第三十話 連綿狩り
~***・ブレイク視点~
「殺したりねぇ」地面に転がるのは無数の龍の死体。それも最強と謳われていた黒龍の死骸。二つ名の黒龍とは程遠いが、それでも神に傷は与えらる強さの龍がこのありさまだ。
「つまんねぇ」大剣に付いた血を振り払い、魔法空間に収納する。体に付着した血は気にならない。むしろ、勲章として落としていない。
彼はジェノサイド軸のブレイク。気が付けば、神にも届きえる力を有していた。それでも神には成ろうとしなかった。理由は簡単で神に成れば目標を達成できないからだ。
自分以外の存在をすべて消すということ。そして自分のことを殺してくれる存在を探すということを。神に成れば束縛され、不老になり今までの様な虐殺は出来ない。
彼にとってはこんな悪逆非道なことも遊戯に過ぎなかった。死とは隣り合わせでは無くて、玩具で遊んでいる気分だった。
「人間も弱いしな」彼は同じ人間から二つ名を付けられていた。モンスターと同じように。『緋剣』と。
この世界では勲章として二つ名を付けられることがあるがその人物が成し遂げた事や、携わったことに関わる長いものが付けられるのが多い。
グロリア王国のオーバー家であれば『不動の爆発要塞』なんかだ。これは王国を守ってきたことや、純血魔法に関連付けされて付けられた。
それに対して緋の髪に、緋のオーラを纏い血まみれの彼はモンスターと同等の扱いを受けていた。そんな風に扱った人間はもういないのだが、名前だけが独り歩きしている。
「特級盗賊でも狙うか」自分を殺してくれる存在を考えた結果、自分と同じような行動をしている人間がいるというのに行き着いた。自分さえよければなんでもいいという利己的な考え。ブレイク自身それは分かっていた。
「陽炎か、連綿か」数ある盗賊の中でも悪名高いのがこの二つだ。陽炎は思い市民を狙い、連綿は王族などの要人を狙う国家転覆を狙う。
「どっちの方が殺してくれっかな。いや、楽しませてくれるかな」いくら特級といっても集団でつけられたものだ。個で見てみれば大したことのない集まりかもしれない。
「陽炎はネメシアに一回やられてるからな。連綿にするか」緋を纏って空中に飛び出す。龍の死体は蹴りだけで砕け散り、後には塵だけが残った。
連綿はいまだに壊滅の報告が上がっていない唯一の盗賊団だ。前までは傑物揃いだった盗賊世界も今ではこそこそと生きる世界になってしまった。
それでも連綿はど派手に活躍をして、世界中を震撼させている。老若男女問わず畏怖の対象になっているほどだ。
「どこに隠れてんだ?アクセルでも生かしておくべきだったか」ジェノサイド軸とは言え、索敵スキルには長けてはいない。理由はオリジン自体が索敵スキルを持っていないからだ。それでも自力で習得しているのは努力の賜物だろう。
「探すのは嫌いなんだよ。呼び出すか?顔を知らないから無理だ。仕方ない、禁断の魔法でも使うか」どの軸に行っても面倒くさいことは嫌いなブレイク。楽するためなら自分の体を差し出せる。
「探せ、理を飛び越えて。『面倒ごとが嫌いな愚者』」
自分の左腕を代償として斬り落として、魔法を発動させる。何が起こるのかを分からない禁断の魔法を最小のリスクで発動させる方法は自ら代価を出すことだ。
腕を媒体にして緑色のムカデが連綿がいるであろう方向に向かって這い始めた。大きさは数センチメートルほどで、注意深く見ていないと見逃してしまうくらい高速で動いている。
「これなら早く戦えるな」ムカデを追いながら戦いの想定をする。何人いるのか。どういった攻撃をしてくるのか。どうすれば最適解なのか。自身の脳みそをフル活用して展開していく。
連綿は数人で構成された精鋭集団。各団員に番号が振られていて、入るためには団員を殺す必要がある。こんなのはどうでもいいか。
一番強いとされているのは団長ではなく、タッグを組んだ侍と魔法使いという異色の構成らしい。番号は2と3。その他の団員の情報は表には出てこない。知っている人間は殆ど消されているからな。
なんで俺はこの情報を知っているのか。どの世界においても情報網を常に張っている人間がいる。そいつとコンタクトが取れ、尚且つ情報を引き出すことができた。時間はかかってしまったが。
とはいっても引き出せたのはこれくらいの情報しかない。それ以外の情報は噂の域を出ないものだった。
「久しぶりに滾るな」流血している左腕があった部分を見る。これくらいのハンデは別にあってもいいな。俺が一番強い。それに殺せば傷口は治る。これは俺に与えられた固有のスキルだ。全力で活かしていかないとな。
「っ!」一時間以上走った辺りで突然ムカデが地面の中を掘り始めた。どうやら俺の獲物は地面の下で待っているようだ。土葬は呪われるから、しっかり俺の緋で燃やし尽くさねェとな。
「ここら辺か?壊せば出てくるか」魔法空間から大剣を取り出す。これは殺した人間から奪った逸品だ。血を与えれば与えるほど鋭さが上がる。魔剣の類だろう。時折この剣から悲鳴が聞こえるのが鬱陶しいくらいで文句は無い。
「はぁ!」緋を纏わせた大剣を地面に思いっきり叩きつける。凄まじい爆発音と土砂が巻き上がり降り注ぐ音がうるさい。
「さぁ、俺と殺し合オウゼ?」目の前にいるのは七人。俺のことを楽しませてくれるよな?
「どこから来たんですか?まぁ折角です。一対一で闘いましょう。僕の名はドッペル」奥の方に居た仮面をつけた中性的な声をした人間が出てきた。こいつら俺のことを甘く見ているな。六人は後ろの方に下がって観戦状態になっている。見せしめで殺さないとな。
「自信があるみたいだナ。いいぜ受けて立つ。名は冥土の土産に聞かせてやるよ」大剣を構え緋を纏わせて攻撃をする。この程度の攻撃、軽くいなしてくれないと困る。
「なかなかいい攻撃じゃん。貰おうかな」仮面人間は左の腕を出し自傷した。なんの目的があるのかは分からないが、俺の神経を逆撫でしたということはよくわかった。
「痛いなぁ,,,」無くなった自分の腕を見ながら笑っていた。俺の攻撃を喰らったあいつは仮面が無くなり、素顔を見せていた。中性的な顔立ちで、金髪。それに目の下に5という番号が黒色で彫られていた。骨格的には男だろう。女でも容赦はしないがな。
「自滅か?それともハンデか?甘くみてんなぁ!」緋を空気中に散りばめ爆発させる。威嚇もあるがこの攻撃に乗せた緋が生物に触れれば反応を起こし、爆発をする。そしてその爆発はまた緋を乗せるという連鎖反応ができる。
「それも欲しいけど,,,やめておこうかな。みんなは逃げてた方がいいよ」ドッペルは手を振りかざすと、俺と同じ攻撃を繰り出し、緋を振り払った。それどころか緋の特性を完全に理解し団員に被害がないようにして、避難を促していた。
こいつの固有能力なのか?だとしたら厄介だな。俺が攻撃した分だけ不利になる。
短期決戦に持ち込みたいが、どんな技を隠しているか分からない。おとなしく見に移るか。緋は無しで純粋な体技で殺してやろう。
「見に移るのが早いね。熟練者と戦うのは久しぶりだよ」ドッペルは地面に手を突き刺し、影から人型の人形を作り出した。これも恐らくは貰った能力だろう。
俺の予想だと、『相手の能力をコピーできる能力』だな。制限があるのかは分からないが、上限が無いのだとしたら、アイツの札はとんでもないことになっていそうだ。それに体にも目立った外傷がない。身体を治癒する能力もあるのだろう。
条件が詳しく分からないし、能力も確定したわけじゃない。変に手を出して、相手の土俵に上がったら終わりだな。純粋な攻撃も控えておくか。
いや、一撃で終わらせるのもありか。攻撃を受けてコピーまでが条件だとしたら、一撃で終わらせればコピーなんてできないはずだ。
「その時間も終わりだぜ?」~緋の鳥~
緋を一点に集め、爆発させる。影で出来た人形は砕け、地面は抉れた。爆発した後には鳥の翼の様な跡が残っていた。これを耐えれたらマジでやるか。
砂塵が降り注いで視界が悪い。この技閉所で使うのは良くないんだよな。俺もダメージ喰らうしな。死にはしないから鬱陶しいだけだ。
「けほっ!けほ,,,今のは,,,効くね,,,」ふらふらになりながら立っている人影が見えた。これを耐えるのか。流石は世界に名を連ねる極悪集団の一人だな。
「これも耐えるか。これはどうだ?」~緋人~
周囲に散らばっていた力を具現化し、人の形に変えていく。細かい操作は出来ないが強いのは間違いない。作れば作る程戦闘力は下がってしまうが、爆発の威力は低下しない。何体も錬成して特攻させるのが最大火力だ。
「壊せ」緋人に命令をして、ドッペルに向かって突撃させる。その数は数十体程度。まともに近づけないかもしれないが、緋が広がればそれでいい。俺にとって有利な状況が出来上がるだけだ。
ドォン!バァン!爆音と凄まじい熱気、そして赤色の光が地下空間を包み込む。俺をここまで楽しませてくれるなんてな。他の団員と戦うのが楽しみになってきた。
「何勝った気になってんの?まだ勝負は始まったばっかだよ」目の前には球体のバリアの中にドッペルが入っていた。それも傷が完全に癒えた状態で。
「そうだよなぁ!俺もやっと温まってきたところだからよぉ!」緋が俺の感情にシンクロして爆発をしていく。俺の空間まであと一歩。それまで耐えててくれよな。
「そんなに怒っても僕に攻撃は当たらないよ」ドッペルとの戦いが始まって一時間ほど経過した。あれ以来俺はドッペルに致命傷を負わせることができていない。それは何故か。バリアが俺の攻撃を完全に防御しているからだ。
緋に反応するようにそこだけが分厚くなり、強固になる。同時攻撃を試みたが、バリアの出力が強まるだけで、解決策にもならない。範囲攻撃も同様に防がれた。
このバリアが固有の能力なのか?コピーはフェイクで本来はサポーターとして活躍していたのかもしれない。しかし、なぜ仲間を逃がした?自分は攻撃できないからジリ貧になるのが目に見えている。
「お前の能力面白れぇな!!」がむしゃらに俺は片手で大剣を振り回し、バリアの破壊を試みる。両手が無いのは致命的すぎる。力が剣に上手く伝わっていない。本来の力の半分も出せていない。
今ここで治すか?相手の能力も分からないままで?危険だ。やめておこう。俺の今の最善の手は攻撃を続けること。コピーが能力だとしたら、油断した隙に攻撃されて逆転される可能性がある。
「僕もそう思うよ」後ろから声が聞こえた。まさか,,,
「ぐふっ!」腹から剣が飛び出しているのが見える。テレポートまで扱えるのか。魔力の流れが見えなかった。コピーで間違いないな。それに心理まで読まれてるってことは探知系の能力もあるな。
「僕の勝ちでいいかな?」ドッペルが複数人見える。分身の能力まで,,,俺もマジで殺すしかないな。全力を出すのはいつ以来だろうな。
「戦いは終わってねぇぞ?」~暴走本能~
俺が授かった能力を発動させる。全身から煙が立ち上がり、心臓の鼓動が早くなる。流血するスピードが上がったが、許容の範囲内だ。
暴走本能。殺せば殺すほど力が強くなり、新鮮な血を浴びれば体の傷が癒える。ただし、一定の時間血を浴びていないと強制的に解除される。そんなデバフを持つ、こいつの最大の特徴は限界が無いということだ。
「気持ち悪いね」四方から声が聞こえる。分身を合わせた攻撃だろうな。そんな小賢しいこと俺には通用しないってことを教えてやらないと。
「誉め言葉ありがとな」今まで空気中に蓄積されてきた緋を右手にかき集めて心臓にぶつける。
「ブレイク。それが俺の名前だ。」~暴壊破走~
世界がとてつもなく遅く流れていくのを感じる。能力と緋を組み合わせた俺の奥の手。この渾身の一撃をこいつに喰らわしてやる。緋色に染まった大剣を地面に叩きつけ、大穴を開ける。
「なっ!?」向こうが動揺を初めて見せたな。テレポートの能力にもクールタイムがあるようだな。俺の勝ちだ。緋で生み出した地面を蹴って急接近する。
「じゃあな」自由落下をしているドッペルに向かって大剣で破壊する。こいつの敗因は俺を甘く見過ぎていたことだな。
「っ,,,!」悔しそうに顔を歪ませてドッペルは塵になった。俺の攻撃を喰らって死んだ者は皆、俺の生命力に変換されて跡形も無くなる。まぁ苦しまないで死ぬからいいんじゃないか。
「体が回復しない,,,?まさかこいつも分身だったのか,,,!!」大穴の上を見るとドッペルらしき影が外に走っていくのが見えた。クソが。今度出会ったら絶対に殺す。ここまでやってこれか。これだから世界が嫌いなんだよ。
「この体,,,どこまで持つだろうな」血まみれでどこを怪我しているのかもわからない。「このまま死ぬのを待つか?」「目標を成し遂げないでか?」「ここまで人を殺して諦めるのか?」大剣から怨念の声が聞こえる。
「死ぬわけないだろ」緋を使い大穴から出る。まずは体を回復するために龍でも殺しに行くか。ここら一帯の龍を殺しきったわけじゃない。生き残りは居るだろう。
「奥の手、見せちまったな」この世界において、能力と奥の手を見られる、ばれるというのは負けを決めることの一つだ。そのくらい重要で盤上をひっくり返すことの出来るジョーカーの様なものだ。勿論使いどころが悪ければ普通に負けたり、逃げられる時がある。今回がいい例だ。
「あ”ー!!イライラすんな!!」殺せなかったことにも腹が立つし、何よりも未熟で殺しきれなかった自分が許せない。今まではこんな感情を抱くことも無かったのに。
LIB軸がまた変化したのか。あいつはいつまでも好き勝手やってくれるな。調停者も面倒ごとを押し付けて顔を出さなくなったし。まじでよく出来てんな、この世界はよ!
「ちょうどいいところに龍が飛んでるな」上空に数体の龍が群れを成して飛行していた。俺の腹いせを晴らすために餌食になってもらうか。
「ふっ!」緋を使って空中を歩行し、龍たちが飛んでいる高度まで一瞬で到達する。向こうもやっと俺に気づいたようだがもう遅い。
「ありがとな」大剣を片手で振り回し、龍たちの首を斬り落としていく。何度か火球を吹いてきたが、そんなもの剣で切り裂いてやった。
「なんでこんなもの背負ってしまったんだよ」血を浴びて笑う自分が憎い。自身がやっていることに対して疑問を持ち始めてからすべてが憎くなり、殺したくなった。それをまた憎む。その繰り返し。終わらない負の連鎖。
それもこれもLIBが動いたから、俺が生まれたんだ。元凶はアイツだ。調停者の言う通り。でも俺にはまだ力が足りない。連綿にも勝てない程度じゃだめだ。全員を殺せるようになってから。神を殺せるようになったら。
そうしたらLIBを何十、何百、何千回も殺して、目の前で、ブランをアクセルを***を***を殺して、心を完膚なきまでに叩き折って、生き返れないようにしてやる。生きる希望を失くすまで、何度でも。
諦めという文字が浮かぶまで、俺はやり続ける。俺の安寧の道はそれしかないからな。どれだけ悪と言われようと、殺人鬼だと言われても、俺は俺のために生きてやる。あいつがそうしたように。
「待ってろ。俺が殺してやるからな」月は赤く染まり、風は吹かず、虫は鳴くのを止め、鳥は枝に降り立ち、人々は寝静まった。自分は存在しないと証明するように。
「その前に,,,俺が,,,お前を,,,殺してやろう」空間を裂いて出てきたのは暗黒の鎧で身を護る騎士だった。
「処刑人,,,!お前も俺の敵になりたいのか?」
「あぁ,,,調停者も,,,そうしたから,,,な」アイツ、裏切りやがったのか。俺が動いたから、リスクを冒さないように。
「そうか,,,そうだよな!世界は俺の敵だもんな!!!」
「来いよ!お前にも俺の絶望をお裾分けしてやるよ」魔法空間から大剣を取り出し、周囲に緋を散らす。こいつの能力は能力封じと空間操作。俺の能力は緋じゃないから、無限に使える。空間操作も俺が使えるから大した脅威じゃない。
「威勢が,,,良いな」地面に幾千もの剣が突き刺さる。その中から、一番断頭がしやすそうな剣を引き抜き、上段に構えた。厄介なのがこいつの攻撃。能力でも何でもないのに当たった部分が蝕まれていくことだ。単に俺が防げていないだけかもしれないが。
「だからどうした?」~緋人~
人間をかたどったものが処刑人に突っ込んでいく。俺はただ、緋が集まるのを待てばいい。暴走本能以外にも強力な技はあるからな。
「いや,,,,,,殺しても,,,問題ない,,,と思ってな」剣を振り下ろし、緋人を切り裂き俺の方にショルダータックルをしながら剣を飛ばしてきた。
空間を操作できるなら剣の周りを操って攻撃できるわな。俺もできるし。カウンターで剣を作り出すのもありだ。
「お前からそんなことが聞けるとはな!俺も殺しても後味が良くていいぜ!炎剣!」飛んできた剣を炎剣で叩き落とし、処刑人の軌道を大剣でずらす。蝕みが一番気を付けないといけない。
キィン!激しく金属同士がぶつかる音がする。こいつの鎧は超硬質素材で出来ているから破壊なんてできない。だから致命傷を与えることは不可能に近い。
「その攻撃では,,,殺せないぞ?」後ろから声が聞こえる。このくらいの操作なら余裕で回避できる。
「知ってるさ。だからこれで殺すんだよ!!」~忌緋~
身を翻して攻撃を避け、両手を鎧に当てて緋色の太陽の模様を張り付ける。
「じゃあな」模様を中心に爆発が起こる。忌緋は模様を撃ち込み、そこに緋を集中させて爆発させる攻撃だ。これだけじゃ普通の緋の使い方と変わらないが、こいつの特徴は発動を難しくして火力を数段上げることに成功している。それに死ぬまで模様が残る。奥の手、というべきだな。
塵になった処刑人を見下ろす。体が回復したってことはこいつは完全に死んだな。能力も発動してるしな。
「全員殺すから待っとけよ」




