042 -Aono-
無料シャトルバスを利用してから、乗る路線は二手に分かれた。律とはここでお別れだ。寂しいが明日を糧に生きるしかない。
蒼乃の隣にいるのは、律以上に身長差が開く日向だった。日向の乗り換え駅まで一緒だ。
入学以降、四人で行動することが多かったが、蒼乃は律につきまとってばかりだったので、日向と二人きりというのは珍しい。
「二人きりというのは気まずいですね」
言いづらいことを日向が言い放った。
「そうね。正直、何を話そうか悩んでいたわ」
「惚気話でも聞きますよ?」
「日向ってそういう話に興味あるの?」
普段からあまり人の輪に積極的に入ってくるイメージはなかった。
「はい。他人の恋愛話は好きですよ」
「意外。自分の恋愛話はダメなの?」
「ダメと言うか……ないですね。わたし自身の恋愛話は」
「へぇ。どんな人がタイプとかは?」
「ないです。自分自身の恋愛像とかもないので」
電車が来たので、二人で乗り込む。買い物帰りの人が多いのか、車内は混んでいる。
「蒼乃こそ好みのタイプってあるんですか?」
「顔の良い子」
「面食いですか」
「あとは人懐っこくて、笑顔が可愛くて、どこか放っておけない子」
「律のことですよね。分かりました。聞いたわたしが馬鹿でした」
日向はあからさまにため息をついた。
「まぁ律の顔が良いというのは、私も同感です。今まで出会った人の中で一番可愛いと思います」
「そうよね? 私がおかしいわけじゃないわよね。何度言っても律が自覚してくれないの」
「自覚があったら厭らしいじゃないですか。今の天然がちょうどいいかと思いますよ」
クラスメイトの前だというのに、蒼乃はスマホを取り出してロック画面の彼女を見てにやつく。
「でも美人部門で言うなら、蒼乃、あなたが一番ですよ」
「そう? ありがとう」
蒼乃は特に謙遜しなかった。平均よりは綺麗な顔をしている自覚は持ち合わせていた。
「しかし、蒼乃に告白する度胸があるとは思いませんでした」
「なかったわよ。遥が背中を押してくれたの」
日向は合点がいったように「なるほど」と言う。
「良かったですね。ちゃんと律と付き合えて。お二人ともいつも幸せそうに見えます」
「幸せよ。すごく」
これ以上の幸せは、きっと律といることでしか生まれない。
「日向から見て、律って私のこと好きだと思う?」
何変なことを聞いてるんだという顔をされた。蒼乃はもっと満たされていたかった。
「好きだと思いますけど。愛されてる自覚ないんですか?」
「いえ、自覚はあるわ」
「面倒くさい人ですね」
そう、蒼乃は面倒くさい。こんな面倒くさい人間を相手にしてくれるなんて、律はもちろん、遥も日向も寛容な人間だった。
「わたし、次で乗り換えなので」
「結局ファーストキスの話はできなかったわね」
「今度機会があれば聞きますよ」
短い挨拶を交わして、日向は降りて去って行った。
蒼乃は律がいればそれでいいが、律以外のものがなければいいとも思わない。友達と笑い合ってる律だって可愛い。
つまるところ、今日も楽しかった。




