表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/35

20章【明かされる秘密】

20章【明かされる秘密】


「どうして皆、黙ってるんだよ」


 純也は、皆に訊いた。


 どうして自分の問いに対し、彼等は何も答えないのだろうか。

 瑠璃が逃げ出した後、純也は彼女を追いかけようとした。だが紫苑に止められ、仕方無しに彼らの前にいるしかない。皆が神妙な顔をする中、富塚姫だけがにたにた笑っていた。


「何なんだよ···君たち、絶対に何か隠してるだろ。色々話が食い違ってるんだよ···」

「か、隠していませんよ。私達は何も···」


 夏恋がようやく声を出した時、純也は初めて彼女のことを睨んだ。疑念に満ちた瞳に映り、夏恋はびくりとする。


「夏恋、3回目に僕は君と付き合ったと言っていたね」

「そ、そうです」

「じゃあ1度目は椿?2度目は雪なのかな?で、富塚姫には、5回のループが限度なのに、僕が記憶を差し出してもう一度増やしたと言っていたね。ってことは、今は6回目のループ世界なわけだ」


 純也は冷静に考える。皆が、純也の次の言葉を理解して、口ごもる。


「今が6回目なら、例えばここにいる君達と付き合っていないループ世界で、何かあったの?僕にひた隠しにする何かを、教えてくれ」


 皆が隠していることには、瑠璃が関係しているのだろう。瑠璃を遠ざけようとしていることは明らかだったし、3人の少女が瑠璃を毛嫌いしていた。純也の以前の記憶によると、彼女達に接点などないはずだ。


「···とりあえず場所を移しましょう。ここじゃ落ち着いて話せないわ」


 椿は神妙な面持ちのまま、提案した。確かに自分たちはずっと駅前で立ちっぱなしだった。椿の提案に乗り、一同は場所を移すことになった。

 椿が先導したのは、富塚神社の境内だった。駅から歩いてすぐの場所にある境内だが、暗くなった今となっては誰もいない。境内に着いた時、純也はあふれる疑念を口にした。


「何なんだ?瑠璃先輩も富塚姫のことを知っているみたいだった。瑠璃先輩も、もしかしてループして記憶を引き継げてるのか?」


 自分を囲むようにしている彼らに、純也は問いかける。隣にいる雪が、自分の肩を優しく叩く。


「純也ぁ、落ち着いて」

「俺らもどこから話して良いのかわかんねぇんだよ。混乱するのはわかるが、落ち着けって」


 優しくなだめるような彼らの口調に、苛立ちが募った。子供っぽいことだが、自分だけが仲間はずれにされているように思え、孤立感がどうしようもなく嫌になる。


「私様が説明してあげる?」

「やめて、あなたが話すと余計にややこしくなりそうよ」

「そうなの?貴殿たちに都合の悪いことまで私様が話しちゃうから、嫌なだけじゃない?」


 椿は形のいい眉を吊り上げ、憮然としていた。


「···まずね、今は確かに6回目のループよ。お前が今までの記憶を富塚姫に差し出して付け加えた、最後の世界···で合ってるわよね?」

「へぇ、本当のことを話すの?うん、正しいのよ」


 椿先輩、と夏恋が咎めるような声を出した。


「話さざる得ないでしょう。話さないと純也は納得しないで瑠璃先輩に特攻するわ。そういう男よ」

「···確かに、その方が私達にとっては嫌ですけど···」

「話しても、幸いなことに純也にはループの記憶がないのよ。思い入れもないから、賢い選択ができるはずーーもしかしたら、お前は賢い選択をするために記憶を手放したのかもね」


 椿の目に憐憫がはらんだような気がした。純也は言われている意味がわからない。


(選択って···富塚姫も言っていたけど···)


 椿は浅く息をし、言った。


「純也、お前はね···ループ世界の中で、2度も命を落としているのよ」


 ーー純也は、息を詰めた。


「···僕が?えっ?」


 何を言われているか、最初わからなかった。自分という存在が、2度も死んだ?

 記憶がない純也は、そんなこと覚えているはずがない。


「私達はね、純也が死ぬのを2回も見てるの」


 雪が言った。彼女もさすがに間延びした口調ではなく、重々しい口調である。


「1回目の世界では、豊穣祭の帰りにトラックでひかれてしまいました。そして前回···つまり5回目では、豊穣祭中に不審者が校内に入ってきてしまいまして、ナイフで···先輩は···」


 夏恋が、突然わっと泣き出した。溢れ出る涙を抑えきれず、雪が慰めるようにして彼女を抱きしめる。椿も、泣き出した夏恋の頭を優しげに撫でた。


 ーー純也だけが、置き去りにされたように思えた。彼女らの話についていけていない。


 トラックに引かれたり、不審者にナイフで殺されたりした記憶はない。夏恋が泣き出す様子からみても、嘘をついているようでもない。


「···僕が···?」


 死を経験したことがあると思うと、ゾッとした。


 死とは、自分という思考が閉じられてしまうことだ。



 まだ若い自分が死を意識したことはなかったため、もしも明日死ぬような運命であればと考えただけで、恐怖で足が竦む。


「でも···2回···?あとの3回は、僕は、生きていたってことだよね」

「そうだよ。私達の誰かと付き合った時は、純也は死ななかった。トラックも、不審者も、現れなかったんだよ」


 雪が言った。しゃくりあげる夏恋は、涙で瞳を濡らしながら、自分のことを見つめる。


「じゅんちゃん先輩が···死んじゃうのは、あの人と付き合った時だけです···」

「あの人?あの人って···まさか···」


 さすがに純也も顔色を変えた。脳裏に、彼女の姿が浮かぶ。



「月島瑠璃と付き合うと、死は必ず貴公を迎えに来るのよ」



 ーー彼女らが瑠璃を自分から遠ざけていた理由が、ようやかわかった。


 2回も、自分は死んでいたのだ。


 自分の死を見てしまった彼等は、どれほどショックだっただろう。人の死を目前にするだけでも辛いだろうに、親しい友人の死を目撃するだなんてーー正気でいられるはずがない。


「る、瑠璃先輩は!?瑠璃先輩も、もしかして」

「あぁ、一緒に死んでるぜ。2回とも、おめぇと一緒にだよ」


 瑠璃が死んでしまったという事実に、純也は激しく動揺した。


(先輩が、僕と一緒に死んだ?)


 自分1人が死ぬことだって嫌なのに、彼女が亡くなるなんて、絶対に嫌だ。彼女が亡くなって良いはずがない。


「どうやら貴公と月島瑠璃が結ばれると、死が訪れるようなのね。他の子達と添い遂げたのなら、死なないのよ」

「それは、何でなんだよ」

「さあ?私様にはわからないわ。数多いる人の生き死にを管理している訳ではないもの」


 富塚姫の口調は、なんとも無責任なように思えた。神様だからって何度もループできる訳ではないと言っていたがーーやはり全能の神様ではないのだろう。


「でも確かなのは、私達3人の中から選べば大丈夫なのよ、純也」


 純也はハッとした。幼馴染の椿が、まるで今にも泣き出しそうな顔で自分を見ているのだ。


「何でお前が記憶を差し出したのかわからない。けれど、本当は前回が最後だったのに、お前は記憶を差し出すことで生き返ることができた。お前が死ぬところを、もう見たくないのよ」


 ーー自分は2回も、彼女たちの前で死んでしまったのだ。


 それが彼女たちに深い傷を与え、苦しめているようだった。自分を救おうとしてくれている椿たちを、純也は無碍にできようか。


(瑠璃先輩と付き合わなければ、死なない?)


 周囲が瑠璃と自分を遠ざけようとしている理由はわかった。だが、純也の中では新たな疑問が生まれた。


(僕はそもそも瑠璃先輩が好きなのか?そして、瑠璃先輩も、僕のことをーー?)


 2度死んだということは、2度交際しているということだ。


 幼馴染の椿ではなく、後輩の夏恋でもなく、クラスメイトの雪でもなく、瑠璃と付き合う。


 不思議と純也の中で「誰と付き合うか」と言われたら、1番しっくりくるのは、紛れもなく瑠璃だった。


 優しく、自分のことを気遣ってくれる瑠璃。

 3人の少女達とは、違う彼女。


(僕は···)


 真実を知って、どうしたら良いというのだろう。


次の話は、本日の21時更新予定です('ω')ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ