳ねた。新しいおもちゃを与えられた子供みたいに、蒼乃のテンションは上がる。
「律」
耳元で彼女の名前を囁いただけなのに、色っぽい息遣いが返ってくる。素直に蒼乃も興奮していく。
「律、キスしていい?」
声が漏れないように口を結んでいるようで返事が返ってこない。
「律ってば。返事をしてくれないと、私が寂しいでしょう」
「……いいよ」
蒼乃は少し体を後方にずらしてから、律にキスをする。いつもキスをする時に律は大抵目を閉じているが、強制的に視界をシャットアウトされるのはまた違うらしい。
「可愛い、律可愛い」
キスをしながら、律の服を徐々に脱がせていく。律の肌に蒼乃が触れる度に熱い吐息が漏れてきた。
「どう? 律。いつもより感じてる?」
「んー……」
感じてそうだった。蒼乃の気持ちも急くが、せっかくの催しなのでゆっくりいきたい。
ワイシャツのボタンまで全て外したので、蒼乃はキャミソールの中に手を入れる。お腹を親指で撫でると律の体がよじれた。面白いので脇腹を通して腰の方まで擦る。
「……!」
「気持ちいい?」
「……きもちいい……」
律には見えないのに、蒼乃は笑顔になってしまう。
「蒼ちゃん……」
「どうしたの?」
ギブアップかなと思いきや、律は蒼乃の気持ちを上げることしか言わない。
「ぎゅっとして……」
蒼乃は律の首に腕を回し、体を密着させる。顔も近づいたのでキスもした。
「はー律可愛い。本当に可愛い。大好き」
可愛くて蒼乃の理性が保たなさそうだ。もう少しだけ踏ん張りたい。
蒼乃は律に口づけをしながら、手を彼女の太腿に運ぶ。律はタイツを履いていないので生脚だ。
「本当に内腿好きね」
内腿を触った時の反応が一番良い。いつもなら手で邪魔をしてくるところだが、今日は縛り上げているので蒼乃の自由だった。
「律、触ってほしい?」
「…………」
「どこをって口にしないとダメ?」
「……さわってください……」
蒼乃は下着の上から触れて、あらあらと思いながら、すぐに下着の中に手を入れた。笑ったら律には悪いが、笑いたくなるくらいに律はこのプレイがお気に召したようだった。
「律の変態」
蒼乃しか知らない変態性が露わになって嬉しい。
「でも律、このままだと制服もベッドも汚しちゃうからタオル敷きましょう。どこにあるの?」
「……クローゼットの下段の引き出し」
恥ずかしさからか律の顔が真っ赤になる。
蒼乃はベッドの上から下りて、クローゼットの引き出しを開ける。他の引き出しには下着もあるのかなと邪な気持ちが一瞬浮かんできたが我慢した。
「タオルはどれでもいいの?」
「うん……」
手前にあった桃色のタオルを拝借し、律のもとに戻る。
「スカート脱がせるから腰上げて」
律は素直に蒼乃に従った。自分でもどの程度下着を汚しているかは分かっているのだろう。蒼乃はスカートを脱がせて、代わりにタオルをベッドの上に敷く。
「律、お待たせ。もう我慢しなくていいわよ」
「……ぎゅっとされたままされたい」
「仰せのままに」
律を片腕で思い切り抱き締める。律の声が、律の匂いが、律の体温が蒼乃のブレーキを壊していく。
「律、律、律律……律……」
必死に喘ぐ彼女を全身で感じながら、蒼乃は彼女の名前を呼ぶ。幸せが溢れて、脳が溶けていく。どうしようもなく満たされていた。
◆ ◆ ◆
五ラウンド目を終えた時、ついに律がセーフワードである「味噌汁」を発した。もう途中から目に巻いていたネクタイは取れていたけれど、律はぎゅーっと目を瞑っていた。
律はたまに目を開けて蒼乃の顔を見ては、顔を赤くしていて可愛かった。
腕に巻きつけていたネクタイも外す。脱力している律を蒼乃は抱き締めて、頭を撫でる。ついでに乱れた髪を軽く整える。
「律、今日はすごい頑張ったわね」
「……さすがにもう無理……」
「キスはしていい?」
律がこくりと頷いたので、蒼乃は喜んで律に軽い口づけをする。
「蒼ちゃんはキス好きだよね」
「正確には律とするキスが好きだけれど。律は好きじゃないの?」
「好きだよ。でもぎゅっとされるのも好き」
蒼乃は腕の力を強くした。
「教室で蒼ちゃんの上に座った時に、後ろから抱き締められるのも好き」
「今度後ろからしてみる?」
「そうゆう話でなくて……」
後ろからしても律は喜びそうだけど、蒼乃からすると律の顔が見えないので寂しい。
「授業中も律を膝の上に乗せてたいんだけれどね。さすがに怒られそうだから」
「うん。美術の授業だったとしても怒られると思うよ」
「私ね、学校でやりたいことがあるの」
「えっちなのはダメだよ?」
律が失礼なことを言う。確かに律にまつわるえっちなことは考えることが多いが、公序良俗は弁えているつもりだ。いや、保健室で律と二人きりになったら理性は機能しないかもしれない。
「で、蒼ちゃんは学校でなにをしたいの?」
「律をお姫様抱っこして学校中を回りたい。手始めに一年生の廊下を歩くのはどう?」
「どうじゃないよ。恥ずかしいよ……」
こんなことを言っているが、蒼乃が強めに頼めば律はさせてくれると思う。
「律、服着させてあげる」
律の背中に両腕を回し、下着のホックを探す。律の場合、アンダーが細過ぎてサイズを探すのが大変そうだ。
下着と留めてから、腕に通っていたワイシャツを伸ばし、第三ボタンから留めていく。首元は開けたままにして、蒼乃は律の鎖骨を噛んだ。
「ちょ、蒼ちゃん! 服を着させてくれるって言ったじゃん!」
「律がじっとしてたらいずれ終わるから」
「いずれっていつー?」
蒼乃は律の質問を無視して律の首元を吸う。運動をしたあとだからか、律の匂いが強い。匂いに吸い寄せられるように蒼乃は律の肌の上を這った。
「また痕をつけようとしてる!」
「いいじゃない。明日明後日と休みなんだし」
「よくないよくない。家族に見られる!」
やだやだと言いつつも律は大した抵抗をしてこない。ツンデレと言うやつかもしれない。蒼乃はポジティブに捉えることにした。
「この前キスマークつけた時、お姉さんに何か言われた?」
「言われなかったけど……めちゃくちゃガン見されたよ……」
「じゃあ今週末もまた見られてちょうだい」
蒼乃はよく見えるところにキスマークをつけた。美味しそうだったので、ついでに噛み痕をつけた。スマホにも収めて蒼乃はご満悦だ。




