49/101
49
僕は文庫本から顔を上げ、引き戸のガラス越しに外の風景を眺めた。少し寒い。十月も半ばに突入して、だんだん冬が近付いているようだ。
僕は傍らのコーヒーに口をつけた。淹れたては熱々だったコーヒーはもうすっかり温くなっていて、僕は半分程残っていたそれを一気に飲み干した。
再び文庫本に視線を戻し、二、三行読み進めた。無意識に時計を見上げる。もうすぐ荒木さんが出勤する時間だとぼんやり思った。
目の前の活字に集中して四、五ページ捲る。目で文字を追いながら左手をコーヒーのカップに延ばす。カップを口に運んで、そういえば先程飲み干したばかりだと思い出した。
スニーカーの靴底がアスファルトを擦る音が聞こえて、僕は一瞬だけ動きを停止させた。引き戸が開くのを待ってからゆっくりと顔を上げる。寒そうに上着の袖を伸ばした荒木さんが「おはよう」と挨拶した。




