幕間
どうぞ皆様、お気を楽になさってくださいませ。
あまり気を張ってばかりでも何ですからね、ここいらで一つ休憩とまいりましょう。
とは言え、全く喋らぬというのは語り部の風上にも置けぬ行為でございます。
ではレクリェーションめいた趣向は如何でしょう。
そうですね……先の話に登場しましたる《きつねの窓》をやってみましょうか。
よろしければ皆様も、ご一緒に。
①皆様、影絵はご存知ですよね?
まずは狐を作ってみてください。左右の手で一匹ずつ、両合わせにして。
そうそう、そんな感じです。
ここからが少々難儀なのですが、よろしいですか?
②片方の狐を手前向き、もう一方を奥向きになるように手首を捻ってください。
その際に、互いの耳を重ねて。
人差し指と小指の腹が合わさるようにするのですよ。
ああ、こちらの御仁は残念ながら間違っておいでですね。
そちらの御仁も笑っていられませんよ。こうです、こう。
③さて続いては、狐の鼻を開いてください。親指と、中指薬指とを離すのです。
その中、薬、さらに小の三指で、相手方の人差し指を挟むようにしましょう。
これで大分、完成形に近づいてまいりました。
④最後に親指を使って、中と薬の二指を固定しましょう。
五本の指全てが簡単には外れないように編みこまれた形になれば成功です。
人差し指と中指の股で菱形が出来ていませんか?
それが《きつねの窓》でございます。
その上で「けしょうのものか、ましょうのものか、しょうたいをあらわせ」と呪文を三回唱えてご覧なさいませ。
ちなみに「狸の恩返し」や「ごまかしの効かない関係」にて、勇助孝助は手印を結ばず呪文だけでも効力を発揮しておりましたね。
さて上手くゆけば窓を通して、普段は目に見えぬものが見えたり、逆にあるべきものが見えなかったりするやも知れません。
どうですか?
お連れの方は本当に人間でしたか?
耳や尾っぽが生えていたり、身体が透けていたりはしませんでしたか?
おや、そうですか。れっきとした人間でしたか。
それはそれは結構なことでございます。
夜伽話は他人事だから面白いのであって、我が事と受け止めるには重たすぎますものね。
ところでわたくしの記憶が確かなら、
あなたはお一人でここへいらっしゃったはずですが? そもそも、お連れの方なんていらっしゃいましたっけ?
いえいえ、冗談。冗談ですよ。
たまにはこういった趣向もよいでしょう?
肩もほぐれたところで、次の幕へと参りましょうか。




