040 -Aono-
ボウリングは順調に第二ゲームを迎えていた。第一ゲームの時点でのトップは遥だったが、わりとみんな僅差である。ちなみに最下位は律だった。ストライクも取ってはいるのだが、取った次のゲームでガターになったりしている。プレッシャーに弱いようだ。
「律はよくその細腕で投げられるわね」
蒼乃は膝の上に座らせている律の腕を触る。手首なんて親指と小指で丸を作っても届く。
「明日は筋肉痛になるかもしれない」
「そしたらマッサージしてあげましょうか」
邪な気持ちで提案をする。
「蒼ちゃんはすぐに狙ってくるね。マッサージは遠慮しておきます」
断られてしまった。でも、学校で変な気持ちになっても仕方ないので、マッサージは別の機会にしよう。
「蒼ちゃん、私重くない?」
「全然。貴方、標準体重からかけ離れているでしょう。今何キロなの」
律は随分と小さい数字を口にした。女子高生たるもの、普通自分の体重なんて口にしないと思うが、律は明け明けと言う。
「もっと食べないと……って、よく食べてたわね」
アメリカンドッグを頬張る律。何かとよく食べている姿を見ている気がする。
「律、それ美味しい?」
ボールを投げ終えて戻ってきた遥が問う。
「美味しいよ。食べる?」
「いやいやいや」
遥の視線が蒼乃に移る。食べないよ、と首を振っていた。
「美味しいならあたしも買ってこようかな。お腹空いてきたし。蒼乃もなにか食べるなら一緒に買ってこようか」
「私は大丈夫。律に一口もらったから」
「左様ですか」
遥は買い物に出かけ、日向が入れ替わるように戻ってきた。
「蒼乃、どうぞ」
蒼乃は名残惜しそうに律から手を離す。律は惜しむ様子もなく、さっと立った。
蒼乃の順位は遥に次いでの二位だった。このまま中間地点を維持したい。負けたくない気持ちはもちろんあれど、優勝者の報酬はいらない。
二ゲーム目に入って、やはり腕は疲れてきた。日向もどこかへろへろとしていた。元気なのは律と遥だ。テンションが常に高い。
「蒼ちゃん、ふぁいとー!」
彼女に応援されては頑張ろうと思ってしまう。律に褒めてもらえるなら優勝してもいいかもしれない。
そんなわけでストライクを取った。ボールを 拭いていた律とハイタッチをする。それから抱きついておいた。視線の先にいた日向が顔をしかめる。
「律も頑張らないと最下位よ」
「なんかボールが右に曲がるのよね」
確かに律の投げたボールは右側に転がっていき、ピンを二本だけ倒していった。
「もっと左から投げたら?」
「そう意識すると真っ直ぐいっちゃうんだよ」
二投目がガターだった切ない成績の彼女を思う存分撫で回す。次のプレイヤーとなる遥が「邪魔だよ」と割って入ってきた。遥の言う通り妨げになっていたので、謝って席に戻った。
律はメロンソーダのおかわりを取りに行ってしまったので、席には蒼乃と日向だけが残る。
「日向って新聞部でしょう。普段どんなの書いているの?」
蒼乃は校内で律しか目で追っていないので、新聞は読んでいない。
「最近反響があったのはこれですかね」
日向がスマホを操作して、画面を蒼乃に見せる。『後夜祭で美少女カップルが誕生!』と大きく書かれた新聞記事の写真がそこにあった。
「これ、書いたの日向だったの」
まさか身内リークだとは思わなかった。
「初の号外記事です。ほとんど寝ずに書いて、朝イチで学校に行きました。続編を望む声もあるので、ネタ提供はいつでもお待ちしてます」
「いくらでも提供するわよ。何がいい? ファーストキスの話?」
いいところで遥が戻ってきて日向の番となってしまう。律も帰ってきた。蒼乃が手を広げたら、何の疑いもなく膝の上に律が座る。
「りっちゃんと蒼乃は上下どっちなの?」
一瞬何の話かと思ったが、すぐに理解した蒼乃はあけすけに答える。
「もちろん私が上です」
「予想通りか」
他人に想像されるのはちょっと変な気分だ。
律は意図することを分かっていないようで、「上ってなに?」と聞いてくるが二人とも答えなかった。
蒼乃はそう言った隠語をネットや本を読んで覚えたが、遥も調べる機会があったのだろうか。
自分の恋愛でいっぱいいっぱいだった蒼乃だが、遥や日向の恋愛模様も少しは気になる。二人とも特に噂を聞いたことはないが、どちらも美形だ。律には敵わないけれど。
「ほら、蒼ちゃんの番だよ」
「うん。行ってくる」
本当はいってきますのキスがしたい。蒼乃もさすがに自重はした。
◆ ◆ ◆
ボウリングの勝負結果は、二ゲーム目から動かない結果となった。上から順に、遥、蒼乃、日向、律である。
「さぁ、存分にあたしの良いところを言って褒めてください!」
遥が胸を張る。何を言おうか悩んでいると、日向が小さく手を挙げた。
「ポジティブなところ」
無難でまともなところを取られてしまった。律に変なことを言われる前に蒼乃も挙手する。
「律の写真をくれるところ」
「それは蒼乃にとって都合の良い話なだけでは?」
「ちょっと! 変な写真送ってないよね!?」
小さい頃の写真とかもらっているけど、決して変なものはない。
「最後はりっちゃんですな。ちゃんと褒める言葉をくだされ」
遥にねだられ、律は「そうだなぁ」と呟く。
「周りの人のことをちゃんと見て、声をかけてくれるところかな」
こういうところだと蒼乃は心の中でため息をつく。
「りっちゃんは相変わらず良い子だね! お姉さん嬉しいから、飴玉をあげよう」
遥が鞄からのど飴を取り出し、律に握らせた。
しかし、一番まともなことを言ってもらえたはずなのに、遥は手のひらを返す。
「じゃあ、最下位のりっちゃんは罰ゲームね」
当たり前のように遥がルールを追加する。面白そうだったので「いいわね」と蒼乃も乗る。日向も「やりましょう」と言ってきたので、律の反対意見は通らない。
「ではでは、りっちゃんに直してほしいところを言っていこう」
「なにそれ。ただの悪口大会じゃない?」
遥は律の意見を無視して手を挙げた。
「はい、小谷瀬いきまーす。最近いちゃいちゃし過ぎ」
遥の視線が律と蒼乃を捉える。蒼乃の腕が律の腰にしっかり回されていた。
「それは私のせいじゃないですねー」
「律が可愛いのがいけないの」
「ほら、そうやってすぐいちゃつく」
間違いなく律のせいである。この愛しさは困ったものだった。
「次はわたしがいきますね。律はもう少し身の回りの片付けをした方がいいと思います」
「ガチ指摘やめて」
日向が「せめて机の中くらい整理した方がいいですよ」と付け加える。もっと強く言ってやってもいい。
「最後は私ね」
蒼乃は律に巻いていた腕を解くと、彼女の頬を摘んだ。
「天然人たらし」
最大限の悪口を言ってみたが、律には刺さらなかったらしい。きょとんとした顔をしていた。天然故の反応。
「それは小学生の時からだから直らないんじゃないかなー」
幼馴染が言うのだから、望み薄かもしれない。蒼乃はしっかりと手綱を握っておこうと改めて心に決める。
「まだ時間あるよね。スポッチャ行こう」




