第百二十五話:繰り返す違和感
同じ廊下。
同じ時間。
同じ人の流れ。
何も変わらない。
はずだった。
(……まただわ)
リディアは、足を止める。
理由は、分からない。
だが。
確かに、そこにある。
ほんの僅かな、違和感。
「お嬢」
声がする。
振り向くまでもない。
「カイル」
「どうした?」
近い。
いつも通りに。
変わらずに。
(……近い)
思う。
それだけ。
それ以上は、出てこない。
「何でもないわ」
「そうか?」
覗き込む。
距離は変わらない。
それが普通。
いつも通り。
分かっている。
(……なのに)
ほんの少しだけ。
気になる。
「顔、疲れてるぞ」
「そんなことはないわ」
「あるだろ」
軽く笑う。
その調子も、いつも通り。
「……」
何も言わない。
言う理由がない。
言葉にするほどのことではない。
ただ。
引っかかるだけ。
(……変ね)
もう一度、思う。
同じ言葉。
同じ感覚。
消えない。
むしろ。
さっきよりも、少しだけ強い。
◆
「……珍しいな」
声がかかる。
振り向く。
ルカだった。
「また難しい顔してる」
「……そう?」
「分かりやすい」
即答だった。
変わらない。
このやり取りも。
いつも通り。
「……殿下が」
ぽつりと、言葉が出る。
考える前に。
自然に。
「おかしいのよ」
「は?」
ルカの眉が動く。
「様子が、少し」
「……ああ」
短く、息を吐く。
「やっと気付いたか」
「気付いた?」
「自覚したんだろ、あいつ」
「……何を?」
本気で分からない声。
ルカは、一瞬だけ黙る。
それから。
小さく笑う。
「さぁな」
「……?」
曖昧なまま、流す。
「……なぁ、リディア」
「なに?」
「お前さ」
一拍。
「距離、近すぎるんだよ」
「……普通よ」
「普通じゃねぇ」
即答。
変わらない。
その言い方も。
「誰に対しても?」
「ええ」
「……あいつにも?」
一瞬。
言葉が止まる。
「……同じよ」
迷いなく、答える。
それが事実だから。
「……ふーん」
ルカは、それ以上何も言わない。
ただ。
少しだけ、視線を逸らす。
何かを考えるように。
「……まぁいい」
軽く肩をすくめる。
「そのままでいろ」
「?」
「どうせ」
一拍。
「勝手に気付く」
「……何に?」
「さぁな」
同じ返し。
それ以上は、言わない。
「……」
納得はしない。
だが。
否定も出来ない。
胸の奥に。
同じ違和感が、残る。
消えないまま。
形も持たないまま。
(……何なのかしら)
答えは、まだない。
ただ。
確かに。
そこにある。
同じように。
何度でも。
繰り返されるように。




