魔術大会本戦 ④
《リファージ視点》
「下着を……見られたっ!」
「そうだねぇ」
「可愛い下着着てた!」
「はいはい可愛い可愛い」
「なんでなんにも反応しないのおぉぉぉおおおお!」
「はいはい! 少し静かにしよっか夜だよ!」
私は自室で下着のままベッドでのたうち回っていた。同室のアルス君に愚痴ってるつもりだったけど受け流されている。
「なんでさ! 私かわいくないの? それに少しエッチじゃん!」
「……それ、自分で言ってて恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくない!」
「えぇ」
王都ではあまり見ないけど私の着ている下着は寝間着用下着で黒のレース素材。私の地元の名産品で地元では人気があった。その理由は独特の透け感と至上の触り心地。大事なところは隠しつつも仄かに見えるおへそや体のライン。その艶めかしさから娼婦や夫との情事に刺激が欲しい若い主婦などにとても人気だった。王都ではブラジャーとショーツが大昔から流行っているけどそろそろ流行りの転換が起こっていいと思う。
「もう! レイはいつも無反応なんだもん! なんでなんでなんでなんでなんでええぇぇ!」
私はベッドの上でドタドタと手足をばたつかせてうわーんうわーんと喚くと隣の部屋からドンと壁を叩く音がした。
『おい! うるさいぞ! 何時だと思ってんだ!』
「ひゃい! ご、ごめんなさい!」
私はおとなしく布団にくるまって寝ることにした。隣の部屋にはこの王都を牛耳る大商会の御曹司がいるという。その気になれば私をどうこうすることなんて造作もない。
「はぁ、おやすみリファー」
「おおおおおおやすみ!」
私はその日震えて眠りにつくのが難しかったけど実際のところは一度眠りについてしまえばなんてことはなかった。
《魔術大会四日目》
朝になった。私の気分は憂鬱そのものだった。
「はぁ、またあの夢か」
私はすぐに洗面所に向かった。アルス君はまだ眠っている。健やかな寝息をよそに、私は鏡ごしに自分の顔を見る。
「あなたも来ているのですね」
────────お姉様。
《楽園での決闘・準決勝一回戦『旧霊鉱石採掘場跡』控室》《レイ視点》
魔術大会四日目。午前中のうちに術式解体の本戦を優勝し終えて、楽園での決闘の準決勝控室にいる。本来なら準決勝と決勝に向けていろいろと集中したり考えたりするべきなんだろうけど今の僕の脳内にはどうしても昨日のことがよぎっている。
(昨日のあの女……魔力回路独特の発熱は体の表面からは感じなかった。つまり、あいつは魔術で見てくれを変えているわけではない。そもそも見た目を変える魔術なんてあるのだろうか?)
どれだけ考えても答えは出てこない。
「レイ、レイ!」
「は、はい!」
周りの声が聞こえなくなるほど考え込んでいたらしく、エイリス先輩に肩を揺らされて正気に戻った。
「しっかりしてくださいな。もう少しで準決勝が始まりますわよ」
「す、すみません」
僕は一度両手で頬をペチンと叩き意識を一度試合のほうに向ける。
「それじゃあ今回の作戦について復習しましょう」
レイシナム先輩がもう一度説明を始めてくれた。僕自身昨日のことがあって正直なところあまり覚えていないからありがたい。
「今回の試合会場は旧霊鉱石採掘場跡。かつて霊鉱石を採掘していた場所よ。露天掘りを行ったことによって段々になっていて外縁に向かって高くなっている。今回に関しては守りよりも攻めの姿勢で行く。その理由は覚えているかしら」
「えっと、たしか周囲に向かって高くなっている条件下では周囲を罠で囲むということが困難だから……でしたよね」
段々の地形だと真ん中が割と円形に近く、それ以外だと壁がある。罠で自分たちを囲むなら中央がうってつけだけど、そうなると相手に高所を取られて地理的不利に陥る。そういう話だった気がする。
「その通りよ。露天掘りの跡地はすり鉢状になっていて、中央の平地以外は段差の壁に囲まれている。罠を張るなら中央がうってつけだが、外周の高所を相手に陣取られると、上からの攻撃に対して無防備になる。だから今回に関しては罠を活用するよりもレイを最前線に置いて魔術を打ち消しながら特攻を仕掛ける形になるわ。相手は予選でも戦った嫉妬の派閥、噂だと今回は選手交代を行っているという話だから戦術に関してはここでの話し合いよりも臨機応変さが求められることになるわ」
「今回に関してはレイが重労働になりますわ。まぁど根性で耐えてください」
「ハハ、が、頑張ります」
その他の細かいところまでの作戦を確認し終わったあたりで運営側から会場に向かうよう言われた。
「レイ」
「はい、なんでしょうか?」
会場へ向かう通路の途中で僕はレイシナム先輩に呼び止められた。
「今回は開幕から産声を出しなさい。霊力も最大出力で攻撃魔術の使用も許可するわ」
「え! でもそれだと手の内を明かしすぎませんか?」
「ふふっ、大丈夫よ」
先輩は僕の背中を軽く叩いた。
「私を信じなさい」
レイシナム先輩は手のひらをひらひらと振りながら僕の前を歩き始める。この学院の先輩方は何を考えてるのかときどき分からないことがある。それでもレイシナム先輩はなぜかその通りにしておけばうまくいくんじゃないかってと思わせるものがある。レイシナム先輩の背中はカリフィスで割と鍛えてた僕と同じかそれより少し小さいくらいなのにこんなにも大きく見える
(かっこいいなぁ)
それは人間としてのかっこよさ。この人にならついていこうと思えるカリスマ性。
(この人みたいになりたい)
胸が熱くなる。きっとエイリス先輩やナリス先輩、ニリス先輩もこういう所を見てついていこうって思ったんだろう。
僕はもう一度自分の頬を両手でパチンと叩く。
(応えよう……この人の期待に)
僕はレイシナム先輩、エイリス先輩の後ろをついていって入場した。




