038 -Ritsu-
遊園地で騒げば帰りは眠くなるかなと考えていた。しかし、新宿で乗り換えてシートに座っても眠気は訪れなかった。律の頭の中は、主に観覧車の出来事でいっぱいだった。
いっぱいキスをした。いっぱいいっぱい。
初めてキスをしたのだって、ほんの一ヶ月ほど前なのに。今は普通にキスをする。間接キスで戸惑っている場合じゃない。
繋いでいる蒼乃の手は温かかった。律の手も温かい。二人でほかほかしている。
「今日は楽しかったね」
蒼乃に話しかける。ありきたりな定型文だった。
「とても。またお化け屋敷は行きたいわね」
「まだそれ言う……。参加型はダメ。せめて映画」
お化け屋敷は金輪際無理だ。
「でも、数学のテストでのお願いが一つ残ってるでしょう」
「私も残ってるから、そのお願いを打ち消します」
牛乳なみに嫌いなことができてしまった。
「もう、冗談だってば。そんなに嫌そうな顔しないで。可愛いけれど」
「またすぐ可愛いって言う」
蒼乃はわりと軽率に「可愛い」という言葉を使う。そして、律には可愛いという自覚がない。
「だって律は可愛いもの。きっと都内を歩いていたらスカウトされるわ」
「それは蒼ちゃんでしょうが。無闇に知らない人についてっちゃダメだよ」
今更ながら、学校一の美少女が彼女なのだと自覚する。今まで誰かに告白とかされなかったのだろうか。
「蒼ちゃんてさ、今まで何回告白されたことあるの?」
「ないわよ」
それはとても意外だったので、律は「嘘だぁ」と返した。
「嘘じゃないわよ。本当にないから」
高嶺の花過ぎて手が出なかったのだと納得する。
「律はあるらしいわね。告白されたこと」
さては遥から聞いているな。嘘は通じないようだった。カウントしていいのか分からないが、一度蒼乃の前でも告白まがいなことをされている。
「私以外に告白されても付き合ってた?」
「それはない、と思う……」
ちょっぴり自信がなかった。後夜祭のムードにあてられたら流されていた自分がいるかもしれない。
「いや、でも、今は蒼ちゃんと付き合ってるし。これからも蒼ちゃんとしか付き合うつもりないから!」
言い訳するように早口になった。
「蒼ちゃんはさ、いつから私のこと好きなの?」
そして話題をズラしていく。
「入学式から」
「へ?」
「一目惚れなの」
この顔のどこに一目惚れする要素があったのだろうか。
「最初は可愛い顔って思って。話していくうちにもっと好きになったの」
大真面目な顔をして言われる。律は少し混乱した。
「言ったでしょ。律の顔、好きだって」
「変わってるね……」
「律はどうしてそんなに自己肯定感低いの?」
「謙虚と言っていただきたい」
ともなくこの顔は蒼乃の好みど真ん中の顔だったらしい。親に感謝しておこう。
「まぁでも私も蒼ちゃんの顔好きだよ。もちろん中身も好きだけど」
今でもじっと見ていたら照れるくらいには好きだった。
「お互い外見も中身も好きなんて運命みたいだね」
茶化したように律が言うと、蒼乃は真面目に「素敵じゃない」と返してきた。
「蒼ちゃんには感謝しなきゃだなー。蒼ちゃんが告白してくれなかったら、こうして手を繋ぐこともなかったし。……ありがとう」
告白がなければ、律に恋心が生まれることもなかったであろう。もしかしたら一生誰かを愛さずにいたかもしれない。
「律こそ受け入れてくれてありがとう」
電車のアナウンスが空気を読まずに、律の降車駅に着くことを告げる。
「寝る前に電話してもいい?」
「もちろん」
今日は寝るまでの一分一秒でも彼女の近くにいたかった。




