4.勇者は、毒味をする
俺は勇者だった頃、何度も毒を盛られた事がある。
ただの農民だった俺が、神から勇者であるという託宣を受けたのが妬まれ、俺が死ねば、次は自分が、と、思った奴がかなりいた為だ。
治癒の力は産まれ持ったものだったので、毒ぐらいで俺は死んだりしないが、余りにも何度も盛られたので、変なスキルが身についた。
【毒鑑定】
見るだけで、使われている毒の種類と毒の量が見えてしまうスキルだ。
嬉しく無かった。
それしか食べるものが無い時に、これは毒ですよ〜と料理が訴えてくるんだ。腹減ってるのに。食べても平気なのに。
見た目が嫌すぎる。
我慢して口に入れれば、口の中でも、毒食べてますよ〜と訴えてくる。
食欲が減退して、腹が満たされずに眠るのは辛かった。
どうして今、こんな事を思っているかと言えば、目の前にあるミルク粥が、毒、毒、毒ですよ〜と言っているからだ。
エンマが料理長に作ってもらったミルク粥には、腹下しの毒が満遍なく振りかけられている。
あんのやろ〜!
「お嬢様、失礼致します。」
俺は胸ポケットから銀の小さいスプーンを取り出した。
ランスロットが毒味に使っているスプーンだ。
粥をひとすくい掬うと、口に運ぶ。そう言えば、ノックを注意した侍女は、料理長の恋人だったなぁと、どうでもいい事を思い出した。
不味い……料理長の料理、激不味。
俺はポケットからハンカチを取り出すと、優雅に口に入れた粥を吐き出した。
「どうしたの?!ランスロット、大丈夫?」
「はい。しかし、今日の粥は余りにも苦くて、お嬢様に差し上げられません。私が作り直させて参ります。」
「わ、わかったわ。」
俺は、お嬢様に優雅に礼をし、激不味粥を持って部屋を出た。
厨房に近づけば、料理長の声が外の廊下まで聞こえてきた。
「へへっ。楽しみだなぁ。あの薬は効くぜ。あのスカした執事野郎、必ずお嬢様の料理は食うんだろう?あんだけ不味くしとけばさぁ、お嬢様は食わないだろうけど、あいつは食ったよな?」
「お前、何か入れたのかよ。」
「腹下しの薬だ。」
「悪いやつだな。」
「あのスカした顔が、青くなって、トイレに駆け込むんだぜ。見ものだろぉ?」
俺は態と足音をたてながら、厨房に入っていった。
俺がまだ元気な事を知って、ちょっと意外そうにはしていたが、こいつまだ効いてこないのかと、不思議がってるな。
「料理長、こんな不味い料理はお嬢様にお出しできない。」
「おや、味加減をしくじりましたかね。そりゃすんませんでした。」
「どれ程不味いか、自分で食べてみてもらおうか。」
料理長はギクリとして、一歩下がった。
俺は料理台の上から、スプーンをとって一番薬が載ってる所から、大盛りに掬って、料理長の前に差し出した。
「作り直すって言ってるでしょうが!」
「食べろ!」
俺は更に一歩踏み出して、料理長の口の前にスプーンを突き出した。逃げようとする料理長の顎を掴んでスプーンの中身を放り込むと、口を閉じさせて、スプーンを放り出し、料理長の両手を後ろ手に拘束した。
耳元で低い声で話しかける。
「食べ切るまで、拘束は解かない。ちゃんと飲み込まなければ、手首を握り潰すぞ。良いのか?二度と料理は出来なくなるぞ?」
顔を真っ青にした料理長は必死に粥を飲み込んだ。
俺はそれを確認すると、手を離した。
どうやら即効性だったらしい薬はよく効いた。
料理長は凄い脂汗を流し始めた。
俺はそこまで鬼畜では無いから、顎でトイレに行けと許してやった。
走り出す料理長の背に
「二度は無いからな。」
と、言ったが、聞こえているだろうか?
「お嬢様、お待たせしました。」
「大丈夫よ。」
既に着替えて、ソファで寛いでいるお嬢様の前に、俺は自分が作ったミルク粥をそっと置いた。
お嬢様は、スプーンを持ち上げると小さく一口掬い、軽く冷まして口に運ぶ。
「美味しい。でも、いつもの味ではないわね。」
その通りです、お嬢様。
「はい。料理長に料理の味付けについて話をしましたら、先程から、少し具合が悪く、味覚が鈍っていると聞きましたので、彼には無理せず休むように伝え、私が作って参りました。」
「そうなのね。ランスロットはなんでもできると思っていたけど、料理も作れるのね。」
「簡単なものだけでございます。」
「それで、料理長は大丈夫なのかしら?」
「少し休めば落ち着くと申しておりました。後ほど、私が様子を見てまいります。」
「そうね。頼むわ。」
「はい。」
お嬢様は少し眉をさげ、目を細めながら、召し上がっている。これはお嬢様の美味しいサインなのだ。良かった。
食べ終わった食器を下げようとするエンマを制し、俺が厨房に運んでいく。
厨房に行くと、料理長は居なかった。どうやらまだ腹下しが続いているらしい。
俺は指先を噛んで血を絞り、その血で小さな丸薬を作った。
先程から比べると、げっそりと頬が痩けた料理長が戻ってきて、俺に気がつくと、真っ青になって逃げ腰になった。
コップに水を入れ、先程の丸薬と共に料理長の前に差し出す。
「飲め。」
「こ、これは……?」
「その腹下しが治る薬だ。コップの水と一緒にのみ込め。」
料理長は恐る恐る手を伸ばし、震える指で薬を掴むと、目を瞑って口に放り込み、ググッと水を飲み込んだ。
おい。信じてねえな。
飲み終わってしばらくじっとしていると、どうやら効いてきたらしい。不思議そうに自分の腹を摩っている。
「効いたらしいな。」
「……」
「お嬢様には、きちんとした食事をお出ししろ。料理はお前の天職なんだろう?料理で愚かな真似をするな。」
「は、はい。」
なんだ、素直になったな。余程、腹下しは辛かったのか?
俺は背を向けて、厨房を出た。後ろから料理長の声がする。
「あ、あの……ありがとうございました。これからは気持ちを切り替えて、美味しい料理をお嬢様に食べていただきます。」
うん。うん。良いね。




