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前世社畜な辺境伯は物語から退場したい(過労のため)  作者: もちだもちこ


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後日談

蛇足的に書きました。


 俺は今、猛烈に困っている。

 慣れない正座でいる俺の隣には、頬を薔薇色に染めた愛らしい女性がいるのだが、現状は色気のかけらもない空気が流れていた。

 目の前にいるのは、異世界で師匠だった人に匹敵する覇気を持つ、カタギとは思えないような壮年の男だ。


「それで? アンタはうちのカオリをどうしようというのかね?」


 どうするもこうするもない。

 俺にとって彼女は命より大事な(実際命を捨てて守った)存在であり、死んで異世界に転生した俺が、この現代日本にまで追いかけるくらい愛している女性だ。


「お嬢さんとの仲を、認めていただきたく……」


「カオリとの仲……だと?」


 ひたすら恥ずかしがっているカオリは気づいていないのだろう。

 彼女の父親から放たれているのは殺気……つまり、俺を殺そうとするほどのオーラを出していることに。


「勘違いしないでください。私は彼女に不埒なことはしておりません」


「何っ!? うちの娘に魅力がないとでも言うのか!?」


 えー、何それ面倒くさい。

 手を出したら怒られるし、出さないのも怒られるとか、めっちゃ面倒くさいんですけど。


 とはいえ、ここで反論するのは悪手だ。


「……教えてください。お嬢様とお付き合いするのに、私の何が不安ですか?」


「全部だ」


「全部、ですか?」


「特にアンタの『貴族』という身分が、意味が分からん」


 でしょうね。

 俺もこっちに来て驚いた。


 世界の強制力というか、つじつま合わせというか。

 ダンジョンでカイトたちが見つけた異世界へ移動できる魔道具には、移動した後に「調整」する力が働くようになっていた。

 事故にあって異世界転移したカイトとユウコ、そしてカオリは病院で目覚めた。これは時間と事象を世界が「調整」した結果だと思われる。

 彼女たちが戻らなければ、そのように世界が調整するが、それだと存在自体が「なかったこと」にされかねないだろう。

 物語どおり、ちゃんと戻ってよかったと思う。


 それはともかく。

 さっきこの覇気を出してるオッサンが言う、俺が『貴族』って話なんだけどさ。


 本当はもっと早く、カオリの所へ行くはずだったんだよね。

 でも、世界の強制力に巻き込まれた俺とバスチアンは、某国の『貴族』と『執事』という役割を与えられてしまった。

 お飾りながらも、某国では貴族制度が生きている。だからこそ、日本に行く理由を作り出さないとならなかった。一ヶ月で日本へのラインを確立させた俺の……いや、主にバスチアンの手腕はさすがとしか言いようがない。

 あと、某国には「精霊」とか「妖精」がいてくれて助かった。異世界からも呼ぶこともできるけど、奴らが出るとかなり強い力が動くから控えておかないと。


 まぁ、カオリに何かあったら容赦なく呼び出しちゃうけどね☆

 

「え? デューク……さんは、貴族なんですか?」


「そうなんだよ。ここに来るまで時間がかかってしまったのは、そのせいなんだ」


「ということは……身分違い?」


「日本には貴族制度は無いと聞いているから、ここではただ君を愛する一人の男として受け入れてほしい」


「はふぅんっ!!」


 ぼふんと湯気をたてて顔を赤くするカオリ。かわいい。食べたい。


「デューク様、お顔が」


「うるさいバスチアン。やっと実った恋なんだ」


「それは承知しておりますが……」


 後ろに控えているバスチアンが、なぜか口ごもっている。彼の視線を追えば、目の前にいるカオリの父親に行き着いた。


 なぜか!


 壮年のオヤジが!


 頬を赤らめている!


「きょ、今日はご挨拶だけなので、また伺いますので!」


「……うむ」


「じゃ、私、デュークさん、を、送ってくるね!」


 なぜか身の危険を感じた俺は、そそくさとこの場から離脱する。

 駅まで送ってくれるというカオリの言葉に、ありがたく甘えることにした。(事前に頼んでいた迎えの車はバスチアンが密かに断った)







「相変わらずですね。デューク様は」


「ここではデュークと呼び捨てでいいよ。相変わらず、とは?」


「なんていうか……男女問わず、手玉に取っちゃう感じの」


「カオリ殿、それは人聞きが悪い」


「そっちこそ、呼び捨てにしてください」


 頬をぷくりと膨らませるカオリの愛らしさに、思わず頬を緩めた俺は、次の瞬間真顔になる。


「危ないっ!」


「ふぇ!?」


 雨上がりで濡れている路面を、スリップした車がこちらに向かってくる。

 とっさに彼女の腰に手を回した俺は、バスチアンが車の向かってくる方向に結界を張るのを見てから現場から数メートル先へ移動した。


 よし。彼女から見れば、車が目の前で止まったくらいの認識だろう。


「ふう、体を鍛えておいてよかった」


「へ? 今の言葉……」


 事態を把握できていないだろうカオリは、俺のひとりごとに反応して顔をこちらに向ける。

 その目には、透明な膜がぷくりと盛り上がっていた。


「言葉、とは?」


「先輩もあの時、体を鍛えないとって、言ってて、あれ? なんで、先輩が……?」


 ポロリとこぼれ落ちる透明な雫。そっと指先で拭うけれど、あとからあとから溢れてくる。

 

「そう? 俺は最後、そんなことを言ってた?」


「鍛えてないから、カッコ悪いって、笑って、きっと痛いのに、笑ってたの……ふっ、うぇっ……」


 ああ、また泣かせてしまった。

 伝えなくていいと思っていたけれど、バスチアンには「無理でしょう」と一蹴されたからな。言おうと思ってタイミング測っていたけど、こうなったらしょうがないよな。事故みたいなものだし。むしろ事故だし。うん。


「泣くなよ。ほら、また駅前の餃子を食いに行こう。おごってやるからさ」


「ばかーっ!! 先輩の、かっこつけばかーっ!!」


 ビールとすっげぇ合うんだよな。あの餃子。

 鼻水出して泣いてても可愛すぎる後輩から、俺はひとしきり可愛らしく罵られる。その後、散々奢るハメになるのは、しょうがないことだと受け入れるとしよう。


 はぁ、ホント可愛い。可愛いから許す。

 そんで、あのオヤジにどんだけ反対されても、絶対結婚してやるからな。

 覚悟しとけよ。カオリ。


お読みいただき、ありがとうございました。


……餃子とビールは至高ということで。

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