第三十九話 神界6
「ネオとか言うやつ、俺のこと放っておいてどこ行ったんだ?」俺は今絶賛逃亡中。片足だけなので器用に腕だけで進んでいます。何故だか知らないけど全然面識のない神達にも追われています。
オーランと接点のある奴は誰だ!?黒髪のアクセルとかいう人間だぞ!って感じで。人目のつかないような路地裏を這いまわりながら生きれるような糸口を探しています。ま、死んでるんですけど。
「しっかし、どこまで行けばいいのやら」当初の予定とは真逆の方向を進んでいる。真ん中に行けば神と出会うリスクも増える。そんな無謀なことはしない。かといって黙って立ち止まるわけにもいかない。
だから外側の方に向かう。あっちから来たんだ。こっちから出られるだろう。確証はないけど、人生という不確かなものを歩んでいるんだ。このくらいの博打どうってことはない。これよりもやばい橋を渡ってきたんだ。今更間違う気もしない。
「あ、皆が追ってるお兄さんじゃん」やべ、何もない路地裏で神と鉢合わせになってしまった。終わった。完全に詰み。これどうしろと?完全体の俺でもなんとかなる相手じゃないのに。
「あ、前に見たことある」向こうは俺のことを知っている様で顔をつんつんしてきた。なんか、思い出せそう。なんかきっかけがあれば一発で出てきそうだな。
「お兄さん覚えてない?」あ、思い出した。橋を渡るかどうか悩んでいた時に俺のことを追い越した子だ。
「お、覚えている!頼む。勘弁してくれ」頭を下げてお願いする。尊厳なんてものそこら辺の犬に食わせた。二人を蘇らせることができればなんだってするって決めたからな。
「勘弁も何も頼まれてここに来たんだよ?」俺の顔をつんつんする。この子、俺の頬つつきすぎだろ。
「誰に何を頼まれたん、ですか?」対等な関係で居たいと思う反面、今この目の前にいる子は俺を容易に殺せる神だってことだ。今は俺が下に出て生き延びる。これが最低条件。
「ネオ。彼に頼まれたんだ」頬を触っていた手が首筋にツウ―ッと流れるように伝う。背筋が凍り付きそうなくらいな恐怖を感じる。
「君を下界に帰してくれって」丁度心臓の真上で心臓が止まった。呼吸がしずらい。体中に重りが乗ったようにだるい。この圧迫感。俺は嫌いだ。
「はっ、はっ」呼吸の感覚が短くなっていくのがはっきりと分かる。声も出せない。俺は無力だ。神という大いなる存在の前では。対等な関係?笑わせる。不可能に近いだろう。
「彼には逆らえないよ。力が違い過ぎる。神の僕らからしても、ね」少年?は銃を撃つふりをした。この時、本当に一瞬。刹那よりもさらに短い時間。俺の心臓は確かに止まった。
「脅かしすぎたね」その言葉を聞いたのは意識を泡を吹いて意識を失う直前だった。神ってのは本当に心の底から質の悪い連中が揃ってんな。暗くなっていく視界の中でそんなことを思った。
「ここはどこだ?」周りを見渡すが何の変哲も無い家の中にいた。どこの家に出もありそうな本棚には小難しそうな本が丁寧に並べられている。俺が座っているのは、いや寝ていたのは、手入れの通ったソファ。中々にふわふわで居心地が良い。
目の前には炊事場があってそこには俺のことを驚かせた張本人が料理をしていた。トントンと小気味の良い音を立てながら包丁で食材を切り、その横の釜の上ではぐつぐつと鍋が沸騰している。
「目が覚めたの?もう少しで朝食ができるから」こちらを振り向いたかと思えばまた、調理に集中し始めた。ここさえ見れば朝食を用意してくれるけなげな子なんだけどな。
「あ、ああ」戸惑いながらも返事をして、体をまたソファに倒した。天井が遠くに感じる。王国は石ばかりの建築物ばかりだったからな。屋根も壁も木造で落ち着く。
さて、この後どうすべきか。ネオに逆らえないのであれば俺は下界に帰れる。しかし嘘だった場合俺はここで殺されることになる。毒を盛られていたり、後ろから急に刺されたり、いろんなパターンが考えられる。油断はできないな。
様子見、か。心の中で呟き、呼吸を体を落ち着かせる。焦っていたって仕方が無い。空回りするだけ。考えて空回りは何度も経験している。同じことを繰り返すのは三流以下、だ。
「そんなに警戒しないでよ」そんな俺を見かねて神は俺に笑いかけた。この笑顔は信用してもいいのかもしれない。眼の奥も笑っているし、仕草もかわいらしい。
「僕の名前はナギサ・ウナバラ。男だよ」彼はそういうと完成した料理をテーブルの上に並べ始めた。女の子だと思ったんだけど残念。
「さぁ、食べよう」腕を引っ張られ食卓の前に座らされる。目の前にはおいしそうな料理が,,,ってなんじゃこりゃ!?黒焦げの肉にどぶみたいな色をしたスープ。極めつけはカビがこれでもかってくらいに生えているパン。無理しないとこんなの食えるわけない。
「こ、これを食べるのか?」最終確認だ。冗談でこれを出しているのかもしれない。俺のことをびっくりさせた少年だ。このくらいのことはしてくるだろう。
「うん。早く食べよ?」彼はそういうとパンを頬張った。この感じはマジだ。俺は流石にこれは食えない。食いたくない。
「お、俺が美味いの作る!」俺は立ち上がり炊事場に向かう。こいつに上手い料理を食べさせて目を覚めさせる。そして毒を回避する!
「え~。僕の自信作,,,」
「いいや、俺が作る」何かを言いかけていたナギサの発言を遮り、保管庫の戸を開ける。中には肉と少量の野菜。あとは適当な調味料。これさえあれば美味いものが作れるだろう。
「あ!勝手に開けないで!」一瞬で俺の前にナギサが入ってきたが漁るのは止めない。あんなもの食って死ぬより、作って死ぬ方がましだ。
「いいから、俺に任せておけ」俺のことを止めようとするナギサを避けて、肉を取り出し、ライターで薪に火を付けてフライパンを温める。
「お前は美味い料理、食べたことないだろ?」ナギサの顔を見る。ぽけっとしたこの顔は料理は腹を満たすものだと思っているな。その固定概念を覆してやる。
熱々のフライパンの上に肉を乗せ片面を四十秒。ひっくり返して四十秒。そして木の板の上にのせて八十秒。腹が減っているし、時間が無い。今回は少し手を抜こう。
再び肉をフライパンの上に乗せ塩と胡椒を振りかけていく。塩は肉に対して一パーセント。胡椒は風味を引き立てるくらい。そのあとは温めるように全体を回転させ、まな板の上に乗せる。
野菜は一口大に切り、バターと思われるものでじっくりと火を通す。なんてことは出来ないから一気に味を入れるために飾り包丁を入れる。そして高火力で一気に火を通す。
「主菜は無いができたぞ」仕上がった料理を皿に盛りつけてテーブルに並べる。
「こんなに労力を使うほどのものなのかい?」ナギサは並んだ料理を見て愚痴をこぼす。今までまともなものを食わないで生きてきたんだ。そう思うのは仕方ないだろう。
「いいから食べてみな」箸を使って俺は食べ始める。肉汁が溢れてきて美味いが獣特有の臭みもあるし、地の臭いも微かにする。適当に焼き過ぎたな。野菜もバターとような風味でカバーされてはいるが、渋さが時折顔を見せてくる。ブレイクに出したら文句を言われるな。あいつは料理にはこだわっているような素振りを見せているからな。
ナギサも俺につられて、口を小さく開け丁寧に切られた小さな肉を箸で肉を口の中に入れる。仮面の口が開くなんてどこにこだわっているんだか。
「おいしい!」足をばたばたさせて頬を手で押さえている。可愛いな。ショタコンにはたまらない仕草だろうな。俺も少しだけありとおもってしまった。
「だろ?」表情筋を緩めて笑う。そして肉に手を伸ばす。味は悪いがおいしく感じる。一緒に食べてくれる人がいるからだ。
「アクセル、僕と契約してよ」ひとしきりばたばたした後、急に契約の話を持ち掛けてきた。
「唐突だな」俺は驚きのあまり手を止めてしまった。なんで俺なんかと契約をするんだ?メリットなんて無い筈。
「理由はね、契約してから」ナギサが光に包まれていく。本来の姿に戻るのだろう。神と崇められる見た目に。
「それがお前の姿なんだな」紫色の髪の毛を頭の上に纏めていてぱっちりとした黒い瞳。背丈は俺よりも二回りほど小さい。それに人型。俺が出会ってきた神の本当の姿は獣だったから驚いた。
「うん。能力は水を操ることができるんだ」彼はそういうと手のひらから水を出して自由自在に形を変化させた。鳥から虎に。熊から龍に。水よりも滑らかに形を変えていくそれは俺のことを魅了した。
「他の神よりもちっぽけだけど契約してくれる?」彼は声を少し小さくして聞いてきた。自身が無いみたいな感じを出している。
「どんな奴でも歓迎だ。対等ならな」拳を前に出して笑う。俺の理想は対等な関係を築くこと。そこに力の大小なんて無い。
「ありがとう」彼もまた拳を前に出し、契約の魔法を唱え始めた。内容の確認をして俺がこいつの名前を言うだけ。
「よろしくな。ナギサ」辺りが白い光に包まれていく。契約が完了したってことだな。手元にも一枚の紙があってナギサの真名と姿が書かれている。
「こちらこそ。アクセル」笑いながら俺たちはまた食事を始めた。先程よりもおいしく感じる。仲間と食べているからだろう。
「それで、契約した理由なんだけど」俺が一番気になっていることじゃないか。俺が気に入られる要素なんてこの料理くらいしかないが。
「ネオよりもずっとアクセルらしいから」意味深なことを笑いながら言われた。俺が俺らしい?どういうことなんだ?当たり前のことなんだけど、なんだか胸の奥が焼けるように熱い。
「ほら、冷めるから早く食べよう」ナギサは口いっぱいに肉を入れている。懐かしいと思ったらやっぱり似ているからなんだな。
「そうだな」今日、新しい神が仲間になった。食い意地を張る見た目相応の行動をとるかわいらしい神だ。明日はどんな奴と出会えるのだろうか。
「それでこの後はどうするんだ?」食事を終えて皿を洗っているナギサに聞く。
「下界に帰したいんですが、正攻法じゃ無理そうなんですよね」能力で水を使い汚れを落とすさまは圧巻だ。みるみるうちに綺麗になっていく。魔法よりも魔法をしている。
「戦争が絡んでいるのか?」小耳にはさんだ情報を交えて聞く。
「そうですね。主神が不在な今、印をもらえないんですよ」新しい情報だな。帰るためには印が必要なんだな。それなら盗めばいいって考えがよぎったが、そんな話を聞かないってことは誰も達成できていないんだろうな。
「じゃあ裏技ならいけるのか?」正攻法が無理なら他の穴を突くようなことをすればいい。
「いけます。危険ですが」目の前に置かれた能力水を飲む。美味いな。五臓六腑に染み渡るこのうまさ。かの某帝国で取られたような効力がありそうな水だ。
「方法は?」コップをテーブルの上に置いてナギサの目を見る。
「黄泉の門を開ける方法です。幸い京に存在していて近くにあります」彼もまた自分で生み出した水を飲みながら説明を始めた。
「ここで魂の強さを測定してもらいます。強ければ下界に、いわゆる堕天という行為ができます。失敗すれば魂は砕けて悠久の狭間に落ちます。アクセルさんは神界での経験が浅いです。なのでしばらくは僕と特訓をしてもらい魂を強くしてもらう必要があります」
特訓か。死後の世界でも鍛えるなんてな。でも時間が掛かるのか。こればっかりは仕方が無いな。安全に進めるためにも。
「具体的には何をするんだ?」
「僕と戦って貰います」神との戦いか。今の俺はどこまで戦えるのだろうか。手も死も出ないのか。それとも一矢報いることは出来るのか。考えるだけで,,,
「もう武者震いですか」体の震えが止まらない。畏敬の念と牙を向けたい衝動。この熱を冷ますためにも早く戦いたい。
「いいでしょう。こちらに」ナギサは水を飲み干して廊下に向かって歩き始めた。足音がしない,,,?それどころか布が擦れているような音もしない。スキルを使っているのか?盗賊系のスキルを会得しているならあり得る。それでも違和感を覚える。なんだ、この感じ。体中に重くのしかかるような粘っこい嫌な感じは。
「どうしましたか?」ナギサが俺のことを見るために振り向く。しかしそこに音は存在しない。
「なんでもない」慌てて後を追いかけるように立ち上がる。すると後ろの方から子供の足音が聞こえた。この家に俺とナギサ以外に居るのか?恐る恐る振り返る。しかしそこには誰も居なかった。
いきなりのホラー展開!?心臓に悪いからやめてくれ!
「気が付きました?音がずれているのが」ナギサが笑うと、今までになっていたであろう音が全て鳴り始めた。足音、布が擦れる音。飲み物が喉を通る音。俺が感じていたのはこれだったのか。
「お前の能力なのか?」この世界には能力を複数持つ人間がいる。もしかしたらナギサもその中の一人なのかもしれない。
「いえ。これは僕の家の特殊構造のせいです」ナギサは指を鳴らす。それと同時に家が微かだが揺れ始めた。
「この家は神界とはずれているんです」視線の先に目をやると、通行人の声が遅れて聞こえてくる。それどころか歩き方とかも歪んで見える。
「慣れれば平気ですよ」笑っているがそんな風に済ませていいものじゃないだろこれ!?何とかと何とかの部屋みたいな感じじゃないか!この空間だけ別とか特別感があっていいな。
「でも、アクセルさんがいるときは解除します」素早く指を二回鳴らすと確かにあった歪みが無くなり、普通の状態に戻った。
「そうしてくれると助かる」礼を言いながらナギサの後ろを付いて行く。この家は広いんだな。てっきり炊事場と風呂、トイレがあるくらいの家だと思っていたんだが、迷路のように廊下が縦横無尽に伸びている。これはしっかり覚えておかないと迷子になりそうだ。
物置、倉庫、その部屋の目的が記されたプレートが扉の上に付いている。これさえ覚えておけば何とかなるかな。今と通り過ぎたところが二階に続く扉か。階段じゃなくて床が昇降する仕組みになっているんだな。機械仕掛けの家。面白いな。
これを機に機械に関心を寄せてみようか。王国でも機密情報だったし、肝心のところはドワーフたちが独占していたしな。
「アクセルは機械に興味があるの?」まじまじと機械を見つめる俺を見てナギサが聞いてきた。
「あぁ。何かの手掛かりになればいいと思ってな」懐にしまっていた二人金属片を取り出す。魔法空間に入れていてもよかったんだが、窮屈かと思って出しておいた。
「この番号、レーネとフィーレの物だね」金属片に書かれた番号だけで二人の名前を言い当てた。やはり識別番号と言っていたのが繋がるのか。
「損傷も激しくない。機械だけなら二人の意識を持ってこれるよ」ナギサは金属の状態を確認してそう言った。
「機械だけか,,,やめておくよ。意識も魂もあってこその二人だ」この提案は魅力的だ。今すぐに二人に会えるのだから。でもそれはあらかじめ用意されたセリフ、行動しかできない存在だ。そんなのは二人じゃない。そんなのに会ったところで生まれるのは感動じゃなくて悲しみだけだ。
「君ならそういうと思った」笑いながら金属片を返された。心なしか綺麗に見える。二人もそのことを望んでいるのだろうか。
「お前は分かって聞いたんだな」
「お見通しだね。それよりも訓練場に着くよ」彼に腕を引っ張られ着いたところは鎧を纏った人形に無数の武器。そして魔導書が乱雑に散らばった広場だった。
「ここで何をするんだ?」今のところあの人形を武器で攻撃することと、ナギサと戦うことしかわからないな。
「僕と戦う。行くよ?あ、怪我はしないけど相応のハンデは王から気を付けて」ナギサは全身から水を噴き出して攻撃の態勢を取った。どこにそんな水が?空気中に存在する魔力を水と認識しているのか?俺は力が全く使えないから分からん。魔法も途中で投げたしな。
「来い!」そんなことは考えていられないな。今は目の前から迫りくる洪水を対処しなくては。短剣を逆手で二刀取り出し構える。カタカタと刀身が震えている。
「威勢がいいね!ここじゃ魂も体も傷つかないから全力でおいで!」~水龍~
水が龍の形を取り、俺のことを噛み殺そうと迫ってくる。後ろにはナギサがいて追撃の構えを取っているのが見えた。これは受け止めるのは無理だ。
「回避!そしてここだ!」軌道から外れるように横に回転し、短剣を投げ飛ばす。今のアイツは攻撃の構え。そこから防御する行動なんてできないだろう。
「おっと」攻撃の構えのまま俺の短剣を軽々と指で受け止めた。まじか。割と本気で投擲したつもりなんだが。先が思いやられる。
「これならどうだ!?」地面に落ちていた槍を回転しながら投げる。遠心力を使い威力を上げる。
「筋がいいね。でもそれじゃ壁は越えられない」~薙~
槍が水で出来た刃で切り刻まれる。さっきの構えはこれを発動させるための布陣だったのか。これを解除しないと攻撃は与えられなさそうだな。
「きついな。でも諦めたわけじゃない!」地面に刺さっている剣を片っ端から抜いて行く。理由は分からないが力が内側から溢れているのが分かる。これを逃したら次は無い。
「君は本当に筋がいい」ナギサは両手を胸の前に持ってきて力を溜め始めている。俺の攻撃フェーズはこの後か前か。それは空中を踊っている剣に託されている。
「餓狼!」前までは使えなかった餓狼が迸る力によって使えるようになっている。これが使えるのならあの剣たちを操作することだって可能なはずだ。
「それで動かせたら苦労しないよ?」剣が俺の意志とは裏腹に地面に突き刺さった。そうだよな。そんなに上手くいくわけがない。でも俺は戦う。
「今までの俺ならそうかもな!」地面から剣を引き抜くように空中で握りこぶしを作り、上に持ち上げる。ミシミシと音を立てながら剣が地面から離れていく。俺の言うことを聞け。それがお前たち剣に与えられた最高の仕事だ。
「やっぱり君はどこのアクセルよりもアクセルしてる!!」~金海~
目の前が金色の水で覆いつくされる。これだよ、俺が求めていたのは。試合じゃなくて死合。文字通り命を懸けて上を目指す戦い。負ければ終わりの世界の中で自身の限界に挑み続ける。
「誉め言葉ありがとな!!」~闘争運命~
宙に浮かせた剣で海を割る。割っても割っても終わりが見えない金の海に俺は惹かれていた。これほどまでに美しいものがあって俺のことを高みに連れて行けるものがあるのかって。
「餓狼!!」全身が銀色に覆われていく。武器を強化してもいいがここを切り抜けるには俺のことを強化しないとな。
「お前も本気で来いよ!」金の海を砕き、ナギサの喉を切り裂くように狼の爪を振る。こんなんで死ぬわけないよな?ていうかこの空間じゃ傷はつかないって言ってたしな。
「言われなくても。中々いい攻撃だよ」目の前のナギサが水に変わる。これはフェイクか。感触が肉を裂いているようだったから気が付かなかった。変わるまで分からないのは厳しいな。
「でも今回は僕の勝ち」後ろから声が聞こえる。完全な死角からの攻撃。体を伏せるように地面に近づけるが、片腕を持って行かれた。
「まだわからないだろ!?」左手に溜めていた餓狼を爆発させて背中に壁が当たるところまで下がる。これで後ろからの攻撃は考えなくてよくなった。こうでもしないと勝てる気がしない。それに腕が無くたって剣は使える。今も空中からナギサの急所を狙っている。
「ナイス判断。でもそれは逆効果」~雲海~
目の前が雲で覆われる。煙幕による視界不良。目の前数十センチ先までしか見えない。死角が一気に広くなった。どこから攻撃してくるんだ?横か?前か?後ろは壁だからそれは無い。
「後ろだよ?」背中から声と同時に水で貫かれた。嘘,,,だろ?完全に壁があったはずじゃ,,,
俺が倒れていくのと同時に雲が無くなっていく。背中の方には何も無く前方数メートルのところに壁があった。
「煙幕で方向感覚を失わせてからの一撃か,,,」地面に倒れ込んで敗因を分析する。体も光に包まれて傷が塞がっていく。この空間は本当に魂にも体にも傷がつかないんだな。
「ナイスファイト。神力が使えるとは思っていなかったよ」笑いながら水をくれた。
「神力?あれって神に成らないと使えないんだろ?」神力は神にしか使えないものだと思っていたが認識が違っていたのか。
「神界で使える力のことを神力って言うんだよ」隣に座り、自分で出した水を飲み始めながら疑問に答えてくれた。
「それを黄泉の門を開けられるまで鍛えてもらいます。魂の強さというのは神力の強さと同じです。今日を一とすれば百までは上げないといけませんね」ナギサは水を弾きながら今後、どうしていけばいいのかを教えてくれた。
「先は長そうだな」俺は乱れた呼吸を戻しながら呟いた。こっからはナギサとの戦いの日々だな。神からも隠れないといけないから家からは出れないし、娯楽は戦いと会話だけだな。




