第39話 俺に踏まれた町と、俺が踏まれた町
『プシュー』
あ、身体が動せる。
ロリ天使め、また自分で話の流れを作っておいて全部俺に丸投げしやがって……。
俺は手をブンブンと振り回したり、歩いたりする。
マントのせいだろうか、この王族の服はずっしりと重い。
――しかし、この状況――。
「「うおおおおお!」」
「パーティ結成完了だな、勇者くん!」
「見て見て! あの女の子たち凄く可愛い!」
「ハーレムパーティじゃないか!」
「これだけ実力者がいれば町の平和も安泰だ!」
見渡す限り、人、人、人。
数万人が俺を見ている。
「「「(ジーッ……)」」」
39人の女の子たちも見ている。
「まさに驚愕千万……! 想像を絶する強さと、胆力……! すべてが拙僧の理解を超えております……! さすがは勇者様……!」
グインも見ている。
「勇者様……! やっぱりああいう感じの可愛らしい女の子が好みなんですね……!」
イノビーも見ている。
ちょっと勘違いもされている。
「誠司さん、応援してますね☆」
ロリ天使が俺にエールを送る。
いや、お前はなんで他人事なんだよ。
「えー、コホン……」
俺は少し咳払いをしてから、数万人の観客に向かって口を開いた。
「町のみんな! 俺の決闘をわざわざ見に来てもらって、心より感謝する! 俺が勝てたのはみんなの声援のおかげだ! これから俺は町のみんなのために尽力しよう!」
少し息を吸い込んで、言葉を続ける。
「あらためて、みんな……今日は本当にありがとうッ!」
そう言って、俺はペコリと頭を下げた。
「「「うぉおおおおおおおおおお!!」」」
「勇者様、これからもよろしくね!」
「凄く楽しかった~!」
「勇者くん、最高ッ!」
ふう、なんとか締めの挨拶はできた。
あがり症なほうではあるが、さっきロリ天使によって神輿の上の羞恥プレイを受けた後なので、既にそんな感覚は麻痺している。
さて、帰るか……。
俺はグインのほうへ向いた。
「おい、グイン! 城へ引き上げるぞ!」
「はっ! 承知しました……!」
「あと、ここにいる39人の女の子たちも城へ案内してくれ! 賓客扱いで頼む!」
「もちろん、そのつもりでございます……! 委細承知しました……!」
正直、39人の女の子を仲間に引き入れることについて、俺はかなり抵抗がある。
だが、さすがにこの話の流れの中、このタイミングでの反故はできない。
なので、とりあえず女の子たちには賓客として城で過ごしてもらおう。
しかし、ロリ天使め……。
妙な話の流れを作りやがって……。
部屋に戻ったらスーパー説教タイムを開幕してやる。
*
部屋へ戻った。
夕方を過ぎ、日は沈みかけているようなので、俺は部屋の灯りを1つずつ点けていった。
と、いうわけで……。
「おい! ロリ天使!」
「は~い、呼ばれました~! ロリ天使です~☆」
道具袋からロリ天使はピョコンと顔を出した。
「スーパー説教タイムの開幕だッ! テーブルの上に座れ!」
「お、説教プレイですね? 分かりました~!」
そんなプレイは無い。
「ガチ説教だ。いいからそこに座りなさい」
「は~い、分かりました~☆」
本当に分かってるのか?
ロリ天使は申し訳程度の羽をピコピコさせながら、ふわふわとテーブルの上へ移動した。
『ドシンッ!』
俺はソファーに音を立てながら座る。
じろりと、ロリ天使を見た。
ロリ天使はニコニコしながらテーブルの上に座っている。
「……さて、ロリ天使よ。俺が何に対して怒っているか分かるか?」
ロリ天使は頭に手をやり、少しはにかんで答える。
「えーと、女の子たちを一気に39人もハーレムに加えちゃったことですかね? えへへ……」
お、分かってるじゃねーか。
ボケで返すのかと思ってたぞ。
「そうだ。俺は『ハーレムなんて望んでない』って言ったよな?」
「えっ?」
ロリ天使が呆気にとられた顔をしている。
「えっ?」
思わず俺も同じ反応をした。
「わたし、誠司さんとの会話は一字一句覚えてますけど、『ハーレムなんて望んでない』なんて一言も言ってないですよね?」
「はっ? いや、そんなはずは……」
ロリ天使との会話を思い出してみる……。
……あっ……。
「――そういえば、言ってねえ!」
そうだ、イノビーをハーレムに加える気がないと言った記憶はあるが、たしかにハーレムそのものを否定した記憶はない。
心の中ではハーレムを否定していたが、結局ロリ天使に対してはYesもNoも突きつけていなかった。
「ほら~! わたしは、誠司さんが不利益を被るようなことはしませんよ! わたしは誠司さん専用の天使です! 意図に背いたりしませんよ~!」
ロリ天使は手をブンブンと振り回し、キャッキャと笑った。
「うう……! だが、一気に39人もハーレムに加えるのはどうなんだ? さすがにこの人数の多さは異様だ。気苦労のほうが多くなるだろう?」
「ああ、あれはですね、39人の女の子たちを守るためなんですよ~!」
「……ええ? どういうことだ?」
「だって、操られていたとはいえ、勇者を騙って、本物の勇者に危害を加えたグループの一味ですもん。あそこで強制的にでも誠司さんの仲間にしないと、絶対に王国に捕まってましたよね?」
「あ……」
ロリ天使はにっこり笑って言葉を続ける。
「王国は誠司さんに対する扱いの丁重さが異常です。あのままいけば先ほどの理由で、きっと彼女たち全員が不利益を被ることは間違いありませんでした。
でも、王国の沙汰が下る前に、あのタイミングで当事者である勇者が彼女たちを仲間に引き入れると宣言してしまえば、もう王国は手出しをできません。
そう、あれこそが、39人の女の子たちを救うベストなソリューションなのです~☆」
「じゃあ、一心同体だとか、寝食を共にすると言ったのは……」
「はい、あれも王国に女の子たちとの親密さをアピールするためです。そうなれば、彼女たちに王国はもう絶対手出しできませんから!」
そこまで考えていたのか……!
ロリ天使、なんてやつだ……。
それに引き換え、俺は自分のことばかり……。
「そうだったのか……!」
俺は、心から感嘆した。
ロリ天使に対して畏敬の念が芽生え始めている。
「……そういえば、宣言は2つあったよな? もう1つの『国を守る』っていう宣言はどういうことなんだ?
たしかに召喚されたって設定である以上、そういう義務もあると思うが、まだ王国は俺について何も言っていない。
王国に先行して、町民に宣言した意味はなんだ?」
「ああ、あれは王国を牽制するためです」
「え? 王国を牽制……? なんの意味があるんだ?」
「そうですね……。たとえばですよ? 王国が誠司さんの思惑とは違うことを宣言するかもしれないじゃないですか。もしかしたら、他の国を攻め滅ぼすために勇者である誠司さんをプロパガンダとして利用するかもしれない……!
だからこそ、先に誠司さん本人は町民を守るという大義名分を、あそこで直接宣言する必要があったんです。
そうすると、王国が他国へ侵略するためのプロパガンダとして勇者を利用しようとしても、効果が薄くなっちゃいますよね! そのための牽制です~!」
ロリ天使……そこまで先を読んでいたのか……!
「王国が俺を利用するという可能性を先読みしての宣言だったのか……」
「はい! わたし、王国とか全く信用していないですから。わたしが信用しているのは、誠司さんだけです~☆」
ロリ天使……。
なんか、かなわないな。俺。
「……うっ、う……」
俺は自然と涙をポタポタと流した。
自己中心的な考えのもと、ロリ天使を叱咤しようとした愚かな自分自身への怒りと悲しみで……。
「――ど、どうしたんですか!? 誠司さん!」
ソファーに座りテーブルの上に突っ伏した俺を、ロリ天使は心配する。
「ロリ天使は、凄いよ。そこまで色々なことを考えて、行動してさ……。
ロリ天使こそ、本物の勇者だよ……!
俺は、みんなに尊敬されるような勇者には、なれない……!」
もちろん、俺は別に勇者になりたかったわけではない。
ただ、平和に暮らしたいだけだ。
でも、それは俺が一人で閉じこもっているただのワガママだったのかな。
平和に暮らすために、周りの人を不幸にしても、それでヨシ、なんてさ。
俺は周りの人のことを、一切考えていなかった。
自分への愚かさ、悔しさで、胸が痛い……!
「そんなこと、ないですよ……!」
ロリ天使が俺の頭をポンポンと優しく叩く。
「誠司さんは、ご自身のことをそういう風に言いますが、わたしは誠司さんが心優しいことを、誰よりも知っていますよ……」
「ロリ天使……?」
「たとえば、誠司さんは7歳の頃……自動車に片足を轢かれて怪我をした子猫を拾って、親に怒られながらも、子猫が歩けるようになるまで部屋でこっそり介抱をしていましたよね」
「――えっ!」
なんで、知ってるんだ……?
そんな昔のこと……。
「そして、高校生の時に川で溺れていた子どもを、危険を顧みず助けましたよね。
あの後、人命救助で市から表彰された時、恥ずかしがり屋の誠司さんは顔を真っ赤にしながら表彰状を受け取っていて、凄く可愛かったです……!」
「そんなことまで……! なんで知ってるんだ!?」
「えへへ。だって、わたし、誠司さんの専属天使ですもん。誠司さんが生まれてからいままで、ずっと担当していました。これからもそうです。
ずっと見ていたら、誠司さんが可愛くて……。死後は天使が姿を隠す縛りもないので、これからは自由気ままに誠司さんに尽くせます☆
あ、もちろん、誠司さんが400年に一度のミラクルを引き当てたのは、わたしのエコ贔屓じゃなくて本当に偶然ですよ! でも、引き当てたのが誠司さんで、とても嬉しかったです……!」
「そう……だったのか……!」
本当に誰よりも俺のことを知っていたのか。
「うん、誠司さんは優しくて可愛くて、わたし、とっても大好きです~☆ あ、でも、大学生になってから人妻相手に不倫を繰り返すのはどうかと思いましたけどね~!
あれのせいでせっかく溜まった善行ポイントが50くらいは減りましたよ!」
「……本当に何でも知ってるんだな」
ロリ天使はにっこり笑う。
「はい、そうです! そして、誠司さんは社会人になってから、だんだんと疲弊して、誰よりも平和な日々や愛情を求めていたことも知っています。
だからこそ、これからの誠司さんの人生には安心安全、愛情満点のハーレム生活をプレゼントしたいんです~!」
いや、それはどうかと思うけどな。
「ハーレムは置いておくとして……。俺はロリ天使にそこまで尽くしてもらっても、何も恩返しができないかもしれない……! そんな俺に尽くされる資格なんて、ない……!」
「ノーノー! 誠司さんは可愛いです! だからこそ、無償の愛情をプレゼントしまくりたいんです~☆
それに、言ったじゃないですか、誠司さんのことが大好きですって。損得勘定でお互いの利益を考える、なんて思慮の、全く外側に存在してるんですよ? わたし」
「ロリ天使……」
体長12cmほどのロリ天使が、とても大きな存在に見える。
「俺、勇者になれるかなぁ……」
『勇者』……それは民衆から愛されるシンボル。ヒーローだ。
俺は、そんな人間になれるのだろうか。
いや、なれるはずがないんだ……。
異世界に来てからの成果は、すべてロリ天使によるものなのだから。
「なれますよ! っていうか現に、もう、なってるじゃないですか☆」
「あ、いや、でも……いままでの功績はロリ天使が――」
俺がそう言いかけると、ロリ天使はその小さな人差し指で、俺の唇にピタっとくっつけた。
「うふふ……いいじゃないですか、勇者が『二人一役』でも……!
すべてを抱え込む必要なんて一切ありません。わたしと、誠司さんで……二人合わせて『勇者』です!」
「ロリ天使……!」
ロリ天使は「えへへ」と笑う。
「さあて~! 誠司さんには明日からも楽しい毎日が待ってますよ~! ツアーガイドはわたしに任せてください!
わたしは助手として誠司さんの異世界生活を平和に、楽しく、盛り上げていきますね~!」
「ああ、ロリ天使……これからも、よろしくな!」
「はい! よろしくされました~!」
『パシッ』
俺とロリ天使は、お互いの手でハイタッチをした。
「■第2章 イキり勇者編」はこれで終了となります。
次回から新章です。




