樹海からの脱出
木漏れ日が差し込む樹海にて俺は目覚めた。体は動く。どうやら無事に異世界へと転生する事が出来たようだ。
「さて、どんな感じになっているんだ?」
鬼オンのデータをそのまま引き継いで来たのなら、俺は鬼人族になっているはずだ。試しに額に手を当ててみると2本の角が確認出来た。
「ふむ……」
次いで肉体の方の確認をする。地球での俺の体は170ちょっとの身長で、体重は55キロぐらいの所謂モヤシ体型だった。廃人ゲーマーは肥満体型というイメージを持たれるが、実際は睡眠や食事の時間を削りに削った生活をしている為、筋肉は必要最低限で脂肪すら付かないのだ。
だが、今の俺の体はどうだ?腕には筋が浮き出し、腹筋は6つに割れている。軽く拳を握り締めながら体から湧き出る力に手応えすら感じる。
「これが鬼オンの力か……」
どうやら身体能力は上昇しているようだ。これも鬼オンのキャラクターの能力のお陰だろう。
次は能力を調べようと思ったが、どうやって調べたら良いのか分からなかった。
「ん〜……F1?」
鬼オン時代にステータス表示のキーを詠唱する。すると目の前に半透明なボードが浮かび上がった。
「おぉ、ホントに現れたよ」
空中に浮かぶボードを確認する。
『氏名:ゼロ倉庫 レベル1
称号:無し
ステータス
HP:1000
MP:500
STR:100
DEX:100
SPD:100
INT:100
装備
頭:無し
胴体:鬼人の服
足:鬼人の紐靴
武器:無し
獲得スキル
・キャラクターチェンジ
祝福
魂の管理者』
各々HPは生命力を、MPは魔力を、STRは力強さを、DEXは器用さを、SPDはスピードを、INTは知力の高さを現している。
ふむ、どうやら倉庫キャラで転生をしたようだ。だが、獲得スキルに『キャラクターチェンジ』とあるので、そのスキルを使えばメインキャラやサブキャラへと入れ替わる事が出来るのだろう。早速試してみる事にした。
「F2!」
キャラチェンジのショートカットキーを告げる。すると目の前に4枚のウインドウが開かれた。
「ん〜、ここは無難にメインにするかな」
ウインドウのトップにあった戦士職を選択する。すると体が光の粒子に包まれ、瞬きをした瞬間に装備が整っていた。引き締まった体に後ろで束ねた長い銀髪。それが今の俺の姿だ。
試しに今の状態のステータス確認をする。
「F1!」
『氏名:ゼロ レベル400(EX)
称号:竜殺し(ドラゴンスレイヤー)
巨人殺し(タイタンキラー)
神殺し(ゴッドキラー)
一騎当千
ステータス
HP:45000
MP:20000
STR:1000
DEX:5000(EX)
SPD:5000(EX)
INT:800
装備
頭:鬼王のピアス+10
胴体:宵闇の甲冑+10
足:韋駄天の草鞋+10
武器:スサノオの中太刀+10、アマテラスの中太刀+10
獲得スキル
・キャラクターチェンジ
・魔眼
・神速
・二撃必殺
・気配感知
・気配遮断
・状態異常無効化
祝福
魂の管理者』
ふむ、問題は無いようだ。
俺のメインキャラはスピード重視で二刀流の暗殺者だ。スキルにある『二撃必殺』は30パーセントの確率で敵を二撃で死亡させるという軽いチートスキルである。つまり手数を多くして『二撃必殺』の効果を待つのが俺のメインスタイルだ。SPDとDEXをMAXまで上げて何とか獲得したスキルだけあり、SPDを上げて獲得した『神速』と併用すると、正に一騎当千の能力となるのだ。
そして『魔眼』。これは俺よりもレベルが低い相手には絶大な効果を見せる。よく蛇に睨まれた蛙と言うが、正にその名の通り動きを封じる事が出来るのだ。
全ての装備はMAXである+10まで強化してある。更に言えばレベル400は鬼オンでは完ストレベルである。ここまで育てるのにはかなりの苦労が掛かったが、鬼オンでは最強プレイヤーの5本の指に入っていた事はかなり自慢だったりする。まぁ地球じゃあまり役に立たない自慢だが。
「さて、次は残り3つのキャラの確認だが……」
恐らくだが残りのキャラクターもしっかりと反映されているだろう。それも確かめたいが、現状は樹海の中だ。早くここを脱出しなければ、樹海の中で一夜を過ごす事になる。それだけは避けたい。背中に2本の中太刀を担ぐと早速樹海の中をさ迷った。
※ ※ ※ ※
2時間程歩いただろうか。俺は未だ樹海から抜け出す事が出来ずにいる。
「はぁ……どんだけ歩けば良いんだよ」
俺は異世界という物に初めて嫌気がさした。何もこんな樹海からスタートしなくても良いだろうに。
「ん?」
微かだが水の流れる音が聞こえる。これは丁度良いタイミングだ。喉も渇いて来たし、何より川が流れているならその下流には町や村があるはずだ。俺は水の流れる音を頼りに足を進めた。
「おぉ〜、中々なもんだな。」
30分程歩いて、漸く樹海から脱出する事が出来た。また、現れた川は透き通っており、綺麗な水が流れていた。
両手で川の水を掬い喉を湿らせる。
「うん、美味い!」
透き通っている水が体中に染み渡っていくようだ。2回、3回とそれを繰り返し、喉の渇きを潤わせた。
「ふぅ、さてと、早めに町か村が見付かるといいな。」
川の下流に向けて再び歩き出す。日は丁度真上に来ているから時刻は昼過ぎといった所か。これは早く今日の宿を確保しなければ野宿になってしまう。何としてもそれだけは避けたい。早めに町か村が見付かる事を祈りつつ足を進めた。
そこから更に2時間程歩いた頃だった。ガサガサと森が騒ぎ出した。
「……1人、いや4人か。」
俺のスキル、『気配感知』に反応があった。さて、何が飛び出して来るのだろうか?
背中に背負っている左右の中太刀に手を重ね、いつでも戦闘に移れるよう構えをとる。すると、森の中から飛び出して来たのは1人の女性だった。何やら慌てている様子だ。
「あっ……」
女性はこちらに気付くと脇目も触れずにこちらへ駆け寄って来た。何が起こるのかと思っていると、女性の方から口を開いた。
「お願いします!助けて下さい!」
「……はい?」
一瞬の出来事に理解が遅れていると、また森がガサガサと揺れ、3人の男達が現れた。
「やっと追い詰めたぜ!」
「おぅ兄ちゃん!痛い目に合いたくなければその女をこっちに寄越しな!」
「それが利口だ、さっさとここから立ち去りやがれ!」
うわぁ、これ何てテンプレ?賊に襲われている女性を助けるだなんて、王道中の王道じゃないか。
「さぁさっさと女を寄越しな!」
男達の内1人がこちらへと寄って来る。まぁフラグが立っちゃってるんだもの。回収しなきゃいけないだろうな。俺は背中の中太刀、アマテラスとスサノオを抜いた。
「て、てめぇも歯向かうかっ!」
「歯向かうも何も、女性に助けてって言われたからな。助けるのが男だろう?」
「良い度胸だ!」
野郎共も背中や腰に差してあった武器を手にした。
さて、能力的には鬼オンの能力を持って転生したんだが、それがこの世界ではどのくらいの力になるのか、試してみるチャンスだな。早速スサノオとアマテラスを逆手に構える。これが俺の戦闘スタイルだ。
ジリジリと距離を詰めていく。痺れを切らしたか男の1人が剣を振り上げ斬りかかって来た。
「……遅ぇ」
スキルに『神速』がある俺にはそれが酷くスローに感じた。トロい攻撃を軽く交わし、両手の剣ではなく蹴りを1発、鳩尾狙いで三日月蹴り。ドスッと鈍い音がして男は数メートル程吹っ飛んだ。
「なっ!?」
残りの男共はそれを信じられないといった表情で見ていた。
「まだやるかい?」
「くっ……引くぞ!」
実力差を理解したのだろう、3人の内1人がそう叫び、倒れている男を担いで森の中へと入っていった。
「ん、大丈夫みたいだな。」
『気配感知』から敵がいなくなったのを確認すると、俺はスサノオ、アマテラスを背中に戻した。
「大丈夫でしたか?」
俺は改めて助けた女性を見やる。服はボロボロになっているが、元の服が良かったのだろう。膝下までのドレスを着ているのが分かった。整った顔立ちに流れるようなストレートな金髪と大きな青い瞳。必死に走って来たのだろう、髪はボサボサに乱れていた。
「あの、ありがとうございました!」
「ん?あぁ良いって。男は女を守る生き物だからな。そんな事より髪の毛、ボサボサになってるぞ?」
注意すると女性は慌てて髪の毛を整え出した。
「俺はれ……ゼロ、君の名は?」
危うく本名を名乗る所だった。俺はこの世界では鬼オンのゼロとして生きていくのだ。神谷零は死んだんだから。
「私はリリー・フランと言います。今回は本当にありがとうございました。」
「まぁそう気にするな?成り行きだったしな。」
お互い名乗り合った所で、再び気配感知に引っ掛かる者が現れた。もしやさっきの賊が仲間を連れて戻って来たのかと思い、再び戦闘の構えを取る。
「リリーお嬢様!」
現れたのは全身を甲冑に包んだ男だった。
「おのれこんな所まで賊が!」
男は持っていた槍を構えると俺に向かって攻撃の姿勢を見せた。
「カフカ!おやめなさい!ゼロさんは私の命の恩人です!」
「しかしお嬢様!」
「良いのです!これは命令ですよ!?」
「……かしこまりました」
リリーの命令でカフカと呼ばれた男は構えを解いた。それに合わせて俺も構えを解く。
「ゼロさん、すいません」
「別に謝る程の事じゃないさ。今まで賊に追われていたんだ。俺もその仲間と思われても仕方無いよ」
「本当にすいませんでした。カフカ、貴方も謝りなさい?」
「はっ!リリーお嬢様を救って下さった方とはいざ知らず、無礼を働き、申し訳ありませんでした!」
深々と頭を下げるカフカさん。俺はポリポリと頬を掻いてその謝罪を受け入れた。
「それよりもカフカ、他の衛士はどうなりましたか?」
「はっ!皆無事です。賊を返り討ちにした後で、お嬢様を探しに回っております」
「そうですか。それでは一刻も早く戻らなければなりませんね」
「はっ!」
「ゼロさん」
「ん?何だ?」
「助けて頂いたお礼がしたいのでご同行お願いしますか?」
うん、何処までもテンプレ的な展開だ。だが断る理由も無いし、何よりやっと出会えた人だ。着いて行かないと野宿が待っているかも知れない。
「分かった。着いて行こう」
「ありがとうございます。カフカ、行きますよ」
「はっ!」
カフカさんを先頭に俺達は森の中へと入っていった。
リリーが襲われた場所まで戻って来た。そこら辺には死体が転がっている。恐らく賊の仲間なのだろう、皆似たような装備をしていた。
「ゼロさん?どうかしましたか?」
「いや、ちょっとね……」
正直死体を見るのは2度目だ。1度目は自分の死体だが、2度目にしてこんな数の死体を見るなんて……
俺は胃からせり上がって来る吐き気を抑える為、深呼吸をして呼吸を整えた。
「おぉリリーお嬢様!よくぞご無事で!」
「シュウト、こちらのゼロさんに助けて頂きました。」
「これはこれは!この度は実にありがとうございました」
シュウトと呼ばれた男性はカフカと同じく甲冑に身を包んでいる。彼も衛士なのだろう。
「大した事はしてませんよ。飛び掛かった火の粉を払っただけですからね」
一応こちらも低姿勢で挨拶をする。
「シュウト、被害状況は?」
「馬車が1台使えなくなってしまいました」
「残りの荷物は無事なのね?」
「はい。一応残りの馬車に分けて積んであります」
「ならば大丈夫ですね。ゼロさん、こちらの馬車へとお乗り下さい。直に出発します」
案内されたのは先頭を走る馬車だった。リリーもそれに乗り込む。程無くして馬車は動き出した。馬車の中には俺とリリー、それにシュウトと呼ばれた男性の3人が乗っている。残りの衛士達は他の馬車に乗るか馬に乗っている。
「ゼロさん」
「何だ?」
「取り敢えず私達一行はゾルドの町まで参ります。ゼロさんは何処か目的地はございますか?」
「いや、特には無いかな」
「それではゾルドの町までご案内致します。そこで私の客人として扱わさせて頂きますので」
「ん、了解。」
ゾルドの町がどういう所かは知らないが、リリーの言葉からするとそれなりに大きな町なんだろう。全くもってテンプレ通りの展開だな。
馬車は走り続ける。その間俺達の乗った馬車は沈黙が流れていた。特に喋る事が無いのだ。
「……えぇっと、ゼロ殿は何処からやって来たのですか?」
沈黙を破ったのはシュウトさんだった。
「見た所、我々とは違った風貌をしていらっしゃるのですが……」
確かに周りは全員人間ばかりだ。鬼人という存在、いやエルフやドワーフといった亜人種もいないのだろうか?
「俺は海を渡った所にあるジパングという小さな島国出身です。」「ジパング、ですか?」
「はい。俺のいた国では色んな種族の人が入り交じっていたんですが……この大陸には亜人種はいないんですか?」
「亜人は確かにいる事はいます。ただ我々人間に比べたら圧倒的に個体数が少ないですね。まぁ大陸を西と東に分断しているウォール山脈を越えると、逆に人間の方が少ないと言われていますけどね。」
成る程、ウォール山脈か。覚えておこう。何分鬼オンでは全キャラ鬼人だったからな。
※ ※ ※ ※
取り敢えず馬車は日が傾くまで走り、今日は夜営となった。干し肉等の携帯食と違い、大鍋で皆の分のシチューを炊き出しての食事となった。
「ゼロさん、お口に合いますか?」
「ん、美味しく頂いてるよ」
「それは良かったです」
リリー嬢は俺の隣に座り込み、シチューを食している。正直言って今日初めての食事だ。空腹という名のスパイスで、何でも美味しく頂けた。
「見た所ゼロさんは旅人のようですけど、荷物は持ち歩かないのですか?」
「いや、持ってるぞ?ただ食べ物なんかは持っていないけどな。F3!」
俺はインベントリを開いた。そこは鬼オンで集めた魔獣の素材や装備品の予備で埋まっていた。そもそも鬼オンでは飲食するというシステムが無かった。なので自ずとインベントリは装備品や素材で埋まってしまうのだ。
俺は開いていたインベントリから剣を1振り取り出した。
「「「っ!!」」」
途端に周りがザワつく。端から見たら何も無い空間から剣を取り出したように見えたのだろう。
「あの、ゼロ殿?今のはどうやって……」
皆を代表してシュウトさんが聞いてきた。
「あぁ……空間魔法の一種ですね。」
「空間魔法!?」
「はい。質量に限界はありますけど、手荷物にはならないので便利です」
「……ゼロ殿は魔法も使えるのですか?」
「ん〜、今の状態だと空間魔法くらいしか使えませんね」
嘘は言っていない。今の『ゼロ』はアサシンタイプの『ゼロ』だ。キャラクターを魔法職タイプの『ゼロ』になれば、それこそ多種多様な魔法が使える。何せソーサラータイプもレベル400の完ストなのだから。
「ゼロさんには驚かされてばっかりですね」
リリーがそう告げてくる。
「偶々だよ」
そう偶々だ。この世界に来てからは偶然が偶然を呼んでいるだけ。テンプレ通りだが、必然では無いはずだ。
剣をイベントリに仕舞うと食事を再開した。
一行の夜番はシュウトさん達が順番で行うとの事で、俺は取り敢えず就寝させて貰える事になった。
「ふぅ……」
寝床に付くと溜め息が溢れる。異世界にやって来てまだ1日目だというのに、フラグが立ったお陰で現状がある。有り難い事だ。フラグを回収しておいて正解だった。
「さて、明日はどんな1日になる事やら……」
期待が8割といった所か。期待感でドキドキしていたが、やがて睡魔がやって来て俺は意識を手放した。




