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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンの大冒険~  作者: 稲葉トキオ
第1章 エミル・スターリングと水晶竜の少年
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第11話 ワンダーとウィザード(後編) ぼくの新しいパートナー

「ええっ!? パートナー!?」


 ユーリはこちらをのぞきこむシロンの顔を見上げて、おどろきの声をあげました。


「すごいねユーリ! はじめての戦いで、もう新しいパートナーができるなんて!」


 エミルは青いひとみをキラめかせて言いました。


「でもパートナーになりたいって言われても、ぼくには、クリスがいるしなぁ……」


 ユーリはもうしわけなさそうに、足もとにいるクリスの顔をちらりと見ると、クリスは『クー?』と首をかしげました。どうしてなやんでるの? と言いたげな顔ですが、いまひとつユーリには伝わりません。


「なかよくなりたいと思ったら、パートナーはどれだけいたっていいんだよ。わたしだって、ほら!」


 エミルは、自分の右手にはまっているワンダーを収納する二個の指輪……"コネクタリング"を見せて、わたしもシロンのほかにパートナーがいるんだよ、ということをユーリに教えてあげました。もっともその中身はまだ、たまごなんですけれど。なんにせよ、パートナーは複数持っていてもいいんだ、ということは伝わりました。


『クー! クー!』


 クリスは笑顔であかるい声をあげました。まるで、新しい仲間を歓迎しているみたいです。そう感じたユーリは、プルリンの体を両手で持ち上げて、顔を見合わせました。


「それじゃ、ぼくたちといっしょに来る?」


『プルー!』


 プルリンは、にっこりと笑顔を浮かべて、体を上下にぷるぷるさせながらこたえました。言葉がわからなくても、『うん!』と言っているのがユーリにもわかります。


「はい! おめでとう! これでふたりは、めでたくパートナーになりました!」『おめでとー!』


 エミルは両手をパンと合わせて、シロンといっしょににっこり笑顔で祝福しました。


「え、これで? なんだか、実感がわかないなあ……」


 あんまりあっさりエミルが言うものなので、ユーリはあっけにとられていました。


「実感なら、あるでしょ?」


 エミルは、ぴっとユーリに抱かれているプルリンを指さしました。プルリンは、うれしそうにユーリの体にすりよっています。


「……そうだね」


 ユーリはほほえんで、プルリンの体をなでかえしました。この心があたたかくなる感覚こそが、パートナーになったという、これ以上ないたしかな実感なんだ、ということが理解できました。


 エミルも、シロンとパートナーになったときのことを思い出して、しみじみしていました。


「それじゃ、これからよろしくね」『プルー!』


 プルリンはうれしそうにうなずいて、腕をすり抜けてユーリの顔にとびつきました。クリスもにっこり『クー!』と鳴いて、新しい仲間ができたことをよろこびました。


「ねえ、その子に名前つけてあげようよ」『うんうん!』


「名前……そうだね」


 エミルとシロンの提案に、ユーリも賛成して、両手にかかえたプルリンの顔、というか全身をながめながら考えました。プルリンの体はその種名の通りぷるんと波打っていて、触感もひんやりしていて、まるで生きた水のように感じられました。


「そうだね……うん、アクアがいい、きみの名前は、アクアだ!」


 そしてプルリンの体を高らかにかかげて、名前をつけてあげました。


 プルリンはもらった名前が気に入ったみたいで、笑顔で『プルーッ!』と全身をふるわせました。


『あははっ! このコ、すっごくよろこんでる!』


 シロンも太鼓判を押してくれたことで、ユーリの新しいパートナー、【プルリン】のアクアがここに誕生したのです。


「おめでとう、ユーリ!」『よろしくね、アクア!』


 エミルとシロンは、にっこり笑顔で拍手しました。


「ふたりとも、ありがとう」『クー!』『プルー!』


 ユーリとクリス、それからアクアも笑ってこたえました。


 すると、エミルがずいっとユーリに顔をよせてきて、


「でも! かわいそうだからって、不用意に野生のワンダーに近づくのはよくない!」


 笑顔から一転、むっとまゆをつり上げて、ユーリのうかつさをしかりました。アクアがおだやかだったからよかったものの、もっと気性の荒いワンダーが相手だったら、さっきエミルが心配したようなことになっていたでしょう。


 今回は、たまたま運がよかっただけだということを、そしてエミルが自分のためを想って言ってくれているんだということを、ユーリはちゃんとわかっていたので、しゅんと反省しました。


「そうだね……ごめん」


「わかればよろしい。……でも、ユーリは、やさしいね」


「え?」


 エミルがふいにそんなことを言うので、ユーリはドキッとしました。


「だって、戦いに勝ってうれしいっていう気持ちよりも、アクアがかわいそうだっていう気持ちのほうが大きかったんでしょ?」


 ユーリはたしかに、と思ってうなずきました。


「最初、戦いをこわがってたのだって、自分のことよりも、クリスやアクアをキズつけるのがいやだったからだよね」


 エミルがもうひとつ指摘して、ユーリは「うっ」と図星を突かれ、息をのみました。


(そういうことにも気づくなんて、エミルはよく見てるんだなあ)


 ユーリはちょっとはずかしいと思いながらも感心しました。


 エミルの言うとおり、ユーリはだれかをキズつけるのは好きじゃありません。故郷の村で暮らしていたときだって、ケンカのひとつもしたことはありません。


 けれど、エミルが最初に言ったように、旅をつづける以上はこの先も野生のワンダーを相手にしなければならず、戦う、ということはさけられないのです。エミルは「ワンダーの相手はまかせて」と言ってはくれましたが、さすがに彼女ばかりに戦いを押しつけるのは心苦しいですし、いつまでもこんなことではいけないというのは、ユーリもわかっていました。


 だからこそ、エミルに聞いてみたいことがありました。


「エミルは、相手やシロンをキズつけたくないって、そんなふうに思ったことはないの?」


 ゆうべからいままで行動をともにしてきて、ユーリも、エミルはとてもやさしい子だと思っているからこその質問です。だって、わざわざ全速力で走ってまで、自分たちを助けにきてくれましたし、ほうっておけないという理由で、旅の同行を提案してくれたんですもの。


「うん、あるよ。いまも思ってる」


 エミルは落ちついた声でこたえました。ユーリはハッと息をのみました。


「じゃあ、どうして戦いを……もう慣れたってこと?」


 ユーリは今後のためにも、その先の答えが知りたいので、さっきより押し強くたずねました。


「うーん、慣れたっていうか……たとえば、わたしがはじめて戦ったのは、8年前、シロンを助けたときだったんだけど」『うんうん!』


 エミルは肩の上にのぼってきたシロンをなでながら、幼いころの思い出を語りはじめました。


「あのとき、小さかったわたしは、シロンを襲ってたブラッドッグに石をぶつけて追いはらった。その痛そうな声を聞いて、たしかにわたしもかわいそうだと思った。心のなかであやまったりもした。でも、わたしはそれ以上に、シロンを助けられて、お姉ちゃんみたいに、だれかを助けられる人になれてよかった、って思ったんだ」


 ユーリは真剣にエミルの話に耳をかたむけていました。


(エミルは小さいころから勇敢な子だったんだな、すごいや)


 と思いました。ワンダーに石をぶつけるなんて、いま12歳の自分にもできるかどうかわかりません。


「それと4年前にもね、ちょっと自分のチカラのなさを痛感するようなことがあって、もっと強くなりたいって思った。そのための修行として、たくさんのワンダーをキズつけたし、キズつけられたりもした。つまり、そういう心と体の痛みを越えてでも、かなえたい願いを持つことが大事なんだって思う」


 そう語るエミルの真剣な目からは、とても強い覚悟がユーリにも感じられました。その4年前によっぽどつらい思いをしたんだろう、ということも理解できました。


『シロンもねー、いたいのはイヤだけど、エミルのためなら、なんだってへっちゃらだよ!』


 そう語るシロンのとくいげな顔からは、とても強い信頼がユーリにも感じられました。シロンもエミルのことがほんとうに大好きなんだな、ということがわかりました。


「ありがとう、よくわかったよ。ふたりはどうしてもかなえたい強い願いがあるから、戦えるんだね」


「そういうこと!」


「逆に言えば、ぼくにはそんな願いがないから、ただ相手も自分もキズつくのがこわいと思うんだね……」


「わたしは、ユーリに願いがないだなんて思わないな。ユーリがそれに気づいてないだけだよ」


「え?」


「だってクリスのこと、守りたいんでしょ?」


 エミルは指でクリスのほっぺをぷにっとつついて言いました。


「クリスを……?」『クー!』


 すると、クリスがユーリの顔近くまでのぼってきて、すりよってきました。


「そうだよ。ゆうべだって、すごく大事そうに守ってたじゃない」『シロンも、ちゃーんとみてたよ!』


 エミルとシロンに言われて、ユーリは思い出しました。ゆうべ、ブラッドッグの群れに襲われたとき、この子だけは守り抜こうと決めたことを。ぼくが選ばれた理由はわからないけれど、自分のもとに生まれてきてくれたこの子を守りたいと思ったことを。その気持ちは、危機を脱したいまでも変わっていませんでした。それから……


「どうしたの?」


 ユーリが無言で自分の顔を見つめてきたので、エミルは首をかしげました。


「い、いや、なんでもないよ。そう、そうだね。クリスを守るために、これからもいっしょに旅をつづけるために、ぼくは、もっと強くなりたい」『クー!』


 ユーリは顔を赤くしながらも決意して、クリスも同意するように声をあげました。


「その意気だよ! その気持ちがあれば、ユーリはきっと強くなれるよ!」


 両手のこぶしをにぎりしめるエミルの熱意に、ユーリは首をかしげて、苦笑いしました。


「そ、そうかなあ?」


「そうだよ! さっきの戦いだって、いい線いってたもん! ねえ、アクア?」『プルー!』


 ユーリとクリスのチカラを身をもって知ったアクアにこう元気に鳴かれては、ユーリも納得するしかありませんでした。それに、まっすぐなエミルの言葉は気休めからのものだとは思えませんでしたので、ほんのすこし、自信が持てたような気がしました。


「あ、でもそのせいでクリスがキズつくことになるのは……」


 ユーリがもうしわけなさそうにクリスの顔を見ると、『クー! クー!』と、ぷんすか抗議するように鳴いてきました。


「ど、どうしたの? やっぱり痛い目にあうの、イヤ?」


『ちがうよー! クリスもいっしょにつよくなりたいから、そんなこといわないで、っていってるんだよー!』


 なんとシロンがクリスの言葉を代弁したので、ユーリは「ええっ!?」っとびっくり仰天です。でもよく考えたら、アクアがパートナーになりたがってることを教えてくれたのもシロンでした。


「シ、シロンって、クリスの言ってること、わかるの?」


『わかるよー! ドラゴンだもん! えっへん!』


 シロンは自信マンマンに胸を張りました。


「じゃあ、クリスはほんとうに?」


『うん! クリスもユーリのことまもりたいから、どんなにいたいのもへーきだって! ね?』『クー!』


 いまのクリスのあかるい声は、肯定の意思だとユーリにもはっきりわかりました。


「クリス……そんなふうにぼくのこと、思ってくれてたんだね」


『クー!』


 ユーリはそんなクリスのことをいとおしく思って、その体をぎゅっと抱き寄せました。


「ありがとう、クリス。ぼくたち、これからいっしょに強くなろう。あらためて、これからよろしくね」『クー!』


 クリスはほんとうに幸せそうな笑顔を浮かべました。


「わたしもいるよ!」『シロンも! それから、アクアもね!』『プルー!』


 そう言って、ずいっとエミルたちがユーリに顔を寄せてきました。


「うん、そうだね、みんな、ありがとう」『クー!』


 ユーリはこのときはじめて、村を出ることになってよかったと、心から思いました。だって、こんなにすばらしい仲間たちと出会えたんですもの。


「あ、そうだ! ユーリにもう一個プレゼント!」


 エミルは思い出したように言って、ローブのポケットから指輪を取り出し、ユーリの右手の人さし指にすっとはめました。


「え、ええっ!?」


 突然そんなことされたユーリはびっくりドッキリして、顔をまっかにしました。


「大げさだなあ。これはアクアのぶんのコネクタリングだよ。カラの指輪、持ってないんでしょ?」


「あ、ああ、うん。あ、ありがとう……」


 ユーリはしどろもどろになりながらも、なんとかお礼の言葉をしぼりだしました。ユーリもクリスのぶんの指輪を持っている(たまごを孵したときにもらいました)ので、パートナーを収納できるコネクタリングについての知識はちゃんとあります。


「なんだかぼく、もらってばっかりだね」


「いいっていいって、気にしない。だってわたしたち、仲間だもん。共有財産ってやつだよ」


 もうしわけなさそうに苦笑いするユーリに、エミルはいたずらっぽく笑って言いました。


「共有……なんだかいいね、それ」


「えへへっ、わたしもそう思う! それじゃみんな、そろそろ先に進むよ!」『おー!』『クー!』『プルー!』


「……うん!」


 ユーリはすこし誇らしげにほほえんで、エミルたち一行は平原の旅を再開しました。

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