↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

9.勇者は、指導する


俺は昼間のお嬢様のお勉強時間を利用して、ヤールに剣術を教える事にした。

中庭の一角での指導は、どうしても他の人間の目につく。ここでは剣術の基礎を教えるつもりだ。


「なぁ、ランスロット。」

「ランスロット“さん”」

「はいはい。ランスロットさん。」

「はいは一回。」


大きなため息を吐きながら、ヤールは渡された刃を潰した剣を見る。


「俺、これ必要?」

「もちろんだ。」

「剣術なんか使わなくても、俺は十分に護衛として務まるよ?」

「護衛騎士が、剣術ができなくては格好がつかない。」

「あ、そう。」

「基礎から教えてやるから、身につけろ。」

「俺、あんたより強くなっちゃうよ。いいの?」

「それは無いから、心配するな。」

「ムカつく!」


俺は不貞腐れたヤールに、剣の握り方、基本の型を教えた。

そして、軽く打ち合いながら、基本がブレないように指導していく。



俺とヤールの本当の訓練は、お嬢様が眠ってからだ。

壁に手のひらをあてて、魔力を流すと、それまで見えていなかった扉が、壁に浮かび上がる。


「何、これ!?」

「練習場だ。」


扉を開ければ、騎士団の練習場と同じぐらいの空間がそこにある。


「なんで、壁の中にこんな場所があるんだよ!ここマジで何?!」

「うーん。謎空間?」

「はあ?あんたやっぱり常識外だわ。あんたに逆らおうとした自分を後悔する。」


「とにかく、鍛錬を始めるぞ!」

「え?でも、お嬢様はいいの?」

「俺と、エンマと、お前しか通れない結界張ってるから大丈夫。」

「ちょっと待てよ!じゃあ、俺の護衛って必要ないじゃん!」

「外出時や、今後、お嬢様が学園に通われるようになったら必要なんだよ。」

「ふーん。」


「さぁ、始めるか。まず、昼の復習な。動きに緩急つけるぞ。」

「良いけど、……それ、手放せよ。」


ヤールが俺の左手にある物を指さした。本である。

今日の本は薬草学知識の本。俺は強力な治癒が使えるから、薬草学に興味がなかった。しかし、お嬢様が来春から入学される学園には薬草学の授業がある。

現在、お嬢様の家庭教師で、それを教えられる先生がいない。かなり専門知識なので、家庭教師に学ぶのは難しい学問だ。当然、他の生徒も同様だが、俺は優秀なお嬢様が悩まれた際、すかさず教えられるだけの知識をものにしたい。

時は金なり。無駄はできない。


「俺の大切な学習時間を邪魔するな。」

「そんなもん持って、俺を指導できるのかよ!」

「当然だな。」

「馬鹿にするな!」

「やってみればわかる事だ。」


ヤールには昼間と同じ剣を持たせ、俺は剣と同じ長さの木の枝を持つ。


「お前から来てもいいぞ。来なければ、俺から行くがいいか?」

「怪我しても知らねえからな!」


ヤールはペロリと唇を舐め、剣を構えて突っ込んで来る。


「大振り過ぎ。隙だらけだ。」


俺は左手の本を読みながら、一歩も動かずにヤールを打ち据えた。


「くっそぉ!」


部屋の中にヤールが殴られる音だけが響く。


「もう少し、狙って来い。せめて、俺を僅かでも動かせてみろ。」

「煩いな、……次こそ、」


次のヤールの攻撃は、やはり俺に届かない。


「動きが読めすぎるんだ。もっと鋭く!足が止まってるぞ!俺から目を離すな。」


更に何回か枝で叩かれたヤールが足元をふらつかせ、地面に倒れ伏した。顔も体も枝で叩かれ、突かれ、小さい傷だらけだな。


俺はヤールの上に手を翳し、治癒をかける。


「え?ランスロットさん、治癒もできるの?」

「そうだ。お前の剣術と体技が上達したら、魔法も教えてやるよ。」

「お、おう。」


すっかり消えた傷を見ながら、ヤールがコクコクと頷いた。

本も読み終わったし、今日は、ここまでだな。


「じゃあ、ここまで。また明日な。」

「はい。よろしくお願いします。」


ニコニコ顔のヤールを見て、俺はちょっと驚いた。こいつ、チョロい。余程強くなれるのが、嬉しいんだろうな。

うんうん。俺にもそんな時期がありました。

懐かしい思い出だね。


俺達は謎空間から出て、部屋に戻った。既に夜中ぐらいだろう。


「では、私は部屋に戻って休みます。ヤールは、ここで、お嬢様を警護するように。」

「はい。」

「お嬢様が起きられたら、私が警護を勤めますので、休んで下さい。」

「わかりました。」

「では、お休みなさい。」

「ランスロットさん、お休みなさい。」


早めにヤールをもう少し育てなきゃな。そうすれば、俺の勉強時間ももっと取れる。

まだまだ覚えなきゃいけない事も多い。ランスロットが色々勉強していてくれたけど、まだ足りない。


刺繍とか、編み物とかね。

俺はそれもマスターしたいんだよ。


大丈夫、大丈夫。俺は指先の器用さに自信がある。

俺は努力の男だ。なんと言っても、見本は屋敷の中にいくらでもある。自分のセーターが上手く編めるようになったら、俺の刺繍と、レース編みでお嬢様のドレスを飾ってあげたい。


あ〜夢が膨らむなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。