第38話 ロリ天使が、俺のためのハーレムを勝手に作ってくる!
「まずは、相応しい服装に着替えんとな」
ロリ天使は少しばかり歩いて、先ほど破り捨てた王族の服を拾った。
それを目線の高さまで持ち上げて、口を開く。
「『繕う地の邪法』」
そう唱えると、なんと、ビリビリに破けていた王族の服と、装備していた勇者の鎧があっという間に元通りになった。
おお、値段がやたら高い王族の服が直った!
良かった。グインにどう謝ろうかと考えていたところだった。
しかし、壊れた物でも簡単に直せるのか。
便利だな、魔法……。
そして、ロリ天使はメニューを開き、慣れた手つきで勇者の鎧を外し、王族の服を交換した。
『バサッ……』
メニューで操作した通りに勇者の鎧は謎の空間に吸い込まれ、代わりに王族の服を装備した状態へ戻った。
マントが風でバサバサと揺れている。
「おお、また服が一瞬で……!」
「勇者くん、決着おめでとー!」
「「うぉおおおおお!!」」
ここで俺の勝利をようやく確信したのか、観客たちは沸き上がった。
ニセ勇者が不死身過ぎて、タイミングを掴めていなかったのだろう。
――ロリ天使は大噴水のオブジェのほうを向いた。
「『跳べる猫の邪法』」
そう唱えると、俺の両足からバキバキと筋肉が肥大化していく音が聞こえる。
なんだ? また走るのか?
ロリ天使は腰を落とした。
すると――。
『バヒュンッ!!』
!!
なんと、上へ向かって空高くジャンプした。
異常な跳躍力だ。
気づけばもう、高さ50mくらいは跳んでいる……!
弧を描くような軌道で綺麗に身体を跳躍させると、ロリ天使は大噴水のオブジェの最上部へと静かに着地した。
着地した場所は、大噴水の上に立つ女神の像――手のひらの上だ。
とても高い。
40mくらいはある。
ここまで高ければ十分に町を見渡せるだろう。
「「おおお!」」
「あんなに高い場所までジャンプを!?」
「なんて身体能力だ。さすが勇者様だな」
先ほどから沸き続けている観客の歓声に応えるように、ロリ天使は両手を広げた。
「――勇者を決する決闘は、これにて決着した! 見ての通り、我の勝ちだッ!!」
勝利宣言をして、ロリ天使がぐっと握ったこぶしを掲げる。
すると観客は、いままで以上の歓声とともに盛大に沸いた。
「「「うぉおおおおおおおおおお――!!」」」
……改めて見ると凄い人数だ。
何万人いるんだ?
今更だが、なんか恥ずかしくなってきた。
「下界のものどもよ! 観戦を感謝する! 我が勝利できたのは、みんなの応援のおかげだ!
改めて……感謝する! ありがとうッ!」
「「「うおおお――!!」」」
『『『パチパチパチ』』』
おお、なんかロリ天使のキャラに似合わん台詞だが、いいぞ。
町の人が大勢いるし、ここでの印象は大事だもんな。
「ところで……。この場を借りて、1つ宣言をしておきたいことがある。それは、我のことについてだ……!」
ん……?
なんだなんだ?
「じきに王国から発表があるとは思うが……。実は、我は……こことは別の世界、異世界から召喚された勇者だ!」
あ、それ言うんだ……。
「「「ええ~~!?」」」
観客は、まるで昼のバラエティ番組のようなリアクションをした。
ロリ天使は王族のマントをはためかせながら話を続ける。
「異世界から来たが故に、我はこの世界での作法や常識を知らない……!
もし、我がこの先、不作法な物言いをしたとしたら、それは無知から来る空言だ。その時は遠慮なく注意、指導、鞭撻をしてほしい」
おお、なるほど……!
先に自分が異世界人だとカミングアウトしておくことで、生活をしやすくする狙いか?
たしかに、このままだとこの世界の常識を追っかけるのに精一杯だっただろうからな。
これで頑張ることが1つ減ったかもしれない。
「この町の人間は勇者くんを歓迎するよ!」
「この世界の常識なら私たちが教えてあげるね~!」
「腹が減ったらうちの店に来い! 美味い料理を食わせてやる!」
「この町の観光名所だったら任せて~!」
よし、受け入れてもらえた!
平和な日々に一歩近づいた!
「ありがとう、ありがとう……! 下界の人間の理解があって我も助かる! みんなの恩情に報い、我は1つ約束をしよう!
それは……『この国を脅威から守る』という約束だ! もちろん、我は異世界から来たばかり故、この世界のことをまだよくは知らない。
しかし、勇者である我を必要としてくれるのであれば、我は存分に力を揮おう。この命に変えてでも人々を守る! それが約束だ!」
ロリ天使がそう宣言すると、観客はいままで以上に沸き立った。
「「「うぉおおおおおおおおおお!!」」」
「さすが勇者様ッ!!」
「これで枕を高くして眠れるぜ!」
「これで、この町はもっと安全になるわね!」
ロリ天使が言うことはもっともだ。
王国が勇者である俺を召喚したという設定である以上、俺もこの責任からは逃れられないと思っていた。
面倒だからやらないは通用しないだろうしな。
元々覚悟はしていた部分だ。
しかし……王国の許可なく、こういうことを先行して宣言して大丈夫か?
何かロリ天使にも考えがあるのだろう。
――観客の反応からロリ天使は手ごたえを感じたのか、少し笑みを浮かべた。
「ああ! 下界のみんなよ……安心せよ! 絶対の強者たる我の守護により、この国は永遠の安寧に包まれる!
民よ、歓喜せよ! この安寧の生活に一点の曇りも立ち入らせないことを、勇者である我が保証しよう!
笑え! はしゃげ! スキップせよ! この日この時より、この国は、この我に守護されるッ!!」
「「「うぉおおおおおおおおおお!!」」」
『『『パチパチパチパチパチパチ』』』
さすがに、大見得を切りすぎな気がしないでもないが、ロリ天使にも考えがあるのだろう……たぶん。
「……さて、次に2つ目の宣言だ……」
ん?
まだ何かあるのか?
「我の身体は一つしかない。一人で国を万遍なく守護するには限界がある。なので、我にはあと何人かの仲間が必要だ」
ほお……。
うん、まあ、たしかに必要かもな。
「おれも協力するぞ!」
「わたしも!」
「ワシも!」
町民の中で腕に覚えがありそうな人たちが何人か手を上げた。
他の観客はまた大いに沸き、パチパチと拍手も起こる。
――しかし、ロリ天使はそれらを手で静止するようなポーズをした。
「自ら率先しての立候補、心より感謝する! とても嬉しく思う。しかし、実はもう誰を仲間にするか、我は既に決めてある!」
……え?
誰だよ。それは。
「――そこにいる、39匹の雌犬どもよ! 前に出よッ!」
――え?
「「「…………!」」」
すると、ニセ勇者の親衛隊だった女の子たちは恐る恐る、最下段のエリアへと降りてきた。
ぞろぞろと、総勢39名、その全員が大噴水の前へと集まり、整列していく。
「ふふ、全員いるな。よし……!」
そう呟くとロリ天使は、大噴水の上から不意に飛び降りた。
『ドン!!』
着地した瞬間に轟音が鳴り、地面にクレーターができる。
そしてロリ天使は39人の女の子の前に立って、マントを広げた。
「39匹の雌犬どもよ! いま、この時より貴様らの飼い主はこの我だ! 我の手足となり、ともにこの下界を守れ!
しかし! もし、この決定に異議がある場合は直ちに申し出ろ! 遠慮はいらんッ! 貴様たちは自分で考えて、自身の人生に結論を下すのだ!」
おいおいッ!
また、何を言ってるんだ? ロリ天使……!
……いや、何か考えがあるのか……?
しかし、シチュエーション的に、パワハラが過ぎないか?
――女の子たちはお互いの顔を見合わせた。
終始無言で、それぞれがアイコンタクトのみでコミュニケーションをしているように見えた。
……思っていたよりも嫌な顔はしていないな……。
「「「うん……!」」」
どうやら意見がまとまったようだ。
39人いる女の子の内、リーダー格っぽい女剣士が一歩前へ出た。
そして、胸に手を当て、息を大きく吸い込み、口を開く。
「勇者様! 我ら39人、全員ともが勇者様にお仕えする決意です! 頂いた御命令に対し、何一つ異議はございません!」
それを受けて、ロリ天使は悦に入った表情を浮かべる。
「――はっはっは! よくぞ言った、ならば決定だッ!
これより、貴様らの目は我の姿を見るためにあり、貴様らの耳は我の言葉を聞くためにある!
心に刻んだ者から、即刻、視座を下げよ!」
「「「はっ!!」」」
『『『バサアッ!』』』
女の子39人が全員片膝をつき、頭を下げた……。
すると、ロリ天使はとても満足そうな表情をする。
ロリ天使……。いや、まさかな……。
うん。これも、きっと未来へ繋げる必要な行為なんだ。たぶん。
信じよう、ロリ天使を……!
「聞け! 雌犬どもよ! 同じ志を共有する我ら40人は、これより一心同体となる! 貴様らは我の手足となり、余分な思慮の一切を捨てよ! これからの夢と指針は、すべて我が与えてやる!」
暴君かな?
女の子たちは元気よく答える。
「「「はい!!」」」
物わかり良すぎだろ!
もう少し難色を示せよ!
「よくぞ言った! 我らは一心同体だ! これから貴様らには寝食も我と共にしてもらおう!」
ロリ天使さん!?
いやいや、明らかに仲間『以上』のことを求めてないか?
「「「はい! 承知しました!!」」」
承知しちゃった。
さすがに、ロリ天使……これはアウツ……!
弁解の余地がない。
この変態が……!
――いやいや、待て。
邪推が過ぎるぞ、俺……!
ロリ天使のことをもっと信頼するんだ……!
一見、下世話な欲望に見えたとしても、実はもっと深い考えがあるに違いないんだ……!
ロリ天使は、そんな下劣な奴じゃない……!
――すると、ロリ天使は突然後ろへ振り向き、俺にだけ聞こえる小さな声で囁き始めた。
「誠司さん、やりましたね! 一気にハーレム人口が総勢40人超えです! しかも全員めっちゃ可愛いです!
これは、もう毎日が楽しくて仕方ないですね! 以上、ロリ天使でした〜★」
あ、だめだわ。
完全にそっちだったわ。
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(以下、特に本編には関係のない雑記)
★リスティーゼ王国の観光名所その1★
『ニセ勇者のオブジェ』
■内容
リスティーゼ王国敷地内の一般開放エリアに設置されているオブジェ。
怪しげな骨の形で構成された鉄製の牢屋と、その中にいるニセ勇者の石像が見どころ。なお、この石像は本物のニセ勇者である。
伝説の勇者様と大噴水広場で決闘をしたところ、勇者様の怒りを買ってしまい石にされたもの。
その顔の表情は絶望に染まっており、王国の一般開放エリアにある展示物の中でも数少ない『ホラー』を連想させるものとして、10代の少年少女を中心に人気のようである。
■観光可能時間帯
平日・休日問わず10時~20時(※)
(※)毎月5日は清掃・メンテナンス日のため終日閉鎖。
■備考
・お土産コーナーにはニセ勇者が持っていたレプリカの剣を販売しています。観光客からは人気が高く、同店舗で最も多く売れているようです。昼過ぎまでに在庫が底を付く日も目立っていることから、王国に管理を委託されている商工組合は値上げを検討しているとのことです。
・小銭を鉄製の牢屋内に投げ入れるお客様がおられますが、牢屋の中に物を入れると、どういうわけか二度と取り出すことができないので、物は投げ入れないようご配慮をお願いします。
■町民の方たちの声
「ニセ勇者の顔が怖くてびっくりした」
――女の子(7)
「あの決闘はスカッとしたわ。石像を見に行くとそれを思い出してスッキリするの」
――格闘家好きのマダム(46)
「奴を見ると安心するんだ。ああ、おれよりも下がいるんだなってね」
――無職(33)
「「「超怖〜い!」」」
――スイーツ好きの女学生たち(14〜15)
「勉強しないとニセ勇者みたいになっちゃうよ、と母に言われて見に来ました。実際に見て、ああはなりたくないなと思いました。勉強頑張りますね」
――来年受験を控えている少年(11)