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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンの大冒険~  作者: 稲葉トキオ
第1章 エミル・スターリングと水晶竜の少年
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第15話 カメと仮面とカメラマン その2 ライカの挑戦

 エミルはライカの挑戦を受けることにして、ふたりは距離をとって向かい合いました。


 ユーリとパートナーたちは、エミルのうしろで見守っています。ちなみに、写真を撮られ疲れてぐったりしていたシロンとクリスは決闘をはじめると聞いて、なんとか復活していました。


「決闘、受けていただきどうもありがとうございます。こっちから挑んでおいてなんですが、お手やわらかにー」


「こちらこそ」


 エミルがこの決闘を受けた理由は、もちろん強くなるためでもありますが、ライカの「自分の目で見ることが大事」という言葉に感銘を受けたからです。本で得た知識や村のまわりで得た経験くらいでは、外の世界で実際にふれたものにはかなわないと、あらためて思い知らされたからです。


 なにより、目の前のナゾめいた女性のことをもっと知りたい、という気持ちもありました。エイル(おねえさん)ではないですが、ライカはただのカメラマンじゃない、と"なんとなく"直感したのです(撮影中の異常な言動を聞けば、たしかにふつうのカメラマンには見えませんが……)。そのたしかな答えを得るためには、おたがいのチカラとチカラをぶつけあう決闘こそが、いちばんの方法だと思ったからです。


「それじゃーまずはヤワラちゃん、出ておいでー」


 ライカはコネクタリングからワンダー(パートナー)を呼び出しました。エミルはその際、ライカの右手のうち三本の指に指輪がはまっていることに気づきました。つまり、ライカは三体のパートナーを持っているということです。


『クワー!』


 あらわれたのは、シロンよりひとまわり大きいくらいのカメさん、【ヤワラカメ】です。エミルもはじめて見るワンダーで、うすい黄色の体は見た感じつるっとぷにっとしていて、名前のとおり全体的にやわらかそうな印象を受けます。


『プルッ!?』


 そのとき、アクアがビクッとして、さっとユーリの足元に隠れてぶるぶる震えはじめました。


「ど、どうしたの、アクア?」『クー?』


「あー、すみません。【プルリン】は【ヤワラカメ】の主食なんですよ~。だから本能的にこわがってるんですね~」


「しゅ、主食……」


 ライカはちょっともうしわけなさそうに解説しました。ユーリはちょっとぞっとしますが、とにかくこわがるアクアをかわいそうだと思って、自分の指輪の中に収納してあげました。


「よし、わたしたちもいくよ、シロン!」『おっけー!』


【ホワイトドラコ】のシロンはエミルの左肩からぴょんと飛び降りて、【ヤワラカメ】と見合いました。


 そして、近くでわれ関せずとのんびりしている【イワガメ】の大きなあくびをゴングに、決闘がはじまりました。


「《ファイアボール》!」


 エミルは杖を振り、シロンはヤワラカメめがけて口から火の玉を発射しました。


 それをヤワラカメは、歩みののろいカメらしからぬ機敏な動きで、ぴょいと跳ねてかわしました。


「うそぉ!?」『はやっ!?』


 これにはエミルもシロンも、見守っているユーリたちもびっくりです。


「はっはっは! 硬くてのろいだけがカメではないのです! ワンダーはふしぎいっぱいの生きもの、こういうコもいるってことですよー!」


 ライカは両手に腰を当て、そっくりかえって笑い飛ばしました。


 エミルはちょっとムキになって杖を何度もつきだし、シロンに《ファイアボール》を連射させます。けれど、ヤワラカメはあっちこっちにぴょんぴょん跳ねるので、ただの一発も当てることはできませんでした。


「なるほど、やわらかい体の弾力を利用して、あれだけの機動力を生んでるってことだね!」


 エミルはそう分析して、不敵な笑いを浮かべました。たとえるなら地面をポンポン跳ねるゴムボールのようなものだと、そう思いました。


「ピンポンピンポン大当たり~! ホントかしこい子ですね、エミルちゃん!」


「その言いかた、なんかムカつく!」『ぷー!』


 ライカ的には、本気で感心してほめたつもりなのですが、なにしろライカはひょうひょうとした態度でテキトーな口調なものですから、根がマジメなエミルとシロンにとってはイラっとくるのです。


 けれど、心はホットでも、頭はクールなのがエミルのいいところのひとつです。


「シロン!」『とびまーす!』


 エミルが杖を高く上げて呼びかけると、シロンは翼を大きくひろげて、ヤワラカメに向かってびゅーんと空を飛んでいきました。そしてそのまま、相手の上空をびゅんびゅん旋回します。


 ヤワラカメは、自分の上を飛び回るシロンの姿を目で追うのがせいいっぱいという感じで、首と目をきょろきょろさせておろおろしています。


 これはすばしっこいワンダー相手に使う、シロンのかく乱戦法です。シロンご自慢の飛行テクニックで、地を這う相手を手のとどかない空から翻弄するのです。


 ちなみにそのあいだ、エミルは杖を指揮者のようにぶんぶん振りまわしつづけています。その動きとシロンの動きが連動しているため、まるで遠隔操作(リモコン)でシロンをあやつっているように見えなくもありません。


 そして狙いどおり、ヤワラカメはシロンの姿を追いきることができず、ついに視界から完全にはずれたそのときに、


「《ファイアボール》!」


 シロンは空中からやわらかボディめがけて、火の玉を発射しました。


 火の玉はヤワラカメのコウラにボカンと命中し、衝撃でその体はべたんと地に伏しました。


「《ドラゴンフレイム》!」『がおーっ!』


 ヤワラカメがよろりと体を起こそうとしているスキに、シロンはとどめの火炎を放ちました。すさまじい熱と量の炎がヤワラカメの全身をつつみこみ、あっというまにまっくろこげにしてしまいました。


「あややや! やられちゃいました~!」


 ライカは両手で頭をかかえてうろたえますが、エミルの目にはやっぱり本気でくやしがっているようには見えませんでした。


「やった! エミルの勝ちだ!」『クー!』


「いーえ! まーだ終わっちゃいませんよー!」


 ユーリとクリスの歓声をさえぎるように、ライカはメガネをキラリと光らせ、右手の指輪を見せつけるようにかざしました。


 そうです。ライカのパートナーはあと二体いるのです。事前にルールの取り決めをしていないので、どちらかが負けを認めるか、あるいはパートナーすべてが戦えなくなるまで、この決闘は終わらないのです。


「そんな! エミルのパートナーは、シロンしかいないのに……」


「ウィザードは、ときにこういう理不尽とも戦わないといけないのですよ、ユーリくん」


 ライカはふっふっふとしたり顔で言いました。つまり、「パートナーを一体しか持っていないエミルが悪い」と言いたいのでしょう。


 ユーリは、その重要性がようやく理解できました。パートナーが複数いれば、そのぶんいろんなことができますし、このように決闘や野生のワンダーとの戦いでも有利にはたらくのです。なにより、パートナーが一体だけでは、シロンにかかる負担が大きすぎます。これから先、旅をつづけるうえではあまり好ましいことではありません。


 いっぽう、当のエミルとシロンは、そんなことは承知の上といった顔で、ライカをにらんでいました。


「おつかれさま、ヤワラちゃん。おかげでシロンちゃんの戦法(スタイル)はインプットできました。ではここから、アウトプットの時間ですよー!」


 ライカは倒れたヤワラカメをねぎらい、指輪に収納し、べつの指輪から新たなパートナーを呼び出しました。


 次に出てきたのは、ヤワラカメより少し大きくらいの、コウラから何本ものとがった水晶を生やした水色のカメ、【クリスタートル】です。


「わあ……」『クー……』


 ユーリとクリスはその姿に目をうばわれました。鉱山の村生まれの男の子に、水晶の翼を持つ【クリスタルドラコ】としては、きれいな鉱物系のワンダーは気になるのでしょう。


「さあ、このコに勝てますかねー?」


 ライカはニヤリと笑いました。それがまた、エミルのハートに火をつけて、


「《ファイアボール》!」


 かたちとなってシロンの口から放たれました。


 機敏な動きでかわした【ヤワラカメ】とちがい、【クリスタートル】はカメらしくどっしりかまえて火の玉を受け止めました。


 爆煙が晴れ、その姿があらわになると、【クリスタートル】の体にはいっさいのキズもついていませんでした。コウラから生えている水晶も、くもりなくキラッキラに輝いています。本人も余裕しゃくしゃくといった感じで、むふーと鼻息をふいています。


「えっ!?」『うそ!?』


「フフフ……」


 エミルとシロンはおくちあんぐり。ライカはいたずらっ子のようなニヤリとした笑みを浮かべました。

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