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父と母がそれを決めた時、真っ先に報告したのは僕ではなく姉だった。姉はとうの昔に家を出て現住所も両親に教えてはおらず、更には僕は毎日この家で寝起きしていたというのに。
この期に及んで尚姉を選んだ両親に、僕はもう何の感情も抱かなかったが。
数十キロ離れた遠い場所で仕事をしていた姉は急遽家に戻り、そんな姉を両親は揃って出迎えた。父と母のその顔に笑顔こそなかったが、帰ると家に二人が揃っているというシチュエーションを、僕は少し羨ましく思ったのかもしれない。
両親はその決定事項を淡々と報告した。仮に僕ら姉弟が泣こうが喚こうが縋ろうが怒ろうが、おそらくそれが変わることはなかっただろう。それに、僕ら姉弟は涙の一滴だって流しはしなかったのだ。
怒号のひとつだって発しはしなかったのだ。
僕らは一度だって親に甘えたことなどなかった。遊園地に連れて行ってもらったことも、庭でバーベキューをしたこともなかった。家の中はいつも冷え切っていたし、僕らにとってはそれが普通だった。
なのにどうしてだろう。母がいなくなったその夜は、家がいつもより広く感じた。家がいつもより静かに感じた。家がいつもより冷たく感じた。