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その日は運悪く店長が出かけていた。いや、店長が出かけるのはいつものことなのだが、この日ばかりは本当に運が悪いと思った。荒木さんがまだ出勤していないのも、運がいいのか悪いのかわからない。

「近くまで来たから寄ってみた。昨日まで福井で仕事だったんだ」

「来る前に連絡くらいしたらいいのに……」

そうしてくれたならこんな気まずい状況にはならずに済んだのに、と思いながら、僕はカウンターから姉の顔を見上げた。イスから立ち上がるとほんの数センチだけ僕の方が高くなる。

「もしかして店長いないのか?ま、とにかく邪魔させてもらうわ」

「おじゃましまーすっ」

ずかずかと店の奥へ上がり込む姉に、ぴょこぴょことついていく弟。上がり込むと言っても四年前までは姉もこの店の従業員だったのだが、何故だか「上がり込む」という表現がしっくりときた。

「陸もすっかりこの店のベテランだな」

「それ、前来た時も聞いたよ」

姉は来客用の二人掛けのソファーにどっかりと腰を下ろした。その隣に弟も座る。

「まぁいいじゃねーか、前会ったのももう何ヶ月か前だろ?陸、ちょっと背伸びたか?」

「身体測定の結果は二センチしか変わってないよ」

「陸の成長期も止まったみたいだな。最近の若い女はみんな踵の高い靴を履きたがるからもうちょっと伸ばした方がいいと思うぞ」

僕はソファーの近くまで来て、しかし腰は下ろさずに、そっとため息をついた。久しぶりに顔を合わせまず身長の話をするというのは、まるで親戚のおじさんみたいだ。まぁ僕は「親戚のおじさん」という存在に会ったことがないが。

「ま、とりあえず店長の顔も見たいからしばらく待たせてもらうぞ。お茶とか出ねーの?」

「飲みたいなら自分で淹れてこれば」

姉は何かぐちぐち言いながら立ち上がり、弟を連れて裏の台所へ消えた。僕はカウンターに座り直すと、読みかけだった文庫本を開いた。どこまで読んだかすっかりわからなくなってしまっていた。




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