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ブレイクソード  作者: 遊者
王国編
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第六十九話 羅針盤

「今日こそは羅針盤を完成させる」羅針盤の作成に着手してから一ヶ月が過ぎた。機械の基礎を学ぶのに一週間。分解に三週間。そして手掛かりを掴むことができた。


この羅針盤の中には太古の地図が書かれていてそれを読み込んでいる。どこに行きたいかという意識を読み取り、それを反映する。後は魔力を流し込めば転移魔法が発動する。


問題は意識を読み取るための魔方陣が分からなと言うことと、地図を書かなければいけないということだ。正直、前者も後者も同じ難易度だ。


一から魔方陣を書いて行くのは莫大な時間が掛かる。既存の魔方陣を流用できれば作業が楽になるが、分解した時点では未知の物で包まれている。


地図も完成品が無い。人類の生活限界圏から先は分からないし、大陸によっても異なったものが使われている。統一するのは難しいだろう。


でも諦めたわけじゃない。この大陸だけと限定すれば作ることができる。本来の羅針盤よりも効果が薄まるが、ロストテクノロジーを再現するということに王手をかけることができる。


「魔方陣も完成間近。地図もブレイクから渡されたものがある。これで出来なかったら魔法使いの恥ね」小さな歯車を円状の金属片に取り付けていく。歯車には魔方陣が刻まれていて座標を指定する役割がある。歯が一つ進めば隣の町に行く、見たいな感じだ。


参考にした地図の真ん中であるところをゼロにして東に進めばプラス、西に進めばマイナスという具合だ。この時の東西南北の定義が難しい。ここで何回もやり直しをした。


「次に意識を読み取る魔方陣を刻んで,,,」側面に魔力、意識の流れを読み取ってくれる魔方陣を書き込んでいく。これは自白魔法を改良したもので、本人が本当に望んでいることを見透かす。


「最後に蓋を閉じて、その上から保存魔法をかけて劣化しないようにすれば,,,完成」目の前には少しだけ大きな羅針盤ができた。上面が水晶で出来ていて中の歯車がどのように動いているのが分かる。


「ちゃんと動作するかしら」自分が作ったものとはいえ、自信が持てない。魔法分野なら右に出る者が居ないと思っていたんだけど、古代の残骸は管轄外。所詮は既存のモノをどれだけ上手く扱えるかだ。


「場所は城の前で決定」羅針盤を持ちながら転移する場所を思い浮かべる。すると中からカチカチと歯車が回る音が聞こえた。座標魔法陣は上手く起動したみたい。


「転移開始」魔職を流し込んでいく。羅針盤が紫色に包まれていく。刹那視界が暗転し、晴れると城の前まで転移していた。でも想像していたグロリア王国の城ではなく、廃れた城の前だった。


「ここは、ハステア王国の跡地,,,」ブレイクの話と地図でしか知らない廃城。かつて栄華を誇っていた王国。今は現魔王が玉座にいる。私のような人間が来ていい場所ではない。


「でも、気になったら行きたくなるのが人間なのよね」好奇心に掻き立てられたら最後、馬鹿を見るまで進み続ける。本当に愚かな種族だ。


瓦礫を飛び越えながら奥に奥に進んでいく。道の傍らには薔薇園があって茨だけが柵に巻き付いている。花は咲いていなくて枯れた葉と花びらが地面に落ちてはつむじ風で舞い上がっている。


「ここから先が城の中ね」埃塗れになりながら前に進んでいく。念のために魔力をかき集めてはいるけど、魔王と相対することになれば負けは確実。即死しなければ幸運だろう。


最善策は魔王と出くわさないことだけど、嫌な予感がずっと付きまとっている。取っても落ちない汚れのようなもの。幽霊か何か、実体の持たない何かに憑かれたみたいな感覚。


「また来客か」暗闇の遥か先から女性の声が聞こえた。これはブレイクが言っていた魔王,,,今すぐ逃げなけらば。転移魔法を,,,魔力が掴めない。ずるは禁止ってことね。


「アクセラレーション!」加速魔法を使い、出口に向かって一気に駆ける。そこまで奥には進んでいない。目測は五十メートル。三秒もあれば完走できる距離。なのに遠く感じる。数千キロ離れているような気がする。


いや、これは死が近づいている時に起こる時間の流れ遅くなる現象。視界の端が光ったり、暗くなったりしている。これは走馬灯だろう。調停者に殺されるときにも同じようなことが起こった。短い時間で結論付けるとするなら死ぬ。それだけ。


「逃げるな。お前は何者だ?」地面が変形し槍のような形を取り、服を貫通した。止まれば死ぬ。でも止まらなかったら死ぬ。理不尽な二択。せめて自分が後悔しない選択をしよう。


「ハステア・ピリオド!!」黒と翡翠色の旋風が周囲に飛散する。壁、もしくは床、或いは天井を砕きながら風が魔王を求め縦横無尽に駆け巡る。あの時よりもさらに威力が上がっている。これは神格も破壊できる魔法。魔王は神じゃない。かすりでもすれば逃げる時間くらいは稼げるだろう。


「この魔法,,,君はこの王国の末裔か?」虚空から声が木霊する。上下左右至る所から声が聞こえる。魔王がどこにいるか見当が付かない。それよりも魔法が効いていない!?もしかして想像よりも遥か格上!?


「話をしよう。なに敵対心が無ければ何もしない」上空から大剣が落ちてくる。速い!


「きゃ!」バックステップでそれを避けるが、衝撃で態勢が大きく崩れてしまった。本当に死が近い。


「話をするだけだ。そんなに警戒しないでくれ。君のことは蒼髪の人間から覗いた」蒼髪ってブレイクの事?確かに二人は面識があるはずだけど、アイツは私の事を話していないって言っていたはず。だから、覗いたってことが当てはまるだろう。でも覗くってどういうことなんだ?


「分からないって顔をしているね。こっちに来たら教えてあげるよ」玉座に繋がる赤い絨毯が照らされる。壊したはずの燭台が修復され、青い炎を灯している。


床も破壊したはずなのに綺麗に直っていて埃だけを被っている。絨毯も毎日手入れされていたかのように綺麗な毛並みを見せている。


「おいで」絨毯の先には二つの豪勢な椅子。右側に俗にいう魔の王。魔王が座っていた。腰まで伸びた白い髪。緋の目と黒い目のオッドアイは引き込まれるほど美しい。


そして華奢な体に中性的な顔立ち。一見すれば男女どちらか分からない。でも私は彼女がどんな存在か知っている。元勇者で世界を救った英雄様。平和な世界にはいらないと見限られた被害者。


「怖がらなくていい。君も僕の能力『仲間』に反応しているから」立ちすくんでいると彼女は笑い手招きをしてくれた。その行動を無下にできなかった私は、恐怖心を抱きながらも照らされた道の上を歩いた。


一歩一歩踏みしめるたびに、心拍数が上がり、呼吸が浅くなる。何が地雷で爆発させるか分からない。一挙手一投足適当に出来ない。


「堅くならないで座ってよ」階段を上り切った私に隣にある椅子に座るように彼女が促した。


「し、し、失礼します」緊張が解けない体を恨みながら椅子に腰かける。


「なんでそんなに畏まって,,,あ、闘気が漏れているね。悪いことをしたよ」彼女はそういって言葉を崩し、亜空間からブレスレットを取り出し身に着けた。すると辺りに張り詰めていた緊張が解けた。


「君の名前はブラン、だね」自分の名前をぴたりと言い当てられる。古い文献には魔王は森羅万象を見透かす眼を持っていると言われている。そしてその力を人類を根絶やしに使うともいわれている。


「そして蒼い髪の男___つまるとこブレイクの婚約者で間違いない、かな?そしてマギア王国で問題を起こしグロリア王国に。そして古代の残骸を模倣した人間」次々と自分に関わることを言われていく。そのたびに冷汗がにじみ出る。


「なんで当てられるのか不思議だよね。種明かしをするよ」彼女は私の心中を察したのか、自分の左薬指に着けていた指輪を外した。


「これはスキル『観測』を発動させるもの。僕の右目『千里眼』と左目『記録眼』凄く相性がいいんだ。今みたいに過去を見ることだってできるし、一つの事に集中すれば詳しいことが手に取るように分かる」


「これは友好の証に」外した指輪を右手の人差し指につけられた。きついかなと思ったけど、身に着ける人間の大きさで変わるみたいで私の指にすっぽりと入った。


「友好?私は貴女に何かしましたか?」


「言ったでしょ?仲間の能力が発動しているって」


「そんな能力を聞いた覚えはないんですが」この世界の能力は全て発見されている。新しいものが見つかれば神官や教会が世界中に伝達する。稀に掻い潜る人間もいるがその時は能力無しになって終わり。


それに聞き覚えの無い能力でも当てはまるスキルやパッシブを連想してそこから能力に結び付けることができる。


「君は禁断の魔法が使えるんだよね?」


「一応、世界に干渉できるくらい位は」


「なら、この魔法を使ってくれないかな?ワールド・リリースって言う名前なんだけど。代償は僕が持つから安心して」聞いたことも無い禁断の魔法を使うなんてリスクが大きすぎる。代償を背負ってくれても術者に帰ってくる可能性がある。せめて内容だけは知りたい。だって名前だけじゃ見当が付かないから。


「それを使うとどうなるの?」


「もう使われたから何も起きないよ。ただ、記憶を得ることができる」真っ直ぐな瞳で言われると納得してしまう。それに良い物を貰ったし、少しくらい魔法を使ったっていいだろう。


「分かったわ。魔法陣とか、魔力の流れとかは?」


「それは私がするから」彼女はそういって空中に魔方陣を描き始めた。多少の魔力が流し込まれているが質がもの凄く良い。私の潜在している魔力全てをぶつけてやっと届くかどうか。そのくらい濃密で力強い。


「できたよ」魔方陣が出来上がるのを待つこと数分。目の前には巨大な魔方陣が出来上がった。規模は壁、床、そして天井まで書き込まれていて、見るだけで寒気がする。世界に干渉するということはそのくらい危険な行為だ。


「これに魔力を流し込めば,,,?」床に手を当て魔力を流し込んでいく。と言うより、吸い取られているという表現が正しいだろう。制御が上手く出来ない。気を抜けば体を持って行かれるだろう。


「発動するよ。あ、名前を言ってね」魔力を完全に充填できたときに魔王が最後の発動条件を教えてくれた。名前は確か,,,


「ワールド・リバース」そう唱えると莫大な情報が頭に入ってきたけどほとんどが零れ落ちて、殆ど記憶できなかった。でもこの言葉をだけはしっかりと覚えている。


「死んだらしいんだ役立たずな羅針盤」というものを。

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