08
まだ渋ってるらしい弥咲。
「んーーはいはい、わかりました。連れて行きます、ご招待します!!」
私が縁を切ると詰め寄ったからか、彼がとうとう諦めてやっと言った。
最初っから、言えばいいのに。
「そういえば、小夜子さんの私服姿って初めて見たかな♪」
「え? そうですか?」
「パジャマ姿なら、何度も見たことあるけどね」
「それは記憶から消してもらって構いませんから」
「小夜子さんを受け止めたときの、あの感触も……」
バシッ!!
「イデッ!」
背中に一発入れた。
「それもセクハラですから! 忘れて下さい」
「はいはい。でも、小夜子さんの機嫌が直ってくれてよかった」
「わかりませんよ、後でまた機嫌悪くなるかも。貴方次第ですから」
「小夜子さんって、なんでいつもオレに敬語で話すの?」
「え? ああ、だって一応目上の人ですから」
「オレは普通に話してほしいな」
「………いつかは、普通に話せるかもしれませんね」
「でも感情が高ぶると、話し方変わるよね」
「!!」
「怒らせたほうがいいのかな?」
バシッ!
「イテッ! それにすぐ殴る」
「くだらないことばっかり言ってるからです! ほら! 道こっちでいいんですか?」
「え? ああ……」
なんとも気乗りしない返事がかえってきた。
「そんなに家を知られるの嫌なんですか? 別に同棲してたって驚きませんよ。本当に玄関までですから」
「同棲なんかしてなよ。それに、できれば驚いてほしいな……ちょっと哀しい」
「だって、ありえそうだし」
「ありえないから。いや、違くて……」
「違くて?」
「……ううん」
どのくらい歩いたろう、学校から15分くらいかな?
この辺は私には地元といえば地元だけど、学校から反対側ってそんなに行ったことがない。
「で? どの辺なんですか?」
「そこの角を曲がったらすぐ」
「アパートですか?」
「いや……一軒家」
「ヘェ~~一軒家ですか…………って! え? 一軒家!?」
「うん」
うんって……なんなんだろう? この男!
「な!? 貴方、自分の稼ぎわかってるんですか? そんな贅沢……」
「知り合いが口を利いてくれて、格安で借りてるんだ」
「なら……」
「だから時々ひとりじゃ淋しくてね。人ん家に泊まり歩いてるんだ。ハハハ」
「ハハハって……はた迷惑な話ですね! 大人の男の人が!」
「今度、小夜子さんが泊まりに来てくれたら大歓迎なんだけどな~♪」
ブン!!
速攻で腕を振り上げた。
「わっ!!」
ワザとかもしれないけど、思いっきり彼に怯えられた。
両腕を頭の上で交差させて、頭部を守ってる……ちょっと。
「 「 ………… 」 」
2人でしばらく固まって、無言で見つめ合っちゃった。
「いやあ……もう条件反射になってるよ」
「………なんでですか?」
頭を掻きながら、照れ臭そうに笑う。
それも本気なのかウソなのかわからない。
もー疲れるから放っとこうと思う。
「あ! あの家ですか?」
突き当たりの平屋の家で、昔の洋風な建物。
出窓にウッドデッキに、木陰がいい具合に窓に入るであろう大きな木も窓の近くに生えてて、なんか小説に出てきそうな家。
「わぁ……なんかこういう家、いいなぁ……」
「くすっ。気に入った?」
耳元で囁かれてるのに、全然気がつかなかった。
「うん……」
敬語じゃなくなってるのも……。
「そう……よかった。家の中、見てみる?」
「え! いいの?」
「いいよ」
言いながら横を向いたら、彼の顔がくっつきそうなくらい私の傍にあった。
どうやら私の身長に合わせて、屈んで話しかけてたらしい。
だから、お互いの顔と顔がこんなに近い。
「あ……」
心臓がドキンとなった。
そういえばこの人、お母さんが太鼓判押すほどの整った顔だった。
「しぃ………」
「!!」
反射的に、ギュッと目を瞑ってしまった!
なにかが近づいてくる気配を感じて、目を瞑ってしまったのは失敗だったとすぐに悟ったけど今さらだ。
「先生?」
彼の背中から声がして、私の身体がビクン! と驚いた。
「あらぁ……ごめんなさい、お邪魔しちやったかしら?」
「うん」
と彼。
「いっ、いいえっっ!!」
当然のことのように、思いっきり否定したのは私。
「え? どっちなんです?」
と、不思議そうな顔で私達を見つめる女の人は一体誰なのかしら?
でも、危ない危ない。
つい小説に出てくるような家を目の当たりにして、我を忘れてしまった。
もう!!
反省しながらふたりに気付かれないように、そっと指先で自分の唇に触れた。
私の唇に……なにか触れた感じは……しなかったよね。
住んでるところが小夜子さんにバレた弥咲。
どうやら小夜子さんの感性にドンピシャだったらしいです。
ちょっとだけ迫られた小夜子さん、大丈夫かな?
というか弥咲なにしようとした?




