第1話:朝起きたら、世界がモンスターだらけだった件
ご指示ありがとうございます。「小説家になろう」での連載を想定し、スマートフォンやPCのどちらからでも快適にスクロールして読めるよう、一文を短めに保ち、適度な改行や空行を挟んで圧迫感をなくしたレイアウトに第1話を全面的に書き直しました。
また、作中に登場した固有名称(魔物や現象など)を整理し、設定資料集を更新いたしました。
【第1話:朝起きたら、世界がモンスターだらけだった件】
目覚まし時計の電子音が、静まり返った部屋に響き渡る。
――ピピピ、ピピピ。
ふと、天羽悠人はまぶたを持ち上げた。
枕元のスマートフォン画面を見ると、時刻は午前七時半を指している。
「ん……」
重たい頭を振って起き上がる。
昨日から両親は県外への出張で家を空けており、この広い一軒家には悠人一人だけだ。いつもなら、母親の慌ただしい足音や朝食の匂いが漂ってくる時間帯なのだが、今朝はやけに外が騒がしい。
窓の外から、けたたましい怒号や、何かが破壊されるような鈍い重低音が断続的に聞こえてくる。
「……なんだ? 近所で大掛かりな道路工事でもやってるのか?」
悠人はあくびを噛み殺しながらベッドから這い出し、パジャマのままで窓辺へと歩み寄った。
そして、何の気なしにカーテンを開け、外の景色に目を向ける。
直後、彼の動きがピタリと止まった。
「…………は?」
絶句した。
見慣れたはずのアスファルトの通学路は、あちこちがえぐれたようにひび割れ、電柱はなぎ倒され、黒煙がモクモクと空へ立ち上っている。
だが、それ以上に悠人の視線を釘付けにしたのは、そこを我が物顔で闊歩している「異形の存在」だった。
人間の背丈を優に超えるトカゲのような爬虫類型生物が、コンビニのガラス自動ドアをガシャーンと突き破って侵入していく。その手には、剥ぎ取られたばかりの看板のようなものが握られていた。
さらに、電柱の陰からは、緑色の肌をした筋骨隆々のオークらしき影が、人間サイズの包丁を振り回しながらうろついている。
「いやいやいや……」
悠人は目をこすり、もう一度窓の外をじっと見つめ直した。
しかし、幻覚でも見間違いでもなく、紛うことなき化け物たちがそこを歩いている。
「……最近の特殊メイク系YouTuberのドッキリか? それとも、またどこかのテーマパークの宣伝イベントか何かなのかよ。朝から気合い入りすぎだろ……」
悠人は微塵も恐怖を感じることなく、むしろ「朝から近所迷惑な連中だな」と冷めた感想を抱いた。
恐怖で足がすくむどころか、めんどくさいことに巻き込まれたくないという倦怠感のほうが勝っている。
元々、悠人は他人に興味がなく、群れることを好まない1匹狼気質な性格だ。
世間がどうなっていようと、自分の平穏と日常が守られればそれでいい。
「まあ、いっか。どうせ学校に行けばなんとかなるだろ」
彼は現実逃避でも諦めでもなく、極めてマイペースな思考回路でその場を納得させると、洗面所に向かい、淡々と身支度を済ませた。
制服に着替え、ローファーを履き、冷蔵庫から取り出した冷たい麦茶を喉に流し込む。
玄関のドアを開け、外へ一歩を踏み出す。
ひんやりとした朝の空気の中に、焦げ臭い匂いと血の匂いが混じり合っていた。
流石にただのイベントではないことの証左だったが、悠人は「やれやれ、遠回りしていかないと服が汚れるな」と呟くだけで、いつも通りの足取りで学校への道を歩き出した。
通学路を五分ほど歩いたあたりで、前方から凄まじい風圧と金属音が飛んできた。
「――そこっ、下がってろ!」
鋭い少女の声が響く。
ガキンッ! と、耳障りな甲高い激突音が炸裂し、アスファルトの破片が盛大に飛び散った。
「おっ?」
悠人が足をとめて目を向けると、そこでは見覚えのある制服姿の少女が、巨大な二足歩行型の魔物――後に【ゴブリン・ソルジャー】と判明する亜人と激しい戦闘を繰り広げていた。
戦っているのは、同じクラスの学級委員長である佐伯葵だった。
佐伯は手元の空中に浮かぶ半透明の青いウィンドウのようなものを操作しつつ、その両手には白く輝く細身の剣を具現化させ、的確に魔物の急所を斬り払っている。
彼女の周囲には、微量の魔力が光の粒子となって舞い散っていた。
彼女のステータスは変動時に戦闘系の【剣技スキル】を開放しており、日々の鍛錬の成果か、すでに【Skill Lv.3】に到達している。
正統派の能力者として、彼女は恐怖に顔を引きつらせながらも必死に魔物と渡り合っていた。
「はっ……はっ……! なんでこんな化け物がそこらに……っ!」
佐伯は息を荒げながら剣を振るう。
しかし、ゴブリン・ソルジャーの膂力はすさまじく、大振りの棍棒の一撃が佐伯のガードを弾き飛ばした。
バランスを崩した佐伯の隙をつき、魔物が鋭い爪を振り下ろす。
「危ないっ……!」
佐伯が思わず目を伏せた、その瞬間だった。
「――お、佐伯さん。お疲れ様です。朝練にしては、気合い入りすぎじゃないですか?」
呑気な、あまりにも緊迫感のない声が、戦場の真ん中に割り込んだ。
「え……?」
佐伯が目を開けると、そこでは、いつものように制服の着こなしも崩した悠人が、ポケットに片手を突っ込んだまま、まるでコンビニにでも行くかのような足取りで立っていた。
「り、悠人くん……!? なんでここにいるの!? 危ないから早く逃げなさいっ! 本物の化け物なのよ、これ!」
佐伯が血相を変えて叫ぶ。
だが、悠人は「いや、朝からそんな大声出さなくても……」と耳をほじりながら、目の前に迫ってきたゴブリン・ソルジャーをちらりと見上げた。
ゴブリン・ソルジャーは、邪魔な闖入者を見つけて不気味な笑みを浮かべ、その巨体から繰り出される一撃を悠人に向けて叩きつけようと突進してくる。
「……なんか、めんどくさいな。朝から通行止めにされるのは困るんだけど」
悠人が小さくため息をついた瞬間、彼の目の前に、これまで誰一人として見たことのない、漆黒の輝きを放つ巨大なステータスウィンドウが突如として展開された。
《――【スキル:神】の継承条件を満たしました》
《【Skill Lv.1】:半径1cmの地面を温める》
《【Skill Lv.1】:石ころを1ミリだけ浮かせることができる》
脳内に響く無機質なアナウンス。
一般人であれば「なんだこのゴミみたいな初期スキルは!」と絶望するところだが、悠人はそれをただ「ふーん、なんかスマホのアップデートみたいな画面が出たな」としか受け止めなかった。
そして、この世界を縛る「MP消費」や「クールタイム(CT)」という概念を、悠人はそもそも知らない。
だからこそ、彼は思考の制限を受けることなく、ただ「目の前の邪魔なトカゲ(※ゴブリン)をちょっと弾き飛ばそう」という極めてライトな動機だけで、そのゴミスキルを起動した。
――いや、起動し続けた。
【石ころを1ミリだけ浮かせることができる】
秒間、一万回。
常人であれば一回使っただけで数秒のクールタイムとMPごっそりを代償に支払うその最弱スキルが、悠人の異常な無自覚と「CTゼロ・MPゼロ」の反則仕様によって、限界突破の超高速連射(無限連射)へと昇華される。
パチパチパチパチパチパチ――ッ!
悠人の足元にあった小さな小石一粒が、空間ごと激しく振動し、目にも留まらぬ超音速の弾丸の嵐へと変貌した。
「――え?」
佐伯葵が目を見開く。
直後、ゴブリン・ソルジャーの巨体が、目に見えない無数の衝撃波に包まれた。
ドゴゴゴゴゴッ! とすさまじい轟音が響き渡り、魔物は一歩も前へ進むことができないまま、全身の形を保ったまま微粒子のように粉砕され、跡形もなく消え去っていった。
周囲に静寂が戻る。
舞い散る砂煙の中、悠人はポケットから手を取り出し、やれやれと肩をすくめた。
「ふう。なんとか通れるようになったか。……じゃ、佐伯さん、遅刻するんで先に行きますね」
「……は……? え……? いま、何が……?」
地面にへたり込んだまま、佐伯はぽかんと口を開けたまま硬直する。
悠人はそんなクラスメイトの驚愕などどこ吹く風で、再びマイペースに歩き出し、壊れかけた学校へと向かっていくのだった。




