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第19話 飢饉と謀反

『「俺たちは食べるものさえないのに、自分たちだけ着飾って、贅沢な暮らしをしてやがる」


その年は、飢饉で食べ物が収穫出来ずに、民の暮らしは厳しかった。


今年こそはと、我慢してきた民の不満が、とうとう爆発する。


そして、その矛先は当然のように領主たちへと向けられていく。


そんな時に、王が俺たちを救ってくださるのだ!と煽る勢力が出てきた。


「王様は民の味方だ、我らの王様だ」民は感謝して、口々に王を讃えている。


しかし、そんな民を王は見捨てた。そもそも王を助けてきた領主に反抗する民を助ける王など存在しない。


王は俺たちを救うどころか見捨てたんだ! だから俺たちは王を殺すんだ!


「民よ、我と共に新しき時代を作ろうぞ!」


謀反を企む貴族が、民をたぶらかしていた。民はその言葉に酔いしれ、逆賊と共に続々と立ち上がっていく。


「俺たちは立ち上がるぞ」民は奮起して、武器を手にし始める。


「革命の炎よ!」民は叫ぶ。革命の火に群がる虫のように人々は集まった。


「我はただ、国の為を思って」


王は言い訳をしたが、それを聞き入れる者などいない。


「王よ!あなたは俺たちの敵だ!」人々は叫ぶ。そんな民に王は、殺されてしまった。


そして、革命の火は王国全土へと燃え移ったのだ』


「キャー」


アンリエッタはベッドで横たわったまま目を覚ます。


待って、今の夢は何なの?


「アンリエッタ様、大丈夫でございますか」


モリーが、叫び声に驚いて駆けつける。


「何でもないの。夢を見ただけ。お水を持ってきてくれる?あと紙とペンもお願い」


まずは落ち着いて、忘れる前に夢を書き出しておかなくては。


あれは間違いなく飢饉と謀反、それに王が殺されたの?


アンリエッタが罪を告白した玉座に座っていたのは、今の王だっただろうか?


分からない。思い出せない。


「お水です。紙とペンは、こちらに置いておきます」


モリーは、アンリエッタが落ち着いている事を確認して離れていく。


ペンを取って前世で起きたことをメモしておこう。


確かに飢饉があった気がするけど、いつのことだったか思い出せない。


とにかくアンリエッタに出来ることを考えて、ブルーク様に相談しよう。


◇◆◇


「アンリエッタ、今日は早いね」


執務室の前で待っていたアンリエッタにブルークが声をかける。


「朝早くからごめんなさい。相談があるのですが」


「中に入って」


アンリエッタの真剣な顔にブルークは急用だと察してくれた。


「お茶を頼む」


ブルークは、執事にお茶を頼んで、席を外させる。


急用であれば話しにくい内容もあるかもしれないから。


ソファに座ってからも、どう話すべきか悩んでいるアンリエッタに、ブルークが言葉をかける。


「話がまとまってなくても構わないよ。話せることから相談してくれ」


ああ、この人には何を言っても大丈夫だ。


「このままだと王国に飢饉と謀反が起こる可能性があります」


「アンリエッタ、それは口にしてはならない」


ブルークは急いで執務室の扉を開けて、誰にも話を聞かれていないことを確認した。


「その単語を今後、絶対に口にしないと約束してくれ」


ブルークの厳しい口調に、アンリエッタは固まったまま頭だけでうなずく。


謀反という言葉はそれ程、口にしてはいけない単語。


「その言葉を口にしないで、説明してもらえるか」


ブルークの口調はいつも通り穏やかなものに戻っていたので、アンリエッタは話しを続ける勇気が持てた。


「まず子爵領は綿花や魔鉄が中心産業で、食料を他の領地からの輸入に頼っておりますよね」


「その通りだ」


「ですが、王国中が飢饉に襲われた時に、食料を売ってもらえますか」


「今までは、どうにかやってこれたが、確証はないな」


確かに国が豊かであれば、お金で食料を仕入れてこれたのだろう。


でも、そもそも食料がない場所から、仕入れることなど王にだって不可能だろう。


「それでは、万が一に備えることは可能でしょうか」


前世の夢の話などしても、誰も相手にしてくれない。


ならば現実に則した話で、説得しなければいけないんだわ。


「子爵領で食料を自作しないのは、何故ですか」


「それはアンリエッタも知っての通り、子爵領は、綿花の産地だから」


綿花は確か夏に種を蒔いて、秋には収穫出来るんだわ。


だったら冬か春に種蒔きをして、春か初夏に収穫出来る作物を育てればどうかしら。


「綿花を収穫した後は、畑はどうしているのですか?」


「次の種蒔きまで、土地を休ませています」


なるほど。


そう言う考え方が一般的よね。


でもアンリエッタが男爵家の図書室の本で学んだ農作業の中に、一つの畑で他の作物を育てるのは有効だとあったわ。


「これは私の読んだ本の知識なのですが、一つの畑に時期をずらして別の作物を育てても、収穫は減らないというものです」


一つの作物を収穫した後は、腐葉土等で栄養を与えて、新たな作物を育てる。


一つの作物だけを同じ畑で育てると、逆に畑が細り害虫が増えることを伝える。


「冬から春にかけて蒔ける作物の種は、ほうれん草、カブ、ナス、アスパラガス、ラディッシュなど様々です」


「アンリエッタは、農業もくわしいのか」


ブルークは嬉しそうにアンリエッタを見つめている。


「いいえ、本の知識だけでお恥ずかしいです」


ブルーク様に、自分の知識をひけらかすなんて本当に恥ずかしいわ。


でも飢饉が起きてからでは間に合わない。


何より、この飢饉や謀反が子供たちの死に関わってくるのか判断が出来ない。


「それで、今がちょうど綿花の収穫時期だから、終えたら土地を整えて、いくつかの作物を試せないでしょうか」


「綿花畑のほとんどは、子爵家の持ち物だから試してみよう」


良かった。さすが子爵領だわ。


「私からアンドレにも話しておく」


「お願いします」


「アンリエッタの飢饉に備える心構えは立派だ。私は君を妻に出来て本当に幸せ者だな」


「そんなことはありませんわ。お互いに得意な分野で支え合うのが、家族ではありませんか」


そうだわ。


アンリエッタの家族はブルークと子供たち、そして子爵家の皆に、それに子爵領の民なんだわ。


「あともう一つ、お願いがあります。子爵領は他の領地より税収が安いと聞きました」


「その通りだ」


「では5%だけ税収を引き上げて下さい」


「何故だ」


ブルークは、そんなことをしては飢饉になった時に、謀反が起きるのではないかと言葉には出来ない。


「飢饉に備えて、その5%分で他国から保存のきく食料を仕入れておくのです。


ブルーク様は民を苦しめることを、ことの外嫌うと聞いてます。税収を引き上げるのは反発を招くことだと思うのですが、何か方法はないでしょうか」


アンリエッタはどんなことをしても、飢饉や謀反を抑えなくてはいけないと決心している。


「子爵領の財政が厳しいことにして、税収を上げるとして、理由が必要だな」


ブルークは、いきなりどんな理由をつければいいのか頭を悩ませている。


「私との結婚式の費用、日々の食事にお菓子、豪華なドレスに装飾品、子供たちに与える高価な衣類や玩具をでっち上げて下さい」


「領地民は信じるかもしれないが、子爵家の人間は誰も信じないぞ」


アンリエッタは自らドレスや装飾品を欲しがることもないし、そもそも身に付けていない。


「これからありったけの宝飾品を身に付けて、屋敷内を歩くようにします」


「そんなアンリエッタの評判を落とすような真似、私には出来ない」


「飢饉で領地民が苦しむより、私が嫌われる方がマシではないですか」


ブルークは眉間に指を当てて、どうすべきか悩んでいる。


「ブルーク様?」


「君にはかなわないな」


「私もブルーク様には、かないませんわ」


「似た者夫婦か」


ブルークは、自分のセリフに、まんざらでもない様子だ。


「5%なら、領地民も許容範囲のはずだ。どうにかしてみよう」


「無理なお願いばかりで申し訳ありません」


アンリエッタの謝罪にブルークは、頭を左右に振る。


「私の妻がアンリエッタで本当に良かった。さあ、アンドレに報告に行ってくるか」


これでアンリエッタに対する領地民の信頼も地に落ちるわね。




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