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第18話 侯爵に似た子供

 レオンを連れて、ベビー服やおもちゃを買いに街へ出掛ける準備をしていた。


「どこに行くのですか」


ブルークが、部屋を覗いて声をかけてくる。


「街へ子供の服を買いに行ってきますね」


「では、先日のブティック▪カサノバの店主との約束通り、ドレスを着て一緒に出掛けましょう」


アンリエッタはすっかり忘れていたが、豪華なドレスを何故か無料でくれて、ブルークと街中を歩くように約束させられた。


「忘れていました」


アンリエッタの言葉にブルークの顔色が変わるのを感じて、アンリエッタは慌ててしまう。


「急いで着替えて支度します。お待ち頂けますか」


「子供を見ています」


子供もいるのにおかしな話だが、ブルークの前で着替えるのは恥ずかしい。


「あの」


「はい」


「何でもありません」


これ以上、機嫌を悪くしてどうするの。


アンリエッタは侍女に手伝ってもらって、急いで着替える。


薄紫のパールが散りばめられたドレスは、アンリエッタが着ると、まるで妖精のように美しい。


「とてもお似合いです」


「本当によく似合っている」


ブルークは普段、何も言わないのにアンリエッタがドレスに着替えると褒めてくれる。


貴族社会の男性の決まりなのかもしれないとアンリエッタは思い込み始めていた。


だって私にこんなドレスが似合うはずないもの。


「レオンはどうしますか」


モリーとサビーヌも一緒に来てくれれば大丈夫だろうと、レオンも一緒に行くことになった。


「アルフレッドは、乳母のところなんですか?」


ブルークは、レオンが出掛けるのにアルフレッドはいないのかと、不思議に思っているのかもしれない。


「はい、昼間にアルフレッドを迎えにいって、また世話を頼む時に、このまま子供服を買いに連れて行きたいと行ったんですが、断られてしまって」


「仕方ないですね。ことを荒立てたくないですし、次回は、昼間に迎えに行ってアルフレッドと出掛けましょう」


ブルークの言葉に、アンリエッタは心踊る。


「はい」


ブルークは気が付いていないけれど、親子3人の始めてのお出掛け。


機嫌の良さそうなアンリエッタを見て、ブルークも楽しそうだ。


◇◆◇


 ブルークに連れられて来たのは、高級子供服の店。


子供服はすぐ小さくなるから安いものでいいんだけど、せっかく連れてきてくれたのに断るのも悪いわよね。


「私は座って、子供を見てますから、服を選んで下さい」


モリーとサビーヌが、子供の乳母車をブルークの座るソファの前に置く。


「では私はアンリエッタ様のお手伝いをして参ります」


モリーは、乳母車を置くとアンリエッタの元に、急ぎ足で行ってしまう。


「私が子供を見ておりますので、旦那様はゆっくりなさってください」


サビーヌは乳母車をコロコロ動かして、子供をあやし始める。


「それくらいなら私にも出来る。そなたは夫人が困らないように手伝ってやってくれ」


いつも使用人には厳しいブルークが、実はアンリエッタにだけは優しくて、子爵領では愛妻家だと評判だ。


「旦那様」


サビーヌはブルークが素敵な旦那様だなと感心したが、自分たちにも少しは優しくしろとは口がさけても言えない。


「早く行け」


「はい」


サビーヌがいなくなると、ブルークは、子供の乳母車をコロコロ動かしてあやし始める。


「きゃっ、きゃっ」


レオンはブルークが乳母車を動かすだけで、きゃっ、きゃっと笑う。


「ゴロゴロ動かすのが楽しいのか」


ブルークは「ほうら」「もっとだ」と掛け声をかけながら、乳母車を動かしてレオンに話しかけている。


端から見たら、子供の父親にしか見えない。


「お父様にそっくりですね」


隣のソファに腰掛けた婦人が、レオンとブルークを見比べて、本当にそっくりだと話しかけてきた。


「そんなに似ていますか」


「はい。髪の色も珍しい青みがかった銀髪で、肌の白さも、それにお父様譲りの美形さんだわ」


そう言われて見れば、やはりレオンは、自分にそっくりだと思ってしまう。


何かブルークの胸に、モヤモヤしたものが生まれ始めていた。


けれどアルフレッドは確かにアンリエッタに似ている。


2人とも私たちの子供ってことはないのだろうか。


「ははっ、馬鹿な事を考えてしまった」


「おぎゃあ、おぎゃあ」


ブルークが考えごとをして乳母車をコロコロ動かさなかっただけで、レオンは泣き出してしまう。


「すまん、すまん。余計な考えごとだったな。ほら泣くな」


ブルークが、気を取り治して乳母車をコロコロ押すと、レオンは泣き止んだ。


「きゃっ、きゃっ」


「お父様が、本当に好きなんだわ」


隣の婦人がそんな事を言いながら、ソファから立ち上がって商品が飾ってある店の中へ戻っていく。


「ブルーク様、レオンにどちらの服が似合うと思いますか」


アンリエッタは、赤ん坊用の似たような服を何着も抱えて持ってきた。


「全部買えばいいじゃないですか」


「まあブルーク様、子供はあっという間に大きくなるんです。こんな高級な服は、一着で十分です」


アンリエッタがそう言うと、レオンに青と水色の服を選んでくれた。


「青と水色の服に、色違いで、白と黄色も頼む」


ブルークは店員に声をかけて、会計を素早く済ませる。


「アルフレッドの分も買ってくださったんですね。ありがとうございます」


アンリエッタはブルークの気遣いが嬉しい。


けれどブルークは、先ほど隣の婦人に言われた『お父様にそっくりですね』と言う言葉が頭から離れずにいた。


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