第37話 あっけない決着と、外道の結末!
「タネ明かし……? まさか、オレの知らない間に、何かを仕掛けていたのか!」
ニセ勇者は汗をかきながら捲し立てた。
「違う。自ら破滅を導いたのは貴様自身だ。むしろ……逆に、我は貴様を助けようとしていたのだ」
「はぁ? どういうことだ?」
俺も分からん。
どういうことだ? ロリ天使。
「そう急くな。もう、何をやっても未来は変わらんのだからな……。順を追って説明してやる」
そう言うとロリ天使は、ニセ勇者の着ている服に指をさした。
「全ての原因はその服だ。それが全ての元凶……。もっとも、貴様はそれを、ただの便利な道具だと思っていたようだがな……」
「この、『反撃』の超魔装具が……?」
ニセ勇者は、紫色に変色した手で、自身の服をさすった。
「それは、傷を癒やし、身体を強くするという至れり尽くせりの道具のように感じただろう。
だが、その実、貴様の身体のとあるものを少しずつ奪っていたのだ……!」
「とあるもの……? なんだ、それは!」
「それは『魂』だ」
それを聞いたニセ勇者はキョトンとした顔をした。
「魂……?」
「ピンと来ないか? ……面倒な説明は省くぞ。要は生きるためのエネルギーのようなものだ。
我の目は特別製でな、人間の魂の形が見える。いまの貴様の魂の形は、虫に食い荒らされたようにスカスカだ。この状態では、もうまともに身体を動かすことはできない」
「なんだと……!」
「我がその服の異常性に気づいたのは、貴様が我の初撃で死に、その後生き返った時だ」
ロリ天使は自分の鎖骨辺りで、人差し指をくるくる回した。
「ちょうど、この辺り、服の境目だ。胸から首の部分に歯型を残してポッカリと、魂に穴が空いていた。
そして、魂の噛み口からは、その服の魔力痕が残っていた……!」
「えっ……!」
ニセ勇者は自身の首元をさする。
「その時、我は確信した。貴様は生き返るたびに、その代償として『服に食われている』のだとな。気づいた時、貴様にはすぐに王国の縄にかかるように警告したが、取り合ってもらえなかったな……。
だが、無理もない。どうやら、その服には術者の脳を力と快楽で支配する効能があるらしいからな」
「……うう、君の言う通りかも、しれない……。いま、オレは大変に気分が悪い。体調が絶不調なのも、魂が食われたからなのか……。いまなら冷静に分析できるよ……」
「ああ。体調がよくないのは、貴様の魂が、既に8割から9割を消失しているからだ。歩くことはできても、走ることはできない。
もう、魂の『旨味』をしゃぶりつくしたからこそ、その服は力と快楽を送り込むのを止めたのだろう」
すると、ニセ勇者は哀願するような表情で俺を見つめる。
「治してくれ……!」
「無理だ。回復魔法で魂を癒やすことはできない」
「――ならば、質問に答えてくれ! オレは、この後、いったいどうなるんだ……?」
「そうだな……。はっきり言ってしまおう。そのままの状態であれば、貴様は『死ぬ』。魂を守るべき霊包をここまで食い破られているのだ……。
すぐに死ぬ。既に、噛み口からは少しずつ、空気中へ魂が漏れ出ている。時間の問題だろうな」
「そんな……!」
「運が悪かったな。我はせめて、貴様の魂の傷を癒やそうと、魔法を使ってはいたのだが……」
ロリ天使は左手のひらをニセ勇者に見せる。
「まさか、打ち合っていた時に、ずっとオレの右手を握っていたのは……!」
「そうだ。我は直接触れて魔力を流し、魂の霊包を治そうとしていた。だが、治す力よりも破壊する力のほうが圧倒的に強い。魂を少し治しても、結局すぐに服に食われてしまった」
「君はオレを救おうと……。いや、待てよ……?」
ニセ勇者は、やつれた顔で思案をする。
「矛盾、していないか……? 君はオレを何度も殺そうとしていたじゃないか。魂の傷とやらを治そうとしたのに、なぜ殺そうとしたんだ……!」
そう言われると、ロリ天使は少し含み笑いをする。
「ふふ、ところが矛盾はしていない。人の道に外れた外道の生死に、そもそも我は関心がないのだ。
勝手に死ね……! だが、魂が散り散りになって行方不明になるのは、少し困る」
「えっ……?」
「最近、天界も厳しくてな。行方不明の魂が1人分でも出ようものなら大騒ぎだ。本来、魂は全員もれなく天界、または地獄へ送らなくてはならない。これは鉄の掟だ。
もし、もれてしまえば、この世界の天使には多大な迷惑をかけてしまうだろう。それだけは避けねばならん。天使同士のマナーだ……!」
「…………は……?」
ニセ勇者がポカンとしている。
いまの話、俺にしか分からないだろうな。
ってか、天使って他にもいるのか。
やっぱり変態なのかな。
――少し間を置いてから、ニセ勇者は怪訝な顔をして声を荒げる。
「はぁ!? いったい何のことだ? 『天界』? 『天使』? 何を言っているのか、オレにはさっぱり分からない!」
ニセ勇者の捲し立てる言葉に、ロリ天使は冷ややかに笑い、「それは死ねば分かる。気にするな」とだけ答えた。
「……オレは死にたくない……!」
「外道に救われる道はない。一人で生きる自信がないのなら、貴様は進むべき道を慎重に選ぶべきだったのだ。だが、人生というものは常に一方通行。決して戻れはしない」
「…………うっ……うう……」
ニセ勇者は本当に反省をしているのか、それとも強かな計算か、涙を流し嗚咽を上げ始める。
「さて、そのまま魂が散り散りになってしまうと、さっき言った理由で我も困ってしまうのでな。貴様の魂の分解だけは阻止してやろう……! 『檻成す骰子の邪法』!」
――ロリ天使がそう唱えた瞬間、バゴンッ、という音とともに、ニセ勇者を取り囲む正六面体の鉄格子が出現した。
まるで牢屋、一辺2m程度はある鉄の檻の様相だ。
その檻を形成する鉄パイプのような柱は、それぞれが歪な長細い骨のような形状をしていた。
「な、なんだこれは……!」
突然、牢屋のような入れ物に閉じ込められて、ニセ勇者は慌てる。
金属の骨のような鉄格子に手をかけ広げようとするが、びくともしない。
「おお! また物理魔法か!?」
「敵を閉じ込めた!」
「今度は鉄の檻みたいね」
「純金も作れるのに、あえて鉄なのが渋いね」
純金は作れないけどね。
「……ふふ。この檻は特殊な魔力を帯びていてな。これに閉じ込められた霊的生物は、その身体どころか魂さえも外へ出ることができない。永遠に檻の中だ」
「……なに……?」
「もちろん、これは貴様の魂を治療するのが目的だ。漏れ出た魂が遠くに行かなければ、いずれ元の身体へ還ってくる。そして生きてさえいれば、魂は自然と太り一人前の形に戻る。魂の修繕が済むまで貴様にはここに居てもらおう」
このロリ天使の会話の内容から、生きることができるのだと判断したからか、ニセ勇者の目には途端に活力が沸いた。
「ということは、オレを生かしてくれるんだな!」
その発言を聞くと、ロリ天使は「ふふ……!」と笑う。
「ああ、その通りだ。貴様には『あと50年』、その檻の中にいてもらう。それくらいあれば何とか魂の形を取り繕うことは可能だ」
「え……、ご、ごじゅ……!」
ニセ勇者の表情は絶望に染まる。
「すぐ死ぬよりマシだろう? それとも、いま死にたいのか?」
「……いや、オレは生きたい……! 分かった。この檻の中であっても、オレは甘んじて生活しよう……!」
「あ、いや、少し語弊があったな。貴様には檻の中にいてもらうが、『生活』はさせない。勝手に期待されては困る」
「えっ……?」
ロリ天使は口角を上げる。
「貴様に餌はやらん。生命活動を止めさせてもらう……! もしそのまま50年も生かせば、我の見ていないところで、貴様の悪意が発露せんとも限らん。
貴様には仮死状態でいてもらおう……! 『強制石化魔法』!」
そう唱えた瞬間、『ガリッ!』という音がニセ勇者の足元から聞こえた。
「こ、この魔法は……!」
「ああ、それは貴様がイノビーへかけさせた石化魔法だ。長期間、石化の状態を保てるように莫大な魔力を与えておいた。
あらかじめ言っておくが、我を除く全人類は、この石化を解除することはできん……!
石化は、ゆっくりと効くようにかけておいた。この間、せいぜい自身の行いを悔いるがいい……!」
ニセ勇者の石化は足元から徐々に進んでいった。
既に膝まで固まっている。
「50年後、貴様の石化を解きに来てやろう。その時に、我は貴様を生かすべきか、殺すべきかを判断させてもらう。せいぜい我が喜びそうな文句を考えておくのだな。ははは……!」
「ま、待ってくれ……! 殺さないでくれ! オレはもっと生きたい! もし50年後、ここから出られないまま死ぬなら、オレはそれまで何を楽しみにすればいいんだ……? ここで終わりなら、オレは何のために生まれてきたんだ……?」
「さぁな。貴様の嗜好など知ったことか。
……ああ、そうそう。魔法で石になっても、意識はあるそうだな? そうだ! 石となった貴様を下界の見世物にしてやろう。
人間のいろんな表情を見るのが好きなんだろ? 良かったな、これで観察に専念できるぞ。もっとも、貴様に向けられる人々の表情は、それほど種類があるとは思えんがな……」
ニセ勇者の身体の石化はどんどん進み、やがて首元まで到達していく。
「いやだ、いやだ……! オレはこの人生をもっと、もっと、楽しく、気持ちよく……! あ、ああ――」
『カチン……』
身体が全て石化し、ニセ勇者は何も喋らなくなった。
両手は鉄格子を握り、顔には絶望の表情を貼り付けている……。
……これで、決闘は終わりか。
時間は短かったのかもしれないが、色々なことがあって長く感じた。
ロリ天使が途中、苦戦するようなそぶりを見せたもんだから俺は本気で焦った。
まぁ、結果オーライだからよしとするか……。
「さて……下界のものには勇者として1つ、宣言をしておかなくてはな。
……いや、『2つ』か? ふふ……」
ロリ天使は、何かを企んでいそうな台詞を呟くと、含み笑いをした。




