閑話XXII:嘘つき達の一日
四月一日。
嘘が許される日。
「アラン」
呼び止める声は、いつもより少しだけ硬かった。
「……何かあったのか?」
アランが振り返る。
表情が、一瞬で変わる。
「誰かに何か言われたのか。それとも体調が」
「ち、違うの」
慌てて否定する。
「……さ」
「さ?」
一拍。
ほんの僅かに、視線が揺れる。
「宰相を目指すの、その、やめて」
「……?」
「嫁ごうと、思っ――」
「……誰に?」
静かに、問う。
だが。
間がない。
明らかに早い。
「どこへ、誰に嫁ぐつもりだ」
言葉は整っている。
声音も抑えられている。
だが。
詰め方だけが、異様に早い。
「落ち着いて、アラン」
「落ち着いている」
即答だった。
全く落ち着いていない。
「その前に、確認が必要だ」
距離が、詰まる。
「相手は誰だ」
「ええと」
「俺は――」
そこで、言葉が止まる。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
理性が、追いつく。
「……?」
違和感。
その瞬間。
リディアの背後で、看板が上がる。
『エイプリルフールでした』
ルカとセラフが、無言で掲げている。
笑いを堪えながら。
「……」
沈黙。
一拍。
二拍。
「……そうか」
アランは、小さく息を吐く。
目を閉じる。
そして。
「後で話がある」
静かに言い残す。
「ルカ」
「セラフ」
名指しだった。
「……逃げるぞ」
「ええ」
即座に反応する二人。
次の瞬間。
走り出す。
追う。
アランが。
無言で。
だが、確実に速い。
中庭に、足音だけが響いた。
「……」
リディアは、その様子を見送る。
少しだけ、不思議そうに。
「……アラン」
ふと、呟く。
「さっき、何て言おうとしたのかしら……」
思い出そうとする。
だが。
最後までは、聞こえていない。
ほんの僅かに。
胸の奥が、引っかかる。
理由は分からない。
だが。
消えないまま。
それは、そこに残っていた。




