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「おはようございます」

三月二十三日、月曜日。引き戸を開けると目の前には無人のカウンター。奥の来客用のソファーに店長がいるだろうと思いながら進み、いつもと変わらない抑揚で挨拶をした。

「今日来なくていいって言ったのに」

「仕事がないと暇ですから」

しかし店長は僕が出勤するのを予測していたようで、その顔に驚きの色はほとんどなかった。

「三千院さんのこと、新聞にも出てましたね」

「僕達の存在はなかったことにしといてもらったよ」

「パーティーに参加したこともなかったことにしたんですか?」

「その方が手っ取り早いかなと思って」

店長がテレビのチャンネルをニュース番組に変えた。ちょうど三千院さんの殺害事件の話をしている。記事のタイトルは「大富豪殺人事件」。台風で陸の孤島と化した屋敷での殺人、更に犯人はその息子。話題性はかなりのもののようだ。

「でもお客さんの中には僕らのこと覚えてる人もいるだろうね」

「三千院さんが名探偵だって紹介して回ってましたからね……」

何でも屋は表舞台には姿を現さない。昔は殺人や窃盗などの仕事が多かったのがその理由の一つだと思う。今でこそ公園の掃除やペット探しなど平和的な依頼がほとんどだが、殺人や窃盗の依頼は少なからずあるし、今が平和だからと言って過去の罪が消えたりはしない。この店は目立たないのが一番なのだ。

だから、話題の事件を解決したのが僕達だとは言わないし、それを触れ回って有名な店になろうとも思わない。

「店長、昨日ちゃんと寝ました?」

「だいたい寝た」

「そういう曖昧な返事やめてくださいよ……」

僕はため息混じりにそう言い、さっさと裏の自室へ向かう。店長はひらひらとやる気なさげに手を振って僕を見送った。これからもこの店がひっそりと目立たない存在であることを祈ろう。




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