041 -Ritsu-
元気が有り余ってる律と遥が一番にやりたいと言ったのはスリーオンスリーだった。四人なのだから、正確にはツーオンツー。ゴロがよくないなと律は思った。
二手に分かれる時、暗黙の了解がある。想像の通り、律が蒼乃と組むことだ。みんな蒼乃から恨みをわざわざ買うようなことをしない。
「遥、わたしは足手まといににしかなりませんよ?」
「大丈夫大丈夫。現役バスケ部だよ。任せておいて」
日向の薄い体を遥がバンバンと叩く。
「律って結構バスケ上手よね」
同じチームになれて嬉しそうな蒼乃がすり寄ってくる。
「うん。球技の中で一番好きかも」
体を動かしていればなんとかなるスポーツだと思っている。それと律はシュートが上手だった。
「そんなにバスケ好きなのに、遥と一緒にバスケ部入らなかったのね」
「厳しい練習とかやだもの」
コンビネーションであれば、律と蒼乃が上回っていたが、現役バスケ部の動きは手強かった。ひとたびボールが渡ってしまえばディフェンスは無意味に近い。あと律はディフェンスが得意でない。
「はい、十本目」
遥が綺麗にシュートを決めたところで、日向がギブアップした。律も少し汗をかくくらい動いていた。
日向の欠場にあわせて蒼乃も撤退した。ワンオンワンになった。もはやどっちがシュートを失敗するか競っただけで、律が負けた。
「はるちゃんはやっぱり強いなー」
「現役生が負けちゃあねぇ」
遥は小四の頃からミニバスを始め、それ以降ずっとバスケを続けている。六年以上も同じものに打ち込んですごいな、と律は感服している。
「次は……体を動かさないものをやりましょう」
日向が提案すると、蒼乃が親指と人差し指を立てた。
「ガンシューティングはどう?」
ここになにがあるかは一通り予習してきているらしい。人混みの中から、コーナーがある場所を探す。奥の方にあった。二台あったので、これもまたさっきと同じ組み合わせで分かれた。
「蒼ちゃん、先にやる?」
「律からどうぞ」
難易度を設定できるらしかった。律は少し悩んで中級にした。
「頑張って」
蒼乃の声がすぐそこでする。すぐ横に立っていた。正直ちょっと気が散るなと思う。
「ほらほら、出てきたから撃たなきゃ」
狙っているつもりだが、的を外れる。どこに照準をあわせれば、というか照準ってどこ。
「悔しい」
悔しい結果だった。なんのコツを掴む前に終わってしまった。そして、蒼乃はわりとなんでも器用にこなす。ガンシューティングどころか射的だってやったことなさそうなのに、高得点を叩き出していた。
でも「どう?」って振り返った顔がとてもよかったので悔しさは消えた。
「蒼ちゃんは射的の名人になれるよ」
「別にならなくてもいいわ」
遥と日向の方も盛り上がっていた。日向が上手いようで、二周目で上級をプレイしていた。
「ひなちゃんは私たちの中で一番器用かもしれないね」
「りっちゃんは一番ブッキーだよね」
「そんなこと、……そんなことあるか」
そもそも器用なら片付けももう少しできるはずなのだ。
その後近くにあったアーチェリーも順番に試してみたが、やはり律が一番下手くそだった。
「私、今日全然活躍していないのでは……?」
自称運動好き人間だが、結果はついてきていない。慰めるように蒼乃が腕を回してきた。悲しい気持ちだったので、身を委ねた。
「ボウリングの時にメダルゲームの券もらったけどどうする?」
遥が人数分の券を見せてくる。どうやらメダルと交換できるらしい。
「あるならやってみませんか。メダルゲームなら座れますし」
お疲れ気味の日向が言う。メダルゲームはフロアが異なるので、エレベーターで移動した。ちなみにエレベーターに乗る時、開くボタンを先に押してくれるのは遥だ。
律はメダルゲームをしたことがない。他の三人も経験豊富なわけではなさそうだった。
各々好きにどうぞという形になったが、蒼乃はもちろん律を離さない。手を繋いでいる彼女に問いかける。
「なにやる?」
「そうね……これでいいんじゃないかしら」
蒼乃が選んだのはメダルを落とすやつだった。多分選ぶ決め手となったのは、二人掛けの椅子だったからだと思われる。
「律、やり方分かる?」
「落とせばいいんじゃない」
仲良く二人で腰掛けて、適当にメダルを投下していく。
「たまにはみんなで遊ぶのも悪くないわね」
蒼乃の発言に律は驚いた表情を隠さなかった。
「何?」
「いや、自分で言うのもアレなんだけど、蒼ちゃんって私といられればそれでいいとか言いそうだったから」
「否定はしないわね」
「しないんだ」
それでも蒼乃が遥や日向のことを大事に思ってることは分かったので、律は嬉しい。
「ボウリングはまた律と二人で来たいし、カラオケでいちゃいちゃしたい」
「蒼ちゃん、カラオケはいちゃいちゃするところじゃないよ」
いちゃいちゃしたくなる雰囲気は分かるけど!
律の右手を蒼乃の左手が絡み取る。恋人繋ぎをして、ぎゅーっと力を込められる。
「過ごしていると律と二人っきりになれるところって全然ないのよね」
「今はだめなの?」
「ここでキスしていいのなら二人っきりということで認定するわ」
「……ここでされるのは困っちゃうなぁ」
蒼乃の言う通り、キスができるほど周りに人がいない環境ってない。放課後の教室でたまにしているけど、正直リスキーだなと思う。
「この辺りも田舎ってわけじゃないもんね」
電車だって深夜の一時まで走っている。世の恋人はいったいどこでキスをしているのだろう。
「律とキスしたい」
蒼乃は堂々と言った。律は答えに悩む。もちろん律だってできることならしたい。
「明日の放課後、できたらしよう」
「いいの? いつも律嫌がるじゃない」
「だって人来るかもしんないし。でも私だってしたいから……」
手に込められる力が強くなる。蒼乃がなにかを我慢しているのは明白だった。
「ゲームセンターになんて行けなくていいから、ラブホに行きたい」
「欲望ダダ漏れてるよ」
このまま蒼乃を喋らせていいのか悩む。
「景気はどうですかな」
背後に遥が現れる。やましいことはしていないが、邪な話をしていたので急な登場には驚いた。
「メダル入れるの忘れてたわ」
「はるちゃんの方はどうなの?」
「見ての通りすっからかんですよ」
遥は両手を上げてみせた。
「邪魔でしたかな?」
「そんなことないわ」
蒼乃は残っていたメダルを全部投下した。特に場面が動くこともなかったので、律たちもゲームセットとなった。
「ひなちゃんは?」
「一足早く終わらせてトイレに行ったよ」
「私も行ってこようかしら」
蒼乃の手が離れる。蒼乃が座っていた椅子に遥が座った。
「トイレまではついていかないんだね」
「行かないよ……。子供じゃないんだし」
学年の特色で分かれるのかもしれないが、律たちの周りの女子は友達のトイレに付き添うという文化はなかった。男子の方はあるようだが。
当然、律と蒼乃もお互いに用がなければ一緒にトイレには行かない。
「あたしは嬉しいよ。りっちゃんが毎日楽しそうで」
小学生時代も中学時代もそれなりに楽しく過ごしていたが、遥の言いたいことは分かる。
「はるちゃんは毎日楽しい?」
「もちろん。まぁ、でもたまにりっちゃんの親友ポジションも取られちゃった気がして寂しいけどね」
「はるちゃんは私の親友だよ」
「あはは、ありがと」
でも二人きりで遊びに行くことはないかもしれない。それは確かに寂しかった。




