表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイクソード  作者: 遊者
王国編
68/97

第六十八話 歴史

「これで一回だけなら蘇生できるわ」石ころサイズの魔石に大量の魔方陣が刻印されたものをブレイクに手渡す。あの日から三日三晩、不眠不休で作り上げた研究の成果。魔法の極みと言えるそれは魔法の力を使わずとも、死の淵から這い上がれるものになった。


「本当か?こんなんで残機が一個増えるとは思えんな」ブレイクは渡された石ころを空中に投げてはキャッチしてを繰り返していた。


「一回死んでみる?」今回のはかなり力作だからこんなことも言えてしまう。


「俺の魔力をまだ流していないだろ」


「そうだったけ?それじゃ流して」この魔石の真価を発揮させるためには使用者の魔力を覚えさせなくてはいけない。この世界にいる生物全てに違う魔力が流れている。遺伝子みたいなものね。空気中にも魔力があるけど、これは酸素みたいなものって言えば分かりやすいかしら。


「命を軽く見んなよ,,,」渋々魔力を石に流し込む姿はどこか哀愁を漂わせるものがあった。本当にごめんと思う反面、成功したらやりたいことが増えるし、モンスターの対応にも生かすことができる。


死霊の類や、召喚された器。それらを破壊する糸口があるかもしれない。今は方法が確立されていなくて神聖魔法を何度も使用することによって倒すことができる。


「ほら、流し込んだぞ」石は淡い紫色から強く怪しく光るようになっていた。


「じゃあ、魔法を撃ちこんでもいい?」周囲の魔力をかき集めながらブレイクに問う。


「お前が死ぬって言うのは?」今さら拍子抜けすることを聞いてくる。


「禁断の魔法で蘇らせることは出来るの?」


「,,,,,,,,,できない。殺してくれ」悔しそうに彼は言葉をひねり出した。


「ま、殺すのは冗談よ。死は残酷だから」手に集まった魔力を花を作る魔法に書き換え部屋を埋め尽くす量の花を生み出す。


「お前は本当にそういうのが好きだよな」安堵した表所を浮かべながら椅子に腰かけた。


「それはどっちの話?」


「両方だ。それよりも俺はこの後用があるから少しだけ寝る」そう宣言すると魔法空間から毛布を取り出し、体と顔を覆った。


「最近働き過ぎじゃないの?」今にも寝てしまいそうなほど体を揺らすブレイクに聞く。


「アクセルの現在位置を知るために必要な事だ」そう言って寝息を立て始めた。


アクセルとの約束の期限が過ぎていて、今はどこにいるのかもわからない。もしかしらドラゴ・ケープに留まっているかもしれないし、どこか別のところに行った可能性もある。情報を集めようにも手段が乏しい。


「すべては私のミスが招いたことなのよね」暗くなりつつある空を見上げながらため息を吐く。私がもしもあの時調停者に殺されていなければ、抵抗できる力があったのならもう少しましな結末が見えたのかもしれない。


いや、こんな風に考える時点で幻想で終わる。失敗しても別の私が上手くやってくれている。もし私が上手く出来たのなら別の私が失敗している。持ちつ持たれつも関係でこの世界に生きている。


そう思うだけで心が少しだけ軽くなる。


「魔法の研究を進めよう」重い腰を上げ、蒸留器の中に素材を放り込んでいく。今の私に求められているものはない。成功品を見せるか、現状がどうなのかを伝えればいいだけ。費用は全部王国が持ってくれる。


「蘇生石の次は羅針盤の作製ね」でもそれだけじゃ薄情な気がするから役に立つものの研究をしている。羅針盤は自分の望むところに転移することができる代物。今は古代の残骸からしか入手できないし、一日に一回と言う条件がある。


それを破るための研究だ。恐らく使われているのは座標系の魔法と転移系の魔法だろう。でも分からないのは行ったことの無い場所でも転移できるということだ。


通常、転移魔法は知っている場所、もしくは視認した場所にしか飛べない、でも羅針盤はそんなのを無視できる。


「分からないことだらけで頭が痛くなる」使い古された羅針盤を手に取って反対側に転移する。現物が目の前にある以上は模倣できるはずなんだけど、それができない。手が届きそうで届かない。本当にもどかしい。


「分解も視野に入れないと」ここまで精密に動作をする物を見たことが無い。中身の構造がどうなっているのか知りたい。でも分解したところでだろう。機械について学んでいない私がばらして分かるのは歯車の枚数位だ。


「そのためには機械について知るところから始めないと」本棚から機密事項がまとめられた本棚から一冊の本を取り出す。題名は「機械の始まり」


勉強の始めは歴史を知ることから始まる。魔法を覚えるときも図書館に通い詰めて起源を調べていた。エルフが生み出し、人間が傷つけるために変えたということをそこで知った。エルフがどのように魔法を生み出したのかを調べたが、曖昧なものばかりで信憑性に欠けていたのでそこで断念した。でも完全に諦めたわけじゃない。今も歴史を追って生きている。


「機械の始まりはドワーフが生み出した魔力を使わないで鉱石を分別する機械。この時はまだ種族間の仲が良かったのね」今はドワーフ、エルフ、人間の三種族で対立している。他にも亜人がいるけど排他されているのが現状だ。獣人とかいるけど、一歩進んだら魔獣に変わる。人間の都合で。


「そのあとに音を奏でる機械、そして,,,」パラパラとめくりながら内容を口に出す。何回も読むのは面倒だから、暗記する。暗器と言っても魔力の記憶ベースに刻むだけ。この方法はまだ論文とかにも書かれていないからいずれ公表するつもり。


「機械は終わりを告げる武器になった。次巻から機械が現在どのように使われているのかから始める」最後の頁を読み切った。


「うーん、もうこんな時間」体を延ばしながら窓の外を見る。朝焼けが真っ赤にこの部屋を照らしている。ぶれいくは いつの間にかこの部屋から出ていた。音を立てなかっただけなのか、私が気が付かなかっただけなのか。


「私も朝ごはんを食べたらひと眠りしようかな」重くなる瞼を開きながら廊下に出る。この城は何気に大きい。何千人も収容できるマギア王国の大学校よりも大きい。全てを見るには莫大な時間が掛かるだろう。


今私がいるのは城の第三フロアのC区間魔法研究室だ。このように区間分けされているのは魔法研究が混在しないためなのと、無駄ないざこざを生まないための物だ。


ちなみにここはブレイクの職場で私が招かれているところは第一フロアだ。わざわざここまでくる理由は、貴重な書物があるということと、他の区間に比べて自由度が高いことだ。


研究に制限が掛からないということは大きなメリットがある。禁断の魔法を研究しても問題が無いし、建物を破壊することがあっても責任を問われない。


「おはよう、ブランこれから飯か?」廊下をてくてくと歩いていると赤い髪をした青年に話しかけられた。


「オーバーじゃない。どうしたの?」彼の名前はオーバー・ウェン。名前にオーバーと入っているから皆に間違われやすい。そのことを不憫だと思った王が養子に迎えたことで解決した。オーバー・ウェン・オーバーという名前になって。ちなみにブレイクは未だにオーバーのことをウェンと呼んでいる。ミドルネームなのに。


あと彼は純血魔法である爆裂魔法,,,に似た魔法を操ることができる。ウェン家に伝わる火炎魔法をアレンジして爆裂魔法に似せてオーバー家だと主張している。努力家だ。そんな彼を誰も馬鹿にしない。


「飯なら俺も付いて行こうかなってな。相談したいことがあるんだ」深刻な顔をしている彼の頼みは断れない。


「良いわよ」快く了承して雑談をしながら食堂に向かう。


食堂に着くと城に滞在している騎士や兵士が談笑をしながらご飯を食べていた。活気があって緊迫感が無い。メリハリがある集団は強い。


「空いているとこは無いかな~」ここは席に着き、注文をして飯が来るという店形式を採用している。前までは自分で盛る方法だったらしいが、冷めた料理は美味しくないという理由で王が根本から改善した。


「おっ、空いてんじゃ~ん」オーバーは隅の方に空いている席を見つけ、私の手を引きすっと座った。


「それで、相談は何?」ここまで混んでいると注文の紙を取ってくれるまで時間が掛かる。本題まで行かなくても話のさわりくらいは聞けるだろう。


「そのことなんだが,,,,,,,,,」


「急に黙ってどうしたの?」


「名前、変えようかなって」顔を赤らめながら彼は告白した。


「良いんじゃない?」


「待って、何も抵抗を感じないのか?」彼は呆気にとられた表情をした後に驚きの表情を顔に張り付けた。


「名前が名家と同じってすごいプレッシャーでしょ。私だったらすぐに変えるわよ。それにオーバーでも別の名前でもあなたが刻んだ歴史は変わらない」思ったことをそのままい声にする。


正直名前なんて飾りだ。どう生きたかで初めて名前に価値が生まれる。と言うか価値があるかどうかは本人が知っていればいい。


「本当に勉強になるよ。俺、ブランよりも年上なのかな」肩を落としながら彼は涙を拭いていた。


「大げさね。で、新しい名前とか考えているの?」


「全然。受け入れてくれないと考えていたから。あ、ありがとうございます」注文を書いた紙をシェフが取ってくれた。料理が来るのは十数分先だろう。


「そうね、能力から取るのはどうかしら?」名前とかは能力とか自分が秀でたものから付けられることが多い。五歳くらいまでは仮名を使い、そこから真名を貰い生きていく。


「俺の能力は火炎なんだが、いい案あるか?」


「安直にフレイム、そこからもじってレイとかどう?爆裂魔法を光線みたいに撃ちだすらしいし」


「それいいな、プロティスに掛け合ってみるよ」話の区切りで料理が運ばれてきた。私が頼んだのは日替わり朝食セット。レイはがっつりステーキ定食だ。


「上手く話が進むといいわね」少しだけ心で願いながら食事を始める。こんなので能力が発動するとは思えないけど、気持ちって大事だから。


翌日、名前が変わったことを本人から聞いた。嬉しそうな顔をして跳ねて喜びを表現していた。犬みたいで可愛い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ