第40話 ロリ天使さん、壊れる!(前編)
ニセ勇者との決闘から一夜明け、俺は城の庭園を歩いている。
天気はとてもいい。
散歩日和だ。
こんな日にイノビーとデートできたら最高だろうな。
だが、俺はいま1人だ。
……ちょっと、1人になって考えたいことができたからだ。
俺は考え事を始める時は、いつも決まって散歩をする。
身体を動かすと、脳内の血流が良くなるためか、思考がいつもよりとてもクリアになるんだ。
「誠司さ〜ん……」
前方にある木の枝の影から、体長およそ12cmのロリ天使がピョコっと飛び出してきた。
背中から生やしている羽をピコピコ動かして、宙を漂っている。
出たな、変態が。
……無視。
俺はその場でクルっと180度回転すると、今度は逆方向へと歩いた。
「うえ〜ん! 誠司さ〜ん! 無視しないでください〜!」
ロリ天使は半泣きになりながら飛び付いてくる。
指で背中をツンツンと突いてくる。
無視。
ツンツン、ツン、ツツン、ツン、ツンツン。
ロリ天使がリズミカルに俺の背中を突っついてくるが、無視。
「うえ~ん」
『シュバッ』
!?
ピコピコと羽を動かし、謎の超スピードで一瞬のうちに俺の前方へ移動した。
むぅ……。
無視。
再び俺は身体をクルっと180度回転し、また逆方向へと歩き出した。
「え~ん」
『シュバッ』
180度回転。
「え~ん」
『シュバッ』
90度回転。
「え~ん」
『シュバッ』
270度回転。
「え~ん」
『シュバッ』
360度小刻みに回転。
「え~ん」
『シュバババババッ』
「――ええい! うっとおしい!」
「すみませ〜ん! でも、誠司さんと仲直りしたくて……」
「嘘つけ。俺が(゜Д゜三´ ゜Д゜)をしてるのを見て楽しんでいたんだろ?」
「そんなに性格悪くないですよ~! 本当に、本当に仲直りしたいんです~! うっ……うえ~ん!」
ロリ天使は両手で顔を塞ぎ、おいおい泣いた。
「わざとらしい泣き真似だな……。だいたい、昨日の痴態はなんなんだ! 約束を5秒で破りやがって……!」
俺がそう言うと、ロリ天使は頭をポリポリとかいて苦笑いを浮かべる。
「え~と、あれは言葉のあやというかなんというか……えへへ」
「えへへ、じゃないわ!」
本当に、昨夜のロリ天使の奇行には参った……。
そして、強烈に記憶に残ってしまっている。
別のことを考えて昨夜のことを忘れようとしても、どうやら無理そうだ。
もう目を閉じるだけで、昨日の夕食後からの記憶が鮮明に思い出せてしまう――。
*
「ふぅ、食った食った……。相変わらずやけに量の多い夕食だな」
ニセ勇者との戦いが終わって部屋に戻った俺は、そのまま部屋から出ずにロリ天使と夕食をとっていた。
ロリ天使は、小さな両手を使って、ピクルスをポリポリと食べている。
「ところで、ロリ天使は普通に飯を食ってるけど、その食ってるやつって最終的にどこへ行くんだ?」
「え~! 誠司さん、レディーに対してなんて質問を~!」
ロリ天使はプリプリと怒っている。
可愛い。
そんなロリ天使は既に、自身の身体の体積以上の食事をとっていた。
なのに身体の大きさは変わっていない。
あの12cmの体内のどこに収まっているんだ?
純粋に気になるわ。
「明らかに自分の体積以上に食ってるよな? どうなってるんだ? その身体」
「ふふん、わたしが食べたものは全て、天界の不思議パワー的なアレで一瞬にしてエネルギーになります! なので太らないし、お手洗いも必要ありません~☆」
「なるほど、さすが不思議存在」
理屈を超越した存在に対して、理屈で考えるのは無駄なようだ。
――『コン、コン、コン、コン』
すると、突然ドアからノック音が聞こえてきた。
……あれ、メイドかな? でも、食膳を下げるのってこんなに早かったっけ……?
まぁ、いいか。
「入れ」
俺がそう言うと、
「「「はっ!」」」
と、数十人の女の子の声が聞こえた。
あ、まさか……。
そして、『ガチャリ』とドアが開く。
そこに見えたのは、例の39人の女の子たちだった。
やっぱり。
「――セージ様、御養生のところ失礼いたします! 我ら、一心同体の主であらせられるセージ様の親衛隊にございます! 本日は我らが拝命した役儀の折、初日のご挨拶に伺いました!」
そう言って、先頭にいる女の子がペコリと頭を下げると、その後ろにいる数十人の女の子も同調して頭を下げた。
「ああ、お前らか……。あれ? なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「はっ! 本日の御昼頃にニセ勇者ともどもセージ様と邂逅した際、セージ様は御自身で名乗られておいででした!」
ん? ……ああ、裏通りの時か。思い出した。
確かに名乗ってたな、俺。
女の子達も操られてた時の記憶はバッチリ残っているのか。
…………。
それにしても、なんだ?
この子達の服装は……。
女の子たちが着ている服はシースルーのワンピースだった。
……しかも透け具合が半端ではなく下着まで見えている。
全員、ほぼ同じデザインの服だ。
なんなんだ、いったい。
最近のアイドルでもこんなにきわどい服は着てないぞ。
「なんかみんなヤベー服着てるけど、祭りでもあるの?」
俺がそう言うと、先頭にいた子は押し黙った。
そして、だんだんと顔を紅潮させていく。
「は、はい……。わ、私、我ら一同は……」
なんかもじもじしている。
すると、後ろにいた見覚えのある女の子が出てきた。
「シルフィ……。緊張、してる……? わたしが、喋ろうか……」
ああ、この子は確かカチュアって名前だったな。
石にしたり動きを止めたりする女の子だ。
で、先頭にいる女の子がシルフィって名前か。
……覚えきれるかな。39人の名前。
「う、ううん。大丈夫だよ、カチュア。……スーハー、スーハー。
……よし。頑張れ……私……!」
うーん、なぜかデジャヴを感じる。
深呼吸を終えたシルフィは、改めて俺に正対し、俺の目をじっと見つめた。
「セージ様……!」
「はい、セージです」
「……わ、私たちが、今夜から、毎晩……よ、夜伽をお勤めいたします……!」
「はい!?」
おいおい、なんだこりゃ。
全員頭の中にお花でも咲いたのかな。
――あ。まさか、これが『一心同体』、『寝食をともにする』ってやつか?
おいおい、覚悟が速すぎるだろ。
もうちょっと難色を示してくれ。
「――寝食をともにするって約束で来てくれたんだよな……? あ、あはは……あれは添い寝って意味でさぁ……」
俺はやんわりと断った。
――元来、男は30代半ばを過ぎると、歳を重ねてますます性欲をこじらせるやつと、スーッと性欲が薄くなるやつの2種類が存在すると言われている。
もちろん、俺は後者だ。
長年に渡る社畜生活の精神的ストレスによって奪われた損失は大きい。
男が一番自覚するポイントはそこなのだ……。しみじみ。
「……そんな……! でも、さっきセージ様はおっしゃってましたよね? 『キャンキャン喚くな、雌犬ども! あとでたっぷりと愛してやるッ!』って……」
――くそ、ロリ天使め……!
ニセ勇者との決闘の時に、そんな台詞を確かに言っていたな。
「――39人も相手できるかッ! 人数の配分を考えろ!」
ちょっと怒鳴っちゃった。
「いえ、生理中の者もおりますので、正確には31人です……」
「そんな生々しい情報いらねえよ!
ってか人数の問題じゃないからな。俺は確かに『愛してやる』とは言ったが――」
……いや、待てよ。俺。
ここで前言撤回をしても良いが、同じ人間が日も変わらぬうちに違うことを言い始めたら、ちょっと変なやつだと思われるだろう……。
よし、突然体調が悪くなったことにしておこう。
「――あ、ああ。確かにそうは言ったが、なにぶん、ニセ勇者との決闘のあとで少し身体がだるくてな……。首、肩、腰、足の付け根に至るまで凝り固まっているんだ。
あーあ、こう凝ってちゃ動く気がしないな……。このまま素直に寝てしまおう」
よし、これならOKだろう。
ただでさえ俺の気を使ってくる女の子たちだ。
これで身を引いてくれるはず。
「そうなんですね……! それならば、せめて全身を『マッサージ』させてください!」
「え、『マッサージ』……?」
…………。
……それはありだな。
俺は生前、駅前のもみほぐし60分2980円の店でマッサージにハマっていた。
実は結構、肩とか腰とかが凝るタイプだからだ。
だが、死ぬまでの5年間はあまりにも忙し過ぎて結局1度も行くことができなかった。
24時間営業のマッサージ店は残念ながら存在しないのだ。
もし、いまの俺が成仏できない幽霊だとしたら、「死ぬ前にもう1度マッサージを受けたかった……」とか言っちゃう、そんなキャラだったと思う。
5年ぶりのマッサージか……。
正直、かなり興味がある。
いまの身体は若いせいか一切凝ってない。
しかし、死ぬ前に抱いていた未練を1つ断ち切れるのはありかも……。
「本当か!? マッサージなら、OKだ!」
自然と、少しテンション高めにOKしてしまった。
「――え! やったぁ! それじゃあ私たちで、誠心誠意マッサージを勤めさせて頂きますね!」
シルフィが心底嬉しそうにガッツポーズする。
後ろの女の子たちも同様だ。
俺をマッサージできることがそんなに嬉しいのか?
まぁ、悪い気はしないな……。
「それではセージ様、ベッドで横に……あっ――」
そう言うシルフィに対して、不意にカチュアが耳に手をあてた。
そして、そのままカチュアはシルフィに耳打ちした。
どうやら内緒話のようだ……。
「…………」
「……?」
「……、…………。……!」
「……!! ……、…………!」
なんの話だ……?
話を終えると、カチュアはシースルーのポケットから、手に収まるサイズの物体をシルフィに手渡した。
それを受け取ると、シルフィは徐々に赤面する。
なんだなんだ?
「……セージ様……。この国には、『オイルマッサージ』という……、通常のマッサージより、効果の高い、伝統的なマッサージが、あります……」
カチュアだ。
オイルマッサージ……?
もみほぐし60分2980円の店には無かったメニューだな。
オイル、ねぇ……。効果の高いマッサージか……。
「は、はい。セージ様、これを……!」
シルフィは俺にさっきの物体を恥ずかしそうに手渡してきた。
手のひらに収まる、薄い布のような物体だ。
……?
別に、普通の布だよな。
「なんだ? これ。この薄い布みたいなやつ……。パンツ?」
「は、はい、セージ様……! これは紙製のパンツです!
オイルマッサージをする時は、なるべく全身にオイルを塗る必要があるので、使い捨ての薄地の『紙パンツ』を着用するのが普通なんです……!」
そういうものなのか。
ってか用意良すぎだろ。
「俺は召喚された人間だから常識を知らないが、なるほど、これがこの世界の普通なんだな?」
「はい、普通です……!」
「そうか。なら、いいか」
――しかし、なんだ? この紙パンツとやらは。
薄いだけじゃなくて、紙の面積が少なすぎじゃないか?
俺の下腹部にあるバットやらボールやらが、ポジション次第ではポロっと出てしまうではないか……!
俺はシルフィに怪訝な表情を見せながら口を開いた。
「……一応、聞くけど……『健全』なマッサージだよな?」
「は、はい……! け、健全です!」
ふーん……。
まぁ、いいか。




