第2話 巨大ダンジョンの深くにて2
観察を数十分にわたって続けていて、分かったことがいくつかある。
一つは冒険者となって間もないだろうが、動きがどこか実力以前に年相応のものではないのだ。地上の光が少なからず入る上層に比べて、ここは下層──。
太陽の光など入るわけもなく、周囲一帯は深い暗闇に包まれている。熟練の冒険者である宝石クラスであろうと、死を覚悟するほどの死地と断言していい。
もしかしたら気づかれるかもしれないが……。
『分析スキルを眼球を起点に発動。効力上昇のため、対象は眼前の少女……』
スキル発動をするための声での詠唱を、脳内での詠唱に変更することでバレないようにしていたはずだ。成功していたら少女のステータス欄には『暗視』スキルが表示されたであろう。
私は、極東のニンジャさながらの布地による潜伏をしていたのは間違いない。下層には光がないはずだ。
このダンジョンで五〇〇年以上前から下層で、一度も存在がバレることなく監視をし続けていた私が……、たかだか十三歳ほどの少女に直視されているはずがない。
……ちらり。
布地からほんの少しだけ顔を出してみると、普通に少女と目があってしまった。少女の顔は不思議なものを見る眼差しから、好奇心にかられる眼差しへと変わっていた。
汗腺は存在はするが機能しないはずなのに、崩れている頬に汗が流れた気がした。
仕方ない、姿を見せるとするか……。そうすれば、この少女の眼差しは──人間にとっての恐怖の対象である魔物へ向ける憎悪と殺意を宿した眼差しに変わるはずだ。
それは神代の頃から変わることのない、この世界の変えようのない、絶対の理だからだ。
私は布地を取り払い、アンデットとしての自分を見せる。
身体は引き締まっているが数箇所は骨が露出しているうえ、心臓をはじめとした内臓のいくつかは残ったままだ。少女の視線に直接映り込まないのは、私が古びた白のローブを纏っているからだろう。
灰に塗れた銀よりの白髪は腰ほどの長さで、琥珀を嵌めたような三白眼が強烈な印象を与えている。首には丸みを帯びた四角の星が並んだ、消えることのない傷跡が痛々しく刻まれている。
肌こそ隠すことができれば、人間の世界に紛れ込めるであろう容姿をしているが──。
人間とは違う異常な雰囲気を醸し出しているアンデットという、人間にとって生命の冒涜に値する存在ということを忘れさせないのだ。
そんな存在であるソウラを見ても、少女は逃亡するどころか、失禁するどころか、悲鳴を上げることもなく。
ただ変わらず、好奇心に満ちた眼差しをソウラに向けていた。
──あぁ、とんでもない少女と出会ってしまった。
ソウラは生きてきた五〇〇年以上の生で最も呆れたが、姿を見せたことを後悔することはなかった。
なぜなら、彼女の姿を見た存在は魔王軍の幹部や賢者、魔王以外の誰もが恐怖していたからだ。
それが、こんなにも小さな少女が恐怖ではない。純粋な好奇心という感情を向けたのだ。




