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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンの大冒険~  作者: 稲葉トキオ
第1章 エミル・スターリングと水晶竜の少年
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第22話 闇夜の襲撃者 その1 ぼくたちの戦い

「こ、これは……!」


 ユーリがおどろいてあたりを見回すと、野営地のまわりを取りかこんでいるのは、きのうの夜自分たちを襲ったのとおなじ黒い犬、【ブラッドッグ】の群れでした。


『きのうのヤツらだ!』


 しかもシロンの言うとおり、そのブラッドッグたちには見おぼえがありました。きのう自分とクリスを襲ってきた群れと、ぜんぶ同じ個体なのです。あんなにおそろしい目にあったので、忘れたくても忘れられません。


『クー!』


 クリスは『でも、野生のワンダーなら、シロンねえさまの結界でここまで入ってこれないはず……』と言いましたが、


『ううん、ちがうよクリス。結界がはんのうしてない。アイツら……ノラのワンダーじゃない!』


 シロンの《聖結界》が寄せつけないのは、あくまで野生のワンダーだけで、ウィザードのパートナーはそのかぎりではないのです。でないと、クリスたちも入れないことになりますし。


「なんだって!?」


 キッと目を細めたシロンの言葉を聞いて、ユーリは想像以上にまずい状況にあることを理解しました。


 だって【ブラッドッグ】の群れは、ざっと見たかぎり九体はいます。それがぜんぶウィザードのパートナーだというなら、絶望的です。ウィザードのパートナーは、野生のものよりずっと強いのですから。ユーリはこの二日間で、じゅうぶん思い知っていました。さらに頼みの綱のエミルは、疲れてぐっすり寝ているしまつです。


「……そうなんですよ、ユーリくん。野生の【ブラッドッグ】なんて凶暴なワンダー、この平和な平原には生息していません。ウィザードのものでなければ、ありえないのです。あなたたちが襲われたことも偶然ではないのです」


 とても神妙なライカの顔を見て、ユーリはごくりと息をのみました。


 そこに、また足音が聞こえてきました。今度は、人間のものです。


 足音のぬしは、ユーリたちの前に姿をあらわしました。短い黒髪を逆立てた、目つきの悪い男です。


『ガルルル……』


 さらにそのかたわらには、ひときわ大きな犬、いえオオカミ、【ブラッドルフ】がいました。おそらくこいつこそが、群れの真のリーダーなのでしょう。


 ユーリは、自分たちが襲われたことは偶然じゃないという、ライカの言葉の意味が理解できました。おそらく、故郷のクリスタイドを出た直後から、ずっと狙われていたのでしょう。


 シロンとクリスはうなり声をあげ、めいっぱい威嚇しました。ざんねんながら、効果はありませんでしたけれど。


 男は、飼い犬とたわむれるようにブラッドルフの頭をなでると、言いました。


「竜の子を奪うってカンタンな仕事だと思ってたら、チビどもがポメラニアンになって帰ってきたときは、おどろいたぜ」


『ガウ! ガウ! ガウ!』


 ブラッドッグの群れは、そろってうらみのこもった目つきでユーリたちをにらみました。きのう、シロンの《ドラゴンフレイム》で、全身の毛を爆発させられたことを根に持っているみたいです。


「つかぬことをおうかがいしますが、あなたはどちらさまでしょうか?」


 ライカはこんな状況においてもへらへらとした態度で、男にたずねました。


「オレか? オレは人呼んで"暗闇のヴァイト"様だ。よろしくな、メガネのねーちゃん」


「よろしく、闇バイトさん」


「略して呼ぶんじゃねェ!」


 ライカの変わらぬおちゃらけっぷりに男……ヴァイトはカッとなって、地面を踏み鳴らしました。


「……どうして、ぼくたちを狙うんですか?」


 今度はユーリが強気にたずねました。ウバオーガ団と戦った経験で、多少こういう手合いに慣れたということもありますが、ついさっき、自分の中の勇気を自覚して、クリスといっしょに強くなると誓い合ったことで、どうやら心境に変化があったようです。


「そうだな。依頼されたから、とでも言おうか。そのドラゴンを奪ってこいってな」


 ヴァイトは人さし指をクリスにつきつけました。


「やっぱり闇バイトじゃないですかー」


「だからその呼び方やめろ!」


 またまたライカのおちゃらけっぷりにヴァイトはカッとなって、地面を踏み鳴らしました。


「イヤだって、言ったら……?」


 それでもユーリは、なおも強気にたずねました。もちろん、クリスをわたす気なんてこれっぽっちもありません。クリスを守りたいと思ったら、さらに勇気がわいてくるのです。


「決まってる。当然チカラずくでいただくまでだ。パートナー契約も破棄してもらってな」


 契約の破棄……ウィザードとワンダーがパートナーの関係を解消することです。それは双方の合意による円満なものだったり、一方が見限って去っていったり、ペットのように捨てたり、あるいは一方が死んだりと、さまざまなケースがあります。


 パートナー契約しているワンダーは、ほかのウィザードとつながったりできないので、鑑賞目的でなければいったんノラにもどす(フリーにする)必要があるのです。そのため、ワンダーを奪う際にウィザードに契約破棄を強要、あるいは殺害する強盗行為も数多くおこなわれています。


 きのうの夜の襲撃の実態は、放し飼いのような状態だったブラッドッグの群れを使って、野生のワンダーによる事故死に見せかけてユーリを殺害し、クリスの契約を白紙にもどすというヴァイトの作戦だったのです。


「……ほら、闇バイトじゃないですか」


 その事実に気づいたライカは、ぼそっと冷たくつぶやきました。


「ついでに、手間賃がわりにもう一匹のヤツもいただいとこうか。チビどもがやられた借りもあるしな。そこで寝てるガキがパートナーなんだろ?」


 エミルとシロンにまで毒牙にかけようとするヴァイトに、ユーリとクリスは怒りをおぼえました。


 その燃えるような闘志に気づいて、ヴァイトは言いました。


「その顔……答えはノーと受け取っていいってことだな?」


 ユーリとクリスは顔を見合わせ、うなずき合って、言い放ちました。


「その答えは……イエスだ!」『クー!』


 同時にユーリは杖をかまえ、ウバオーガ団戦(さっき)のエミルをまねて先制攻撃をしかけました。


「《エナジーショット》!」


 クリスの口から放たれた白い球形の光が、無警戒のブラッドルフの顔面に命中しました。ダメージは小さいものの、ブラッドルフはするどい目でクリスをにらみ、はっきり倒すべき標的と認識したようです。


「ナマイキな! オマエら、やれッ!」『ワオーン!』


 ヴァイトとブラッドルフの声にあわせ、野営地のまわりを包囲していたブラッドッグの群れが、いっせいにユーリたちめがけて跳びかかってきます。そのスピード、迫力ともに、きのう襲われたときよりずっと上です。今回はウィザードがそばにいるためでしょう。近くにいればつながりが強くなるのは、当然なのです。


「放し飼いだったゆうべとは、ワケがちがうぞ!」


 ヴァイトは右手をバッとつきだして吠えました。


 シロンも戦おうとしてくれていますが、エミル抜きでは《ドラゴンフレイム》などの強力な魔法を使えず、ブラッドッグの群れを止められません。ならぼくたちでどうにかしようと、ユーリは杖を振りました。


「《クリスタルシェル》!」『クーッ!』


 クリスは一同をまとめてつつみこめるくらい、広い範囲に水晶のドームを展開しました。ここまで大きなバリアを出せるようになるとは、ウバオーガ団との戦いとさっきの誓いのおかげで、ふたりの心と体が成長したからこそです。


 まわりからブラッドッグのツメとキバが、水晶のドームを砕こうとつぎつぎ突きたてられます。さすがに多勢に無勢、九体の全方向からの一斉攻撃によりバリアはガンガン壊れていき、バリーンとやぶられた次の瞬間、


「《ストーンニードル》!」


 ドドドドドッという重い音とともに、ユーリたちのまわりの地面から、灰色のとがった岩石がつぎつぎ生え、ブラッドッグの群れをまとめてふっとばしてしまいました。


「ふふーん、どんなもんです!」


 ライカはニヤリとカメラをかまえ、メガネをキラリと光らせました。


 そばには銀色のイワガメ……いえ、それよりさらに重厚感のある、いわば鉄のカメと呼ぶべきワンダーがどっしりと立っていました。


「ライカさん、そのワンダーは……?」『クー?』


「【テッコウキ】といいます! 【イワガメ】の変異種のひとつですよー!」


 イワガメの変異種……つまりユーリの新しい仲間、【コイシカメ】のジェムのたどるかもしれない未来の姿のひとつということです。この場を切り抜けたら、ぜひくわしく聞いてみたいものだと思いました。


「チッ、邪魔を!」


 ヴァイトはいまいましげに舌打ちしました。


 ふっとばされたブラッドドッグの群れは態勢を立て直し、もう一度襲いかかるつもりです。


「まわりのブラッドッグ(したっぱ)の相手は私が! ユーリくんはそこの闇バイトくんを!」


「……はい!」『クー!』


 戦力的には、ライカがヴァイトとやり合ったほうがいいのでしょうけれど、この襲撃はクリスが狙われたことが原因ですし、ユーリの成長のために必要な試練だとも思ったので、彼にまかせることにしたのです。


『エミルー! おきてー! てきだよー!』


 いっぽうシロンは、すやすや寝ているエミルを起こそうと体をゆすっていました。ですが、エミルはまったく起きる気配がありません。戦力として期待はできなさそうです。


 でもユーリには最初から、そのつもりはありませんでした。ゆうべ助けられてから、ずっとエミルのお世話になりっぱなしですし、いまは疲れをいやすために気持ちよさそうに眠っている彼女を、こんなことで起こしたくなかったのです。


「行け、ブラッドルフ!」『ガル!』


「いくよ、クリス!」『クー!』


 こうして、ユーリとヴァイトの一騎打ちがはじまりました。

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